17 友だち
「ちょっと紅葉、やめなよ」
「そうだよ。霧山さんも困ってるし」
休み時間に入ってもなお私に話しかける宝生さんに、ほかのクラスメイトが囁く。
思い切り私から目をそらしている彼女たちは、確か宝生さんとよくいっしょにいる子たちだ。
怖いだろうに、宝生さんを助けようと必死な様子を見る限り、友人思いのいい子たちなのだろう。
まぁ、私には関係ないことだけど。
そもそも私、悪者でも何でもないし。
余計なことを考えてしまったせいで、またもやが広がってきてしまった。
しまった、と思うと同時に「ひっ」と短い悲鳴があがる。
しかしそれに続いて「わあ」という感嘆の声が耳に響いた。
「またぶわってなった!ね、きれいだよね!」
宝生さんに同意を求められた子たちは、肯定も否定もできずにひきつった顔をしている。
しかし宝生さんが私のもやに手を伸ばした瞬間、我に返ったのか慌てて宝生さんを引き留めた。
「ちょ、危ないって!」
「あ、ちょっと……」
「あ、その……ご、ごめ……」
思わず出た言葉が失言だったと自覚したみたいで、泣きそうになっている。
このまま呪われるとでも思っているのだろうか。
遠慮している様子が逆に癪に触って、だんだんムカついてきた。
文句を言うつもりはないけど、滲み出るもやを抑えられない。
軽く深呼吸して、気分を切り替えるため、ゆっくりと頭の中で6まで数えた。
なんでも、人の怒りのピークは6秒しか続かないらしいから、怒りが爆発しそうなときは6秒待つといいのだそうだ。
これはこの前の病院で、森川先生が教えてくれたこと。
「わあ~」
相変わらず宝生さんは、呑気な声を上げていて、毒気を抜かれる。
目の前に広がるもやは、いつもと同じくらいに落ち着いていた。
同級生たちはほっとした顔をしていたが、まだその表情には恐怖の色が濃い。
「ねえ、それって危ないの?」
私のもやを指さしながら、宝生さんが首を傾げる。
「危なくないよ」
私はそう答えたけど、宝生さんの友だちは信じられない様子だ。
こういう反応には慣れっこだけど、やっぱり傷つくものは傷つく。
「危なくないなら触ってもいい?」
「……へ?」
「ずっと気になってたんだよねぇ」
そう言って、宝生さんが私のもやに躊躇なく触れた。
彼女の友だちは声にならない悲鳴を上げていたけど、宝生さん自身はまさに興味津々と言った様子でもやの中で手を動かしている。
「なんか、煙みたいだね。仰いだら動く」
「う、うん」
「冷たかったり熱かったりするのかと思ったけど、そんなこともないね」
そう明るく笑う宝生さんは、小さな子どものように目を輝かせていた。
手の中にもやを集めてみたり、私の身体を観察してもやの発生場所を探したみたりとちょこまか動き回っている姿が、なんだかかわいく見えて笑ってしまった。
「あ、笑った」
「ご、ごめん」
「ううん、霧山さんってクールビューティーなのかと思ってたけど、笑うとかわいいんだね」
「えっ、えっ?」
さっきから、私に向けられているとは思えない言葉ばかりが飛び出してくる。
かわいいっていうのは、私を見てキラキラ笑ってる宝生さんのほうだと思うんだけど、うまく言葉にできない。
そのまま、宝生さんはがしっと私の手をつかんだ。
「私、霧山さんとお友だちになりたい!」
「へ……と、友だち?」
「いいでしょ?」
満面の笑顔でそう問われ、私は勢いに押されるまま頷くしかなかった。




