表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/144

21 記録

「これはなかなか、興味深いねぇ」



 宝生さんに書いてもらったノートをまじまじ眺めながら、森川先生が言う。

 その横から、好奇心に満ちた瞳で恭太さんもノートを眺めていた。


 恭太さんに会うのは、これで3回目。

 自分でとった記録だけでは心もとないので、先日のノートも持参したが正解だったらしい。



「ただこれは、そのお友だちの主観だろうからね。仮定の一つとして観察を進めてみないことには、真偽は断定できないかな」


「それはそうだね。でも、新たな視点だ。これからもその子に観察を頼むことはできそうかな?」


「どうでしょう……」



 正直お願いしたい気持ちはあるけど、迷惑になることは避けたい。

 今は好意的に接してもらえているけど、いつまで続くかはわからないし。



「できる範囲でお願いしてごらん」



 そう言って、小春さんが私の頭を撫でた。

 私の気持ちを察してくれているのだろう。



「そうだね。無理のない程度でいいから、きいてみて」


「わかりました」


「それで、もう少し詳しく話を聞いてもいいかな」


「はい」



 私のつけていた記録とノートを並べて、先生と恭太さんがいくつか質問をしてはメモを取る。

 人とじっくり話をすることに慣れていないから、どこかそわそわ気分だ。

 そしてまだ、恭太さんの整った顔立ちに慣れることはできず、たまに見惚れてしまう。


 本当は今日、恭太さんと凪さんの伯父さんが同席してくれることになっていた。

 でも急に飛行機が欠航になってしまったらしく、海外で足止めをくっているという。

 予定では昨日帰国予定だったそうだったそうだ。

 大変な事態なのではないかと思ったが、凪さん曰くよくあることらしく、ふたりとも心配している様子はない。



「伯父は夜には帰国できるみたいなんですけど」


「そうかぁ。でも明日から学会だからなぁ」



 そう言って、先生が眉間を押さえた。



「伯父さん、またすぐ海外にいっちゃうんでしょ?」


「ええ。もともと日本には5日しか滞在しない予定で」


「で、帰国が伸びたから滞在日数も減っちゃったんだよね?」


「はい……」



 凪さんの返答に、先生はしばらく悩んだ末に続ける。



「次の機会がいつになるかわからないし、いったん君たちだけでその伯父さんに会ってみてはどうだろう?この部屋は使えるように手配しておく。時間帯によっては、僕もリモートで参加できるかもしれないし」


「いいんですか?」



 先生は頷き、いくつか条件をあげた。


 部屋の様子を記録の一環として撮影すること。

 病院関係者を数名同席させること。

 体調に異変があればすぐに知らせ、適切な処置を受けること。



「もちろん、先方の了承をもらえればの話だけど」


「聞いてみます!でも伯父はおおらかっていうか、さっくりした人なので大丈夫だと思います」


「それは心強い」



 ははっと先生が笑う。

 そうして私の記録とノートを手に取った。



「これは資料の一つとしてコピーをとらせてもらうけど、構わない?よければその伯父さんにも事前に目を通してもらいたいけど」


「渡しておきます」


「うん、頼むよ」



 そう言って、先生が笑いかけると、凪さんがうっすら頬を染めた。

 あれ?と思ったけど、野暮になりそうなので見て見ぬふりをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ