141 思い思われ
「一個確認なんだけどさ」
「なに?」
依然顔を赤く染めたままの雪成が、じろりと私を見る。
「その好きって、どういうやつ?」
「……は?」
「いや、だからさ……その、なんつーか」
ごにょごにょと煮え切らない態度だ。
どんな答えが欲しいのかわからず、首を傾げる。
「あー、だから、種類っていうか、分類っていうか」
「……どんな種類や分類があるのかわかんないんだけど」
「いやあるだろ!……例えばさ、お前宝生のこと好きだろ?」
「紅葉ちゃん?うん、大好き」
「のどかは?」
「かわいい妹だよ?好きに決まってるでしょ」
繰り返される質問がまどろっこしくて、思わず眉を寄せる。
言いたいことがあるなら、はっきりと言ってくれればいいのに。
私が考えていることを察したらしい雪成は、深々とため息をついた。
失礼だな、と思っていると、観念したらしい。
また顔を横に向けて、一気にまくしたてる。
「だから!その宝生とかのどかに対する好きと、俺への好きは同じものかって聞いてんだよ!友だちとしてとか、家族としてとか……ほかにもいろいろあんだろ!」
「えぇ……この流れで?さすがに伝わってるでしょ……?」
「……違ってたら恥ずい。あと、お前時々馬鹿みたいに鈍いし、ズレてるし、万が一って可能性もある」
なんともひどい言いぐさだけど、自信をもって否定できないから複雑だ。
だからといって、好きの種類を説明するなんて、とんでもない辱めだろう。
「……ユキは?」
「あ?」
「私は好きって言ったけど、ユキがどう思ってるのか聞いてない」
「あ、話逸らす気だな?!」
ずるい、とでも言いたげに指摘されたが、自分だけ気持ちを伝えるなんて不平等だ。
抗議の声を無視して、視線だけで訴える。
「……なんなんだよ、お前」
明らかにむすっとした様子で、雪成が言う。
少しだけ尖った唇が、ふっと弓なりに緩んだ。
「こんなタイミングで言うはずじゃなかったんだけど、俺もお前のこと好き。……恋人になってゆくゆくは結婚したいっていう意味の好き、な」
好きだと言われたら、どういう意味かと問いかけてやろうと思ったのに。
先を越された直球すぎる言葉に、もうだめだと悟った。
ぶわりとあふれ出たもやは先ほどの比ではなく、すぐ近くにいるはずの雪成の姿さえ覆い隠してしまう。
とめなきゃいけないとわかっていながら、次々とあふれるそれはどうしようもなく、今すぐにでも走って逃げだしたくてたまらない。
それでも逃がさないというように、繋いだままの手を握る力が強められた。
「お前の好きは?俺と同じであってる?」
そう問われたらもう観念するしかなくて、私は目をぎゅっと瞑って、首を縦に振った。
しかし雪成からの反応はない。
どうしたんだろうとうっすら目を開くと、視界いっぱいにもやが広がったままだ。
これでは、頷いたとてわからないだろう。
恥ずかしさで蒸発してしまいそうになりながら、絞り出すように「同じ」だと呟いた。
その瞬間、握られていた手が離され、代わりに私の背中に雪成の腕が回された。
汗と制汗剤の混ざった匂いが鼻腔をくすぐる。
その奥にほのかに香る匂いに、どこか落ち着く感じがした。




