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128 ツワモノ

「上出来上出来」



 いかにも楽しそうに、恭太さんが言った。

 私は誇らしい気持ちで、もやを放出することに集中する。


 今までずっと、どうやったらこのもやを消すことができるのか考えて生きてきた。

 だからこうして、感情を堪えずに思いのままもやをあふれさせるのは初めての経験だ。

 ずっと大嫌いだったもやなのに、なかなかいい気分になれるものだから不思議。



「何をしている!早く加勢せんか!」



 老紳士の叫ぶ声が聞こえる。

 怒りと焦りがないまぜになったような声だ。

 しかしその声に反応する者はいない。


 代わりに、ドサリと何か重いものが倒れるような音が響く。

 老紳士が息を呑むのがわかった。



「もういいよ」



 恭太さんの言葉を合図に、私はもやを霧散させた。

 ずいぶんとコントロールが上達したものだ。

 薄れていくもやの中に佇む恭太さんが幻想的で、思わず見惚れる。

 私の隣で頬を薄く染めているマスターも、きっと同じ気持ちで恭太さんを眺めているに違いない。


 恭太さんの足元には、白目をむいた先生が倒れていた。

 老紳士はそれを見て、顔を真っ青にして周囲を見渡している。

 浅い呼吸を繰り返す老紳士に、恭太さんは怖いほどきれいに笑って言った。



「お仲間たーくさん集めたのに、残念だったね」



 路地裏から、ゆっくりとした足取りでおばあさんが出てきた。

 穏やかな笑みを浮かべているのに、左右の手にそれぞれ気を失った大男を引きずっている。

 その姿は、まさに強者そのもの。

 でも意外性はなく、納得できてしまうのだからしょうがない。


 おばあさんの奥をみると、複数人の男の人が倒れていた。

 これも全部倒したんだろうな、と感嘆してしまう。


 ふと進むはずだった道へ目を向けると、おじいさんがちょこんと立っていた。

 なぜか、倒れ込んでいる男の人の背中の上に。

 こっちは違和感がすごくて、思わず目を見開く。

 おじいさんが足蹴にしている人のほかにも、地面には多くの人間が転がっていた。



「……し、死んでない……です、よね?」



 不安になって思わずそう問いかけると「もちろん。ご安心ください」と肯定が返ってきた。

 それでも納得できない気持ちで見ていたら、おじいさんが足をぐりぐりと動かした。

 足蹴にされている男が苦しめにうめいたのを見て、息があることに安堵する。



「なぜっ、なぜ、こんな……っ」


「なぜ、ですか」



 狼狽える老紳士を横目に、おばあさんの後ろから父が顔を出した。

 おばあさんの身体にすっぽり隠れていたから、そこにいたことにまったく気がつかなかった。



「お久しぶりです、父さん。できることなら二度と会いたくありませんでしたが、よくもまぁ、こんなところまで」


「貴様っ……!」



 わなわなと震えながら、老紳士が父を指さす。

 そして堰を切ったように怒鳴り始めた。



「貴様のせいだ!勝手に縁を切ったばかりか、このような愚かなことを……!貴様さえ大人しく家を継いでいれば、この子が穢されずともすんだのだ!」



 私を指さす老紳士の手は震えている。

 父はそんな老紳士を冷たい眼差しで睨みつけながら、長いため息を吐いた。

 老紳士はそんな父を見て、さらに激高した様子で唾を飛ばしながら続ける。



「これは、赤子のうちから神域へ住まわせなくてはならなかったのだ!こんな世俗にまみれた世界からは、一刻も早く隔絶せねばっ」


「いいえ、この子は普通の人間です。あんな牢獄へ閉じ込められる謂れはない」



 老紳士の言葉を遮るように、父が言い放つ。

 老紳士は父の言葉に、目を見開いた。

 


「なんと愚かなことを!その身勝手な行いが、一族の悲運を招いていることも知らぬのか!!」


「悲運?」


「そうだ、この子が生まれてからというもの、ままならぬことばかりだ」

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