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18 もやの形

 席替えから2日。

 今日も宝生さんは、楽しそうに私を眺めている。

 最初は何かにつけて宝生さんを止めようとしていた子たちも、最近は諦めたらしく彼女の好きにさせているようだ。

 それどころか、なぜか今日は彼女たちにまで挨拶されてしまった。



「明日のお休みって、何する予定?」


「え?明日?」



 不意に宝生さんに訊ねられた。

 明日は何の予定もない。

 いつものように、大人しく家で過ごすことになるだろう。


 そう答えると、彼女は満面の笑みで言った。



「暇なら、いっしょに遊ばない?」


「……へ?」


「明日部活休みだし、かすみんのこともっと知りたいし」



 初日は「霧山さん」と呼んでいた宝生さんだが、翌日には「かすみん」呼びになっていた。

 驚いたけど、初めてつけられたあだ名への嬉しさが勝って指摘できず、そのまま定着してしまった。



「……私、出かけるの苦手で」



 気を悪くさせるかもしれないと思いつつも、正直に返す。

 しかし宝生さんは気にした様子もなく「そっかぁ」と呟いた。

 それから少し考えたのち、何かを思いついたようにぱっと明るい顔をした。



「じゃあ、かすみんの家に遊びに行っていい?」


「へ?え、家?」


「うん。それならお出かけしなくていいでしょ?」



 まさに名案、という風に話しているが、いきなり家?

 一般的な対人関係に疎い私でも、距離の詰め方が早すぎることがわかる。

 返事に困っていると、上目遣いで「だめかな?」と追い打ちをかけられてしまった。

 まるで小動物のようなかわいさで、私は気づくと了承していたのだった。





 翌日の昼過ぎ。

 私は最寄りのバス停まで来ていた。

 住所を教えてくれたら家まで行けると宝生さんは言ってくれたのだが、我が家は少し入り組んだ場所にあってわかりにくいので、迎えに行くことにしたのだ。


 正直、友だちが家に遊びにくるのなんて、小学生以来だ。

 しかも当時の友だちは雪成だけ。

 緊張と興奮がごちゃ混ぜになったような気分で立っていると、バスが到着した。



「かすみん、お迎えありがとー」



 へにゃっと笑ってバスから降りてきた宝生さんは、だぼっとしたパーカーとスキニーパンツを合わせたカジュアルな装いだ。

 もっとふわふわのスカートなんかを履いているイメージだったけど、カジュアルな格好もよく似合っている。



「じゃあ、霧山家にしゅっぱーつ!」


「しゅ、しゅっぱーつ」



 元気いっぱいの宝生さんにためらいつつも、自然と顔がにやけそうになる。

 まるで普通の女子高生にでもなったような気分だ。


 でもふいに、路上駐車している車の窓にうつった自分の姿を見て我に返る。

 こんなもやに包まれていて、何が普通の女子高生だ。



「あれ?なんかへこんでる?」



 うつむいた私の顔を覗き込むように、宝生さんが言った。

 びっくりして顔を上げると、彼女はにっと笑う。



「なん、で……?」


「だってかすみん、わかりやすいんだもん」


「わかりやすい?」


「そ。なんか落ち込んでそうなとき、かすみちゃんのそれ、へろへろ~って広がるんだもん」


「……初めて言われたんだけど……」


「ほんと?」



 もやはただ広がったり消えたりを繰り返しているのだと思っていたけど、宝生さんがいうには、動きに特徴があるらしい。

 もやの観察に行き詰っていた私にとって、すごく興味深い話だ。

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