107 足手まとい
ダメだと言われてすんなり引き下がることもできず、しばらく押し問答を続けた。
しかし悠哉さんは穏やかな表情のまま、一切の付け入る隙を見せてくれない。
父やマスターに視線を向けても、気まずそうにそらされるだけ。
恭太さんは眠たそうにしながら、素知らぬ顔だ。
「無理だって」
なおも食い下がる私の肩に手を置いて、雪成が言った。
その瞳には、諦めの色がありありと浮かんでいる。
「俺らも散々説得したけど、まじで無理だった」
「えええ」
「それに俺も、お前が行くのは反対だし」
「は?なんで」
「だって一番危ないのってお前だろ?これで無理についていって、お前が捕まったら本末転倒じゃん」
「そっ……れは、そうかもしれないけど」
「それにお前戦力外じゃん」
「……う、うるさいな」
正論で叩きのめされて、もう黙り込むしかなかった。
確かに自分がついていったところで、足手まといになる未来しか見えない。
状況を悪化させることはあっても、好転させる可能性はゼロに等しいだろう。
「俺はそれなりに戦力になると思うけど」
じとっとした眼差しで、雪成が悠哉さんに訴える。
しかし悠哉さんは「どうだろうねぇ」とやんわりと流してしまった。
「とにかく子どもたちはそろってお留守番ね。それで、俺たちが留守の間に襲撃されたら困るから、明日はうちの会社にいてもらうよ」
「会社、ですか?」
「うん。警護をつけるから、いいこにしておくんだよ」
「警護……」
大げさな気もするが、今までのことを考えたら仕方ないだろう。
仕方なくうなずく私の肩を雪成がぽんと叩き「ま、頑張れ」なんて笑う。
しかし悠哉さんはそんな雪成を指さし「君もだよ」と告げた。
「え、俺も?」
「そう、君も。念のため」
「念のため?」
「お家の人には、これから霧山さんが話をつけに行ってくれるから」
雪成は口をあんぐりと開けたまま、戸惑っているようだ。
確かに雪成はあの一族には無関係。
それでもいっしょにさらわれたし、私と行動を共にしていることは知られている。
ともに保護されるべきだと言われれば、納得できる話だ。
「いっしょにがんばろ」
「……わかったよ」
雪成も同じ結論に行き着いたのだろう。
うなだれながらも了承し、私の頭に手を乗せる。
ふっと微笑んだ彼に、思わずドキッとした。
「ま、いっしょにいた方が安心だしな」
そのままワシワシと頭を撫でられていると、ふいに父が雪成の腕を掴んだ。
何事かと目を丸くして、父を見る。
父は眉間にぐっと皺を寄せて、なぜか苦しそうな顔をしていた。
「頼むから、男親の前でいちゃつかないでくれよ……」
「いちゃっ!?ついていないよ!」
予想外の言葉に声がひっくり返る。
父は死んだ魚のような目をして「隠さなくてもいい」なんて言う。
「隠すって何?何も隠してないし」
「いやだって、お前たちの距離感見てれば、さすがにわかるし」
「わかるって何が!?普通の友だちの距離感でしょ!」
「とも……だち?友だち……?」
「そう、友だち!お父さんと雨音さんだって距離近いじゃん!」
「友だちかぁ……そうかぁ……」
必死に弁解する私に、父が安堵した顔をして涙ぐむ。
その背中に、雪成が複雑そうな眼差しを向けていたが、見ないふりをした。




