第二十九話 欠けた刃と途切れぬ絆と
12月から更新ペースが少し落ちると思います、すみません。
後、凄い今更で申し訳ないんですが……投稿後にちょいちょい改稿している話がいくつかありますが、これは後から見つけた誤字脱字を直しているだけなので、特に内容・設定等の変更はありません。
感想とか、評価とか、ブクマとか凄い嬉しいです。ありがとうございます。
巨大なゴーレムが消えてなくなった直後。
「ミーニャ!!」
セレナが外套を脱ぎ捨てながら走り寄ってきた。
「ミーニャ大丈夫!?遅くなってごめんね…!」
私のそばに座り込むと彼女は、そのまま引き千切らんばかりの勢いで服を脱ぎだす。
「え、ちょ、え!?何をしてるんですか!?」
目を白黒させて驚くカナエ。
まぁ、突然目の前で知り合いが半裸になりだしたら、それは焦るよね。
しかしセレナは、それを全く意に介さず、殆ど上半身裸の状態で核を抱きしめる。
ふぉぉ~。セレナの汗が体に染み渡る~。
触れた胸元から、セレナの汗を吸収していく私。
触手種の良いところは、摂取した養分をすぐさまエネルギーに変換できる事だ。人族みたいに、消化とか吸収とかの過程を経る必要が無く、得た養分をそのまま全て体に取り込む事ができる。
摂取した汗をすぐさま触手の再構成に使い、生やした触手をセレナの体に絡ませてさらに汗を吸収していく。
肌を撫で、残った服の隙間にも触手を滑り込ませ、セレナの肌を濡らす汗を、一滴残らず取り込むように。
今の私は飢えた野獣、いや魔獣だぜー。
「…えっと……セレナさん、大丈夫なんですか…?」
ふと気が付けば、カナエが顔を真っ赤にしながら私達の方を見ている。
あれ、そういえばカナエ、ローブはどうしたんだろうか。
「…んっ…大丈夫っ……これでミーニャ、元気に、なるからっ…」
体中を撫で回されてくすぐったいだろうに、私のためにと我慢してくれているセレナ。
ああ、汗と一緒に、セレナの優しさも染み渡る。
「しかしこれは…その、何というか…」
カナエ、本当に顔真っ赤だけど、大丈夫かな。ていうか、セレナも顔少し赤くなってない?
「…あの、別に、そういうのじゃなくて…汗をっ、あげてるだけ、だから……ん……ほんと、大丈夫っ…」
そういうのって、どういうのだろう。
「そ、そうですか…いえ、まぁ、同意の上でなら良い……の、でしょう、か?」
何だかいまいち要領を得ない会話だ。
うーん。
今の私達の様子を客観的に見てみると。
『半裸の少女に蠢く無数の触手がすっごい絡みついてる』
って感じ、だよね。
…あれ、なんかこういう状況、例のあの本にもあった気がする。
えーっと。
例のあの本はなんていうか、やらしい感じのやつだった。
という事は、つまり。
そういうのって、そういう事?
……
…あー、まぁ、それは顔も赤くなるか。
人族は基本的に、生殖行為に関するあれこれは、恥ずべきものというか……あまり大っぴらにするものではない、というふうに考えているみたいだから。
なるほど、カナエには私の行動が、例の本よろしく人族にとって『淫らな』行為であるかのように見えていた、という事か。
そもそも人族にとっては、触手種とはそういう意味で恐ろしい生き物であるわけだし。
これは、私からも誤解を解いておいた方がいいかな。
カナエは私が魔物と分かっても、すぐに討伐しようとする様子はない。であればここは、私が無害な存在である事を示し、出来るなら今まで通りの関係を続けていきたい。
というわけで、だいぶ回復してきたエネルギーを使って人型の首から上を再構成し、カナエに話しかけてみる。
…いや、そんな驚かないでよ。「うひゃぁ」って。
「…安心してほしい…」
わたし、わるいまものじゃないよ。
「…ミーニャさん、あなたは…」
私の真面目な顔に影響されてか。
カナエが、先程までの赤く染まった顔とは打って変わって、真剣な表情で私を見つめてくる。
「…セレナが、恥辱を感じるような事は…していない…」
「ちじょっ…!?」
あ、また赤くなった。
「セレナからは、汗を貰っているだけ……他の体液の分泌を無理やり促すような事は、していない…」
「たっ、たい……いえ、そういう話ではなくてですね…」
あれ、そういう話じゃないの?
…あ、そっか。そういう話をする事自体が、『恥ずべき事』なのか。
こほんと咳ばらいをし、一度間を空けて、赤らんだ顔を再び真面目なそれに切り替えてから。
カナエは今度こそ、私に問いかけてくる。
「…ミーニャさん。あなたは一体、何者なのですか?」
何者って言われても。
「…魔物…正しくは、魔獣…」
忘れがちだけど触手種って、分類上は一応魔獣って事になっているんだよね。
「…それは分かります。この目で見た、認めざるを得ない事実です」
いや、まぁ。
カナエが何を聞きたいのか、本当はちゃんと分かっているのだけれど。
「ですが……なぜあなたには、心があるのですか。なぜあなたは、人の姿に成っているのですか」
その辺、話すと長くなっちゃうんだよね。
「…それは…ここから出てから、話す…」
って事じゃ、駄目かな。
カナエは私のその言葉で、自分達がいまだ精霊宮の中にいる事を思い出したようで。
「…そ、そうですね。えっと、精霊がいなくなれば、すぐに精霊宮も消失するのですが……その時に異物はすべて外に弾かれるので、精霊を封印しさえすれば、自動的に外に出られますよ」
そう言って立ち上がると、遠くに放り捨てられていたローブを取りに行いった。
…あれ?真っ白だったはずのローブに、何か魔法陣的なものが描かれているように見えるのだけれど…
「…カナエ…その魔法陣は…?」
「あー…それ描いたの、私」
答えたのはカナエではなく、まだ私が引っ付いたままだったセレナ。
あっ。そろそろ、人型に戻れそうだ。
「『拘束』でゴーレムの動きを封じようとしたんだけど……私が持ってるスクロールじゃ、パワー不足かなーって思ってさ。あのローブ、結構良い触媒になりそうだったから、無理言って使わせてもらったの」
珍しく殊勝に、そして申し訳なさそうに頬を掻いている。
「あの魔法のおかげで、ミーニャさんを助ける事ができましたし。むしろ安いものでしょう」
あの時ゴーレムの動きが止まったのは、セレナの魔法によるものだったのか。私が幾本もの触手を使わなければできなかった事を、たった一度の魔法で。
「…セレナ、すごい…」
「そ、そうかな?えへ、えへへへ」
私の手放しの称賛にセレナは、久しぶりに若干気持ち悪……変な笑いを浮かべて喜んでいる。
…いやまぁ、本当に凄いと思うし、感謝している。
って、私まだ、助けてもらったお礼言ってない。
いかん、いかん。
エネルギーを補充し、完全に人の姿に戻った私は。
2人に向かって、ありったけの感謝を伝える。
「…セレナも、カナエも…助けてくれて、ありがとう…」
2人のおかげで、死なずに済んだ。私は、生きていられる。
ていうか、2人ともこんなに凄いんだったら、私いらなかったんじゃないかな。
「そんなことないよっ。私達が今生きてるのは、ミーニャが頑張ってくれたおかげ」
「あなたが庇ってくれたから、私達は死なずに済んだのですから」
そうかな。
「そうだよ!こっちこそ、ありがとう、だよっ」
「ええ、本当に。ミーニャさん、ありがとう」
…そっか。
私、少しでも役に立てたんだ。2人を、守れたんだ。
ああ、良かった。
半裸のセレナと全裸の私はいそいそと服を着直して。
カナエが精霊を封印し、無事、精霊宮の調査は終了した。
あ。
扉の前に取り残された挙句、よく分からない内に迷宮からはじき出されて混乱していたおじさん達には、何がどうなったのかちゃんと説明しておいた。勿論、私が触手であることは伏せたまま、ね。
それから、町に帰ってすぐ、治癒術師にカナエの怪我をちゃんと直してもらった。なんでも、術師の人曰く骨の十数か所に渡ってひびが入っていたのだとか。
結構重傷だったと思うのだけれど……セレナの鎮痛の魔法が効いていたとはいえ、町に帰るまで全くそんなそぶりを見せなかったカナエは、やっぱり凄いというか、かっこいいというか。
まぁ結局カナエは、治療後も術師から安静を言い渡され、数日間宿に籠りきりになってしまったけどね。
そして、その数日の間に私は。
彼女に、自分自身の事を全て話した。
ある日、突然現れた女の子に自我を与えられた事。
セレナやエルフ達を通じて、知識を得ていった事。
やがていつしか、この世界を見て回りたいと思うようになった事。
人型になり、エルヴィンの家で人としての生き方を学んだ事。
そして一か月ほど前、セレナと共に、遂に村を旅立った事。
「最初は驚いたというか、正直ショックでしたが…」
私の話を、時に頷き、時に驚きながら、最後まで聞いてくれて。
「話を聞いて……いえ。本当は、話を聞かずとも分かりきっていた事、ですね」
今までと同じように、笑いかけてくれたカナエは。
「あなたは変わらず、私の友人です。ちょっとうねうねしているのは…まぁ、愛嬌、という事で」
今までと同じように、優しくて、かっこよかった。
精霊宮の調査が終了してから、1週間ほど。
私とセレナ、そして療養を終えたカナエは3人で、町の鍛冶屋を訪ねて回っていた。
理由は1つ。あの頑丈なゴーレムを切断せしめたカナエの刀が、しかしその代償として、大きく刃こぼれしてしまっていたからだ。
「悪いが、こりゃうちではどうにも出来んわい」
数件ある鍛冶屋1つ1つに足を運び、刀を見せて回って、ここが最後の場所。
しかしここでの返事もやはり、先の数件と同じく、「うちでは直せない」というものだった。
「そうですか…」
「すまねぇな。だが、下手に打って余計に駄目にしちまったら申し訳ねぇからなぁ」
「…いえ、ありがとうございます」
なんでもこの刀という武器、一部の獣人族のみが使用しているものらしく……広く出回っていないがために、それを本格的に修復できる鍛冶屋が少ないのだそうだ。
「他の鍛冶屋んとこには行ってみたかい?」
「ええ、全て。ここが最後です」
「そうかぁ…となるともう、別の町へ行ってみるしかないだろうなぁ」
冒険者がよく用いている剣やら何やらの武具とは製造法がまるで違うため、他の武具の修復技術を流用する事も出来ず。
結局、数日かけて町中を回って分かったのは、この町での修復は不可能だろう、という事だけだった。
「…ごめん…無理を、させてしまった…」
精霊宮に乗り込むときカナエは、「刃が欠けるから刀は使いたくない」と言っていた。それは、欠けた刃を修復するのが難しいからこそ口にした言葉だったのだと、今になってようやく気付いた。
「…もう、何度も言っているではないですか。これと同じ。友人の命のためならば、安いものですよ」
苦笑しながらカナエは、自分が羽織っている、魔法陣がくっきりと残ったローブをつまんで見せる。
そう。このローブも、簡単に変えが効くような代物ではなかったらしく。
しかしそれでも彼女は巡礼官として、この怪しげな模様の入ったローブを着て旅を続けなければならないのだとか。
「獣人でありながら巡礼官などをしている時点で、妙な目で見られるのには慣れています。刀も、このまま巡礼の旅を続けていれば、いずれどうにか出来る方に出会えるでしょう。それまでは、これで代用しますよ」
そう言う彼女の腰には、刀とは別に、細く長い剣が一本下がっている。先ほどの鍛冶屋で、「出来るだけ形が刀に近いものを」と頼んで買ってきたものだ。
旅を続けていれば、か。
もう、この町でのカナエの仕事は終わった。次は、どこへ行くのだろう。
「…カナエは…この町を出たら、どこへ向かうの…?」
「私は、近場の村や町を順繰りに回っていくつもりなのですが……」
一旦、言葉を切り。
「…ミーニャさんとセレナさんは、次はどちらへ?」
今度は、私達へと問い返すカナエ。
「うーん…未定っ」
「未定、ですか」
未定、です。
「この町に来たのは、なんか面白そうだったからだし。次の行き先も、やっぱり面白そうなところが良いかなーって」
私達の旅は、自由気ままというか。行き当たりばったりというか。
まぁ、そんな感じだ。
「カナエさん、どこかこの近くで、おすすめの町とかない?」
『ベテラン巡礼官一押し、大陸西部観光地巡り』なんていうのも、いいかもしれない。
きっと何気なく聞いたのだろう、セレナのその一言に対して。
「えっと、その。面白い、かどうかは分からないのですが…」
カナエが、少し躊躇いがちに、言葉を紡ぐ。
「うんうん?」
うんうん。
「…私と一緒に、町や村を回る、というのは、どうでしょうか…」
「……」
「……」
「…やっぱり、今のは冗談で―」
「すっごくいいっ!それ!」
「…いいと、思う…!」
「―す、え、あ、はい?」
「いいの!?一緒に行っても!?」
「…凄く、嬉しい…!」
友人と。
私の正体を知ってもなお、私を友人と呼んでくれた彼女と、いっしょに旅ができるなんて。
そんなの、『面白い事』に決まっている。
「私達、お仕事の役には立たないかもしれないよ?それでもいいの!?」
「あー、いえ……私も、それほど熱心にやっているわけではないですし…」
「私、またローブに魔法陣描いちゃうかもよ?ほんとにいいの!?」
「それは、出来ればやめてもらいたいですが…」
セレナが妙な事を言い始めた。
「というか、そんなに嬉しいものなのですか…?言いだしておいてなんですが、その、私達、出会ってまだ1週間かそこらですよ…?」
「…関係ない…カナエは、旅に出てから始めての…友人だから…」
「うんうんっ。一緒の部屋で寝泊まりして、一緒に迷宮探索して、一緒にピンチも切り抜けた仲だしねっ」
嬉しくないはずがない。
「そう、ですか…ふふっ。そんなに喜んでもらえるなんて……私も、嬉しいです…」
「よぉしっ。宿に戻ったら、パーティーしよっ!私達の、パーティー結成記念パーティー!」
「何だかややこしくないですか?それ」
「…わけがわからない…」
「いいんだよー!こういう時は、勢いが大事なのっ」
それじゃ、ここから先は。
『ベテラン巡礼官一押し、大陸西部観光地巡り』改め。
『ベテラン巡礼官と行く、大陸西部巡礼ツアー』
行ってみよっかっ。




