124 よかったな
休み明け、自宅へ帰っていた私をおじいさんが迎えに来てくれた。
自分が乗ることになるなんて思いもしなかった、細長い車。
リムジン……で、あってるのかな。
車に詳しくないからよくわからないけど、高級車であることだけはよくわかる。
促されるまま乗り込むと、楽しそうに目を輝かせている紅葉ちゃんと、居心地悪そうに身を縮こまらせている雪成がいた。
朝の挨拶をして、座面に腰かける。
ふかふかと柔らかい質感は、私の知る車の座席とは全然違う。
「これさ、めちゃくちゃ目立つんじゃない?」
「ね!お金持ちの家の子になったみたい」
「お、落ち着かねえ……」
「私もそわそわする……」
楽し気な紅葉ちゃんよりも、庶民まるだしで緊張している雪成の方に同意しつつ、窓の外に目を向ける。
目隠しのフィルムが貼ってあるから、外から中の様子は見えないだろう。
それでも校門前で降ろされては、悪目立ちしてしまう。
少し離れたところで降ろしてほしいと懇願すると、了承してもらえた。
学校からちょっとだけ離れたところに停車した車から降りると、登校中の生徒たちから奇異な視線を向けられる。
普段からもやのせいで注目されることには慣れているけど、今回はちょっと意味合いが違うから複雑な心境だ。
車の扉を開けてくれたおじいさんにお礼を言って別れ、足早に校門へと向かう。
有事の際に対応できるよう、このまま学校の周辺で待機していてくれるそうだ。
渡された防犯ブザーをポケットの中でぎゅっと握りしめる。
これを鳴らせば、学校内であってもおじいさんとおばあさんが乗り込んできてくれるらしい。
「なぁ、あれって誰んちの車?」
不意に後ろから声を掛けられ、びくっと肩が跳ねた。
振り向くと川上くんが「そんな驚かんでも」とちょっと引いた顔をして立っている。
「金持ちしか乗らない車じゃん。やっば」
「あ、いや、あれは知り合いの車で」
「やべー知り合いだな」
ケラケラと笑う川上くんは、雪成を腕でつついている。
雪成も「はんぱねーよな」なんて気の抜けた表情だ。
頬を緩めていた川上くんは、紅葉ちゃんを目にとめて、ふっと真顔になった。
そのまま見定めるように、じっと見つめる。
「……えっと……なぁに?」
困惑気味に紅葉ちゃんが問いかける。
川上くんは「いや」と短く返し、やがてふっと微笑んだ。
「何でもない。最近なんか様子が変だったからさ、気になってたんだけど」
「そう?」
「ん。でも戻ったみたいだし、よかったな」
最後の言葉が自分に向けられたものだということに気付いて、私は小さく頷いた。
川上くんが私と紅葉ちゃんとの仲を心配してくれていたことを思い出し、眉を下げる。
「ありがとう」
素直に告げると、川上くんは眉間にしわを寄せて、そっぽを向いてしまった。
気を悪くさせたのだろうかと不安になったが、耳の先が赤くなっていることに気付く。
きっと、照れ隠ししているだけだ。
窺うようにこちらを見た川上くんは、私の横を見てぎょっとした顔をした。
そして小声で「そんなつもりねぇから」と呟く。
意味がわからなくて首を傾げると、と隣にいた雪成が「ならいい」と短く答えた。
ちょっとだけ不機嫌そうなむくれ顔が、子どもみたいで少し面白かった。




