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109 秘密基地

 父に連れられ、やってきたのは見知らぬビルだった。

 途中で迎えに行った雪成も、少し緊張した様子であたりを窺っている。


 カフェのような雰囲気のカジュアルなオフィスが、悠哉さんの会社らしい。

 受付のお姉さんに「少々お待ちください」と促されて座ったソファは、しっかりとした硬さだったけど座り心地が良かった。

 小さいペットボトルを一人一つずつ出してもらい、ありがたく受け取る。



「……あの人、結構すごい人だったんだな」



 ぼそりと雪成が言った。

 父はなんでもない顔をして「ソーダナ」なんて相槌を打っているけど、カタコトだし、顔が引きつっている。


 確か前に名刺をもらったときは、従業員数名の小さな会社だって言っていたはずだ。

 だから特別緊張することもなくここまで来たわけなのだが、ぱっと見た限り、少なくとも数十人もの人が働いている。


 会社、間違ってないかな?

 若干不安になったけど、悠哉さんの名刺に書かれていた会社名と同じだし、悠哉さんの名前を出して待たされているという状況から、その可能性は限りなく低いだろう。



「やぁやぁ、お待たせー」



 会社でもラフな格好を貫き通しているのか、のほほんとした様子で現れた悠哉さんはTシャツにジーンズ姿だった。

 Tシャツの中央にはよくわからないゆるキャラ?みたいなのが描かれていて「なせばなる」という文字が添えられている。

 あまりの緊張感のなさに、なんだか笑えてきてしまった。



「小さい会社って言ってませんでしたっけ?」


「小さい会社だよー」


「従業員も数人って。数十人はいるように見えますけど」


「数人も数十人も変わらないよ」



 いや、全然違うでしょ。

 そう私よりも先に突っ込んだのは、雪成だった。



「まぁまぁ、それはそれとして」


「はぁ」


「こっちについておいで」



 あくまでマイペースな悠哉さんについていくと、エレベーターの前にたどり着いた。

 すぐに開いた扉の先に乗り込み、悠哉さんが何も書かれていないボタンを押す。

 このビルは3階建てらしく、1から3までの数字が掛かれたボタンが縦に並んでいて、その横に独立して表示のないボタンが設置してあるのだ。

 ゆっくりと動き始めたエレベーターは、上に向かっているのか下に向かっているのかもわからない。



「秘密のボタンなんだよ」



 クスっと笑って、悠哉さんが言った。

 不敵な笑みが、どことなく恭太さんに似ていて、血のつながりを感じる。



「このカードがないと押せないボタンなの。秘密基地への入り口って感じ?」



 そう言って見せてくれたのは、カードキーだった。

 よく見れば、エレベーターの壁にカードキーをかざす場所がある。

 セキュリティ確保のために、わざわざ設置しているらしい。


 私はすごいな、と思ったけど、父や雪成にはそれ以上に刺さるものがあったらしい。

 男のロマンだのなんだのとボソボソ言っているのが聞こえたが、スルーを決め込む。


 まもなくエレベーターは止まり、扉が開いた。



「あれ?」



 てっきり映画なんかで見るようなハイテクな基地が広がっているものと思っていたが、目の前に広がるのは予想外の光景だった。

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