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106 膝枕

 ゆさゆさと体を揺すられて、私は瞼を持ち上げる。

 ぼんやりしたまま意識を手繰り寄せ、あくびをかみ殺した。


 柔らかな枕の感触が心地よくて、もう少し眠っていたくなる。

 枕に頬をすりすりと寄せながら、ゆっくりと目を閉じた。

 それでも追加で肩を揺すられ、諦めて身体を起こすため力を込める。


 私の肩を揺すっていた父は、半分呆れたような顔をしていた。



「よく眠れたか?」


「うん……」


「じゃあ、ちゃんとお礼を言うんだぞ」


「お礼?」



 目元を手の甲でこすりながらふいに顔を動かすと、至近距離に困り顔の紅葉ちゃんがいた。

 不思議に思いつつ、のろのろと頭を回転させる。

 さっきまで自分が頭を乗せていた位置は、どこだっただろう。

 動かした視線の先には、制服のプリーツスカート。

 一部が濡れているのか、色が変わっている。



「……あ」



 さっと血の気が引くのがわかった。

 枕の正体を察したからだ。



「ご、ごめん!重かったでしょ?それにその……」



 最悪だ。

 紅葉ちゃんの膝で勝手に寝た上に、よだれまで垂らしてしまうなんて。

 しかもさっき、寝ぼけて頬ずりまでしてしまった。

 とんだセクハラ行為だ。



「大丈夫!でもちょっと、足が痺れちゃって」


「ごめん!ほんっとにごめん!」


「ううん。疲れさせちゃったのは私だし、むしろこっちがごめんっていうか」



 紅葉ちゃんはそう言って眉を下げた。

 その傍ら足を揉んでいて、じわじわと申し訳なさが増していく。



「途中で降ろそうと思ったんだけどさ、お前がスカートをつかんで離さなくって」


「えっ」


「無理やり引っ張るわけにもいかねぇし、宝生もいいっていうからほっといたんだけど、さすがに寝すぎ」


「……うぅ」



 雪成から更なる余罪まで言い渡されて、私はすっかりうなだれた。

 背後からマスターが笑いをこらえる声が聞こえる。

 いっそ大声で笑い飛ばしてもらえた方が楽かもしれない。


 大人たちの話は、どうやら終わったらしく、悠哉さんは微笑ましそうな顔をしてお茶をすすっていた。

 恭太さんはずっと眠っているのか、いまだ横たわったままだ。


 私も座布団を枕にするべきだった。

 そう反省していると、マスターが恭太さんを揺すり始めた。

 恭太さんは煩わしそうに眉を寄せ、薄く目を開ける。

 こんな険しい顔をしていても様になるなんて、美人ってすごい……。

 そんなことを考えてしまうのはきっと、現実逃避だろう。


 恭太さんは虫でも払うかのように、マスターの手をぴしゃりと叩いた。

 そして不機嫌そうに起き上がり、あくびをする。



「もう少し話しててくれていいんだけど」


「そうはいっても、もう終わっちゃったからねぇ」


「まぁいいや。それで?」


「うん。明日襲撃しようって話になったよ」



 のんびりと話す恭太さんと悠哉さんに、緊張感はかけらもない。

 話している内容は、物騒なはずなのに。



「メンバーは?」


「俺と恭太、楓馬くんと霧山さん、あと武田さんっていう地元の人」


「あぁ、あの人。なかなか強そうだったからいいんじゃない?」


「心配なのは霧山さんだけどねえ」


「あぁ、弱そうだもんね……」



 恭太さんが、残念なものを見るかのような目で父を見る。

 父は反論しようと口をパクパクさせていたが、悲しいことに反論が浮かばなかったようで口を噤んでいた。


 武田さんは雨音さんのことだとわかったが、楓馬くんって誰だろう……?

 マスターや悠哉さんの知り合いだろうか?

 そこまで考えて、ようやくマスターの名前だということに気付いた。

 普段マスターとしか呼ばないから、すっかり忘れていたが、初対面で自己紹介をされたときにそう名乗っていた気がする。

 そうでないと、この場で名前が出るのは不自然だし、襲撃メンバーからマスターが外れているのもおかしい。


 そう納得したあとで、私は次の疑問を口にした。



「あの、私たちは?」


「子どもはお留守番」


「え、でもっ」


「気持ちはわかるけど、我慢しようね」



 悠哉さんは優しい物言いだったけど、有無を言わせない迫力があった。

 ちらりと雪成と紅葉ちゃんを見ると、二人とも眉をひそめて複雑そうな顔をしている。

 どうやら私が寝ている間に、同じ問答が行われていたらしい。

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