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114 気になってたこと

 用意された客室は、個室だった。

 大きいベッドが2つ並んだ部屋を一人一部屋割り当てられた正直な感想は「ひとりで使うには広すぎる」の一言に尽きる。


 そもそも一つのベッドが、大人がふたり並んで転がっても余裕があるサイズだ。

 ベッドのサイズなんてよくわからないから、なんて言うサイズなのかは知らないけど。


 ごゆるりと、なんて言われても、広すぎて逆に落ち着かない。



「あの……」



 せっかくそれぞれに部屋を用意してくれたのに申し訳ない、と思いつつも、同室で過ごしてもいいかおばあさんに訊ねる。

 おばあさんは穏やかに微笑んで「もちろんでございます」と言ってくれた。


 大きなベッドを二つくっつけると、圧巻の大きさだ。

 そこに紅葉ちゃんと雪成と3人そろって転がる。


 雪成は「俺も?!」と戸惑っていたけど、紅葉ちゃんと二人で「いいからいいから」と流すと、複雑そうな顔で納得してくれたらしい。

 私の隣でぶつぶつ何か言っているが、よく聞こえないのでスルーした。



「眠れるかなぁ」



 変にふわふわ高揚した気分で、眠気はほど遠い。

 紅葉ちゃんも同じようで「無理かも」とはにかむ。



「お父さんたち、早く帰ってこないかなぁ」


「ね、なんだか帰ってくるまで寝つけない気がする」



 常夜灯だけの暗い室内では、不思議と話し声も小さくなってしまう。

 こそこそと内緒話をしているみたいで、なんだか楽しい。



「ねぇねぇ、ずっと気になってたこと、聞いてもいい?」



 ころんと寝返りをうちながら、紅葉ちゃんが訊ねる。

 うつぶせの状態で腕に顔をうずめているので、柔らかな髪の毛が顔にかかっていた。


 私はその髪を耳にかけてあげながら「何?」と促す。



「ふたりって、いつから付き合ってるの?」


「うん、つきあ……へっ?!」


「幼馴染なんでしょ?じゃあ、結構前から?」


「いや、付き合ってないから!!」



 予想外の質問に、思わず飛び上がった。

 紅葉ちゃんは「えー?」と首を傾げる。



「だって、ふたりって仲良しだって言ってたし」


「それはユキが勝手に言ってただけ!」


「前に家に誘ったとき、すっごい警戒されたし」


「あれはっ……勘違いされただけ!」


「躊躇いなくいっしょのベッドで眠ってるし」


「それは紅葉ちゃんもいっしょじゃん!」


「でも山倉くん、全然否定しないよ?」


「ちょっ、ちゃんと否定してよ!!」



 ぐるんと雪成を振り返ると、雪成は横になったまま、なぜか口元に手を当てて黙り込んでいる。

 むっときて手を掴んで口元から引き離すと、結んだままの口がムズムズと動いていた。



「……どんな表情?」



 そう訊ねると、雪成は首を振って、また口元に手を戻してしまった。

 そのまま手を前後に振るような仕草をされて、仕方なく紅葉ちゃんの方に向き直る。



「とにかく、誤解だから。付き合ってないから」


「うーん、わかった!」



 ようやく納得してもらえて、ほっと胸を撫で下ろす。

 でも話は終わっていなかったらしく「じゃあ」と紅葉ちゃんが続ける。



「いつ付き合うの?」



 からかっているわけではない、純粋な疑問として投げかけられた言葉に、私は絶句する。

 どうしてそんな話になるのかと頭の中でぐるぐる考えていると、次は背後からさらなる爆弾が投下された。



「俺としては、今からでもいいんだけど」



 絶句したまま振り返ると、雪成はまじめな顔をして私を見ていた。

 今はそんな状況じゃないだとか、意味がわからないだとか、言いたいことはいろいろあるのに、心臓がうるさいほど脈打って、何ひとつ言葉にならない。


 その代わりに、とめどなくもやがあふれ出て、部屋の中を埋め尽くしていく。

 もやに隠れる寸前の雪成の表情は、なぜか楽し気に見えた。

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