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テンタクル・プリンセス-或いは、特異触手個体のこと  作者: にゃー
第三章<集落編>

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第十八話 少女達の成長

 森の中にも冷たい風が吹きすさぶ、真冬。

 冷たく乾いた空気が肌に刺さる(らしい)今日、セレナが成人する。




 私は以前、成人というのは、体の大きさが一定以上まで成長した事、つまり魔物や魔獣でいうところの『成体』を表していると思っていた…のだが、レゾナから聞くところによると人族における『成人』とは、その集団内で大人として扱われるようになる事を言うらしい。

 ようするにセレナは、今日からお母様やお父様、エトナと同じような『大人』になるという事だ。

 セレナが大人って…いまいち想像がつかない。




 そしてこの村では、成人する者に対して家族から何か1つ、贈り物をする習わしがある。

 今回セレナが成人するにあたって、贈られるもの、それは―



「それじゃ、始めようかねぇ。契約を」



―『精霊』。




 物理的な肉体を持たない精霊は、人族が作り出した『契約魔法』を結んで初めて、魔力でできた身体を魔物と同じように物質化させる事ができる。何でも、人族の体を依代として、魔力を固定化?させるらしいのだが…こと魔法に関しては、レゾナから説明を聞いた今でも、私には今一つよくわからなかった。

 まぁレゾナ曰く、魔法というのは『大昔の人族が少ない魔力を上手くやりくりしようと考え出したもの』で、その行使や根本的な理解に関する素養は人族、特にエルフと人間にしかない。だから、人族ではない私がそれを理解できないのも、ある意味当然の事なのだとか。



 とにかく、契約魔法によって精霊は肉体を得ることができるのだが、当然『契約』というからには、人族の方にもメリットが存在する。


 すなわち、『契約した精霊から魔力を供給してもらえる』という利点である。


 魔法なんていう、魔力行使の効率化を突き詰めたような方法を編み出すほどに魔力量が少ない人族にとって、精霊の膨大なそれを行使できるというのは、まさしく大きなメリットであるといえよう。

 かくして、精霊族と人族、双方の利害が一致したために契約魔法というものが確立され、両種族間で友好関係が結ばれることとなったのである。以上、レゾナの講義『精霊と契約魔法について』より。





「て言ってもさあ、おばあちゃんのおさがり(・・・・)なんでしょ?何だかなぁ」


 セレナが、少し不満そうに文句を垂れる。


「なんだい不満かい?だったら適当に、毒にも薬にもなりゃしない物をくれてやってもいいんだよ?」


 彼女の言葉に、こちらもふんと鼻を鳴らして答えるレゾナ。 


「別に不満って程じゃないけどさぁ。おばあちゃんのおさがりってことは、ここにいない(・・・・・・)ってことじゃん」




 そう、レゾナが契約している精霊はこの村にはいない。それどころか、この人大陸にすらいない。


 契約魔法の大きな特徴は、『契約者間の距離によって如何なる制約も受けない』という点にある。つまり、一度契約を結びさえすれば、その後は一生顔を合わさなくとも、両者合意の上で解消しない限り契約関係は維持され、精霊の物質化と魔力の供給が行われ続けるのである。現にレゾナと契約した精霊も、数十年前に彼女と別れ精霊大陸に帰っていったのだとか。




「はんっ。精霊さんと仲良くお喋りがしたいってんなら、街に行ってその辺の下位精霊とでも契約してくるんだね。うちのは、一応とはいえ上位精霊の端くれ、本来はあんたみたいな小娘には勿体ないくらいだよ」


 セレナの言葉にますます機嫌を悪くするレゾナ。

 

「分かってるって、おばあちゃんには感謝してるよ。ただ、顔も合わせられないのは少し残念だなぁって」 



 これから行われる契約の引継ぎは、譲渡人と受取人、そして精霊、3人の合意さえあれば全員が顔を突き合わせる必要はない。譲渡人と受取人がその場にいればそれでいい、とのこと。

 いつ精霊に確認を取ったのかとレゾナに聞くと、「精霊大陸に戻る直前、いつか自分の娘か孫に引き継がせるという事で合意した」との答えが返ってきた。

 何十年前の話なんだ。ていうか精霊の方はそれを覚えているのだろうか。



「精霊をっていうより、大量の魔力を貰ったってふうに考えな。あいつとの契約内容は、『行動を制限しない代わりに、向こうが日常生活を送れる範囲で、いつ何時でも自由に魔力を頂戴しても良い』ってやつだからね。不干渉な分、変に気を使う必要もないって訳さ。気楽なもんだよ」



 契約の際には、2者間で何らかの取り決めを設けることもできるらしく、お互いに臨む条件で契約できるよう、精霊を斡旋する組織もあるのだとか。



「むーん…そんなもんかぁ…」


「そんなもんさ。さぁ、疲れるしとっとと始めるよ。最近どうも、すぐ体がへばっちまっていかんね」


 そう言ってレゾナは、先ほどから部屋の床に敷かれている大きな紙の上に立つ。この紙には円を基本とした何やら複雑な模様が記されており、それが契約魔法を行う際に用いられる『魔法陣』というやつらしい。



「…はーい。んじゃまぁ、お願いしますっ」


 『魔力を貰う』という表現で一応は納得したのか、セレナも素直に魔法陣の上に足を踏み入れた。


「よし、この魔法陣に向かって魔力を込めな。ああ、少しでいいよ」


「分かった、こんな感じ?」


「そうだ。後はそのままじっとしてな」


 二人の足元の魔法陣が淡く輝きだす。魔力を込めるとこうなるのか。いや、私は魔力の流れとか全く分からないのだけれど。


 セレナと同じように魔力を流し込みながら、レゾナが最後の確認をする。


「いいかい、顔も分からない、お互い不干渉な間柄とはいえ、契約は契約。双方の合意がない限り、これを違うことはできない。いいね?」


「うん、いいよ。っていうかおばあちゃん、さっきと逆のこと言ってない?」


 確かに。


「一応聞いとかなきゃならないんだよ、面倒な事にね。それから、契約する精霊の魔力は―」


「―『風属性』、だよね。もう、それくらい覚えてるよー」


「これも確認しとかにゃならないんだよッ、面倒な事にねッ」




 精霊の魔力には『属性』がある。

 人族のそれには属性は無く、魔法によって一時的に付与させることはできるのだが……精霊の属性は決して変わることが無く、契約し精霊の魔力を用いて魔法を使う際には、その精霊と同じ属性のものしか行使できない。

 だからこそ、契約する際には、相手の精霊の属性を最も重視する人も少なくないらしい。今回の風属性に分類される魔法は、癖が少なく扱いやすいものが多い…との事なので、初契約となるセレナに向いているんだろう。

 逆に火属性の魔法なんかは、結構上級者向けなのだとか。確かに、うっかり家とか森とか燃やしちゃったら大変だよね。うん。



 とまぁ、私が魔法に関する浅い知識を反芻している内に契約が終了したようで、セレナは早速、小さな風を起こしたりして具合を確かめている。


「ん、問題なさそうだねぇ」


「うん、ばっちり!ありがとう、おばあちゃん!」


 笑みを浮かべながら礼を言うセレナ。

 最初は不満げだったが、やはり魔法を扱う者として、魔力量が増えるのは嬉しい事らしい。 


「ふん、精々うまく使うんだね」


 再び鼻を鳴らしながら、レゾナが回りくどい激励を送る。


「うん!よーし、なんかやる気出てきた!」




 こうして無事成人したセレナは、早速その日から、精霊の魔力を上手く扱えるようにと訓練を始めたのだった。











 セレナが日々魔法の訓練を行っているのに対して、私も、より上手く自身の体を扱えるように、エトナと共に思索に励んでいた。



「この前言ってたあれ(・・)、出来そうか?」


「…ん……多分…」


 集落からやや離れたところ、村人があまり訪れない森の中で私とエトナは、1本の大木を前に話し込んでいる。




 いずれこの村を出て、世界を旅するとなった時、必ず必要になってくるもの。そう、お金だ。

 私は食べ物を買う必要がないので、その分の出費は浮きはするのだが…やはり、宿代や定期的に買い替えなければならない服・装備代など、旅をする上で掛かる費用は少なくない。

 「一所に定住するのではなく、あちこちを転々と移動するのなら、『冒険者』として魔物や魔獣を討伐し路銀を稼ぐのが良いだろう」とはエトナの言だが、そのためには私自身が戦える力を身に付けなければならない。

 いや、触手状態ならまぁ、その辺の魔物や魔獣相手でもある程度は戦えるとは思うが…やはり人として旅をする以上は、可能な限り人型のまま、それらを相手取れるようにならねばなるまい。




「よし。んじゃこの木、ちょっと殴ってみろ」


 そう言ってエトナは、私達の目の前にある1本の木をコンコンと叩く。

 恐らく、私がめいっぱい手を伸ばしても届かないほどの太さの、そこそこ大きな木だ。


「…やって、みる…」


 そう言って木の真正面に立ち、腕を後ろに引く。

…とりあえず、5本くらい(・・・・・)、かな。


 こぶしを強く握って硬質化させ、そのまま木の幹へと勢いよく叩き付ける。




 ゴンッ!!!! 




 硬い者同士がぶつかったときの、体に響くような音がし、枝葉をざわめかせながら木が大きくかしいだ。



「ほぉー…。今、何本で殴った?」


「…5、本…」


「5本でこれなら、中々悪くないな」





 エルフや人間と違って魔法が扱えない私は、必然的にこの身1つで戦う事となるのだが……人型を保持したまま戦おうとすると、当然ながら無数の触手によるごり押しなどは難しくなってしまう。

 かと言ってこの幼い少女の体のままでは、実際の生身の少女ほどではないが圧倒的にパワー不足で、魔物や魔獣はおろか、その辺の猛獣にすら容易く組み敷かれてしまうだろう。


 この問題を解決するべく思索を巡らせた私は、エトナや彼女の同志達が常々口にしている、『筋肉』というものに着目した。 



 人族、というかほとんどの動物は、『筋繊維』と呼ばれる筋のような物が束ねられた『筋肉』が骨にくっついており、この筋肉が伸び縮みすることによって体が動くのだそうだ。そして『体を鍛える』というのは、激しい運動などを行いこの筋繊維を一時的に破損させることで、それが回復した際により太く強靭になる事、らしい。

 筋繊維1本1本が太く、強くなる事で、膂力などが増し、強靭な肉体が得られるとの事だが、私にとって重要なのはそこではなく、『筋肉が筋繊維の束である』という部分だ。

 1本1本は細い筋繊維も、束ねることで太く力強い筋肉となる。正確には筋繊維にも種類があるのだそうだが、私が着目したのは、細い筋を束ねる事で、体を動かしたり激しい運動ができるほどのパワーが得られる、という点である。



 私はエトナ達から聞いたその仕組みを、自分の体にも導入する事にした。

 つまり、手足の内部、骨にあたる触手の周りに、さらに何本かの細い触手を通す。そして殴りかかる時には、『腕』を動かすのではなく、中に通っている複数の触手を同時に叩き付ける感覚で操作するのである。その結果、相手に接触するのは腕1本だが、実際には何本もの触手で同時に殴られたような衝撃があるはずだ。

 


 威力は見ての通りで、5本分の力でも木が大きくたわむ程度の衝撃はあるようだ。

 エトナも、予想以上に威力が高かったのか少し驚きながらも、「いいんじゃないか」と太鼓判を押してくれる。


 

……のだが、しかし。



「…でも…」


「うん?何かあるのか」


 自分でも中々のものだとは思うのだが、1つ問題が。



「…見た目と、力……釣り合わ、ない…」


 明らかに、少女の細腕で出せる膂力ではないんだよね…

 いっそのこと、エトナみたいに筋骨隆々な見た目にしようか。でもそうすると、体を形作るのに多くの触手や養分を費やすことになってしまうし…

 ううむ、筋肉の人達がよく口にしている「鍛えてますから」でごまかせないかなぁ……いや、まぁ無理、だよね…


せっかくいい手だと思ったのに…と落ち込む私に、エトナがなんだそんな事か、とでも言いたげに笑いかけてくる。


「その辺は『固有魔法です』でごまかせると思うぞ」



 え、そうなの?



 『固有魔法』というのはその名の通り、人族の中でも特に魔法の扱いに長けたエルフが、個人や一族固有に持っている魔法の事……なのだが…

…いや、でもこれ、グーで殴ってるだけだよ?少なくとも見た目は。



「固有魔法ってのは大概何でもありだからなぁ。身体強化系の1つって事にしとけば、多分怪しむ奴もいないだろ」



 えー……そんなんでいいの…?


 なんでも古い伝承によると、指先1つで天を裂き地を割るほどの、でたらめに強力な固有魔法などもあったのだとか。いや、普通にやり過ぎでしょ、それ。

 魔法って案外、私が思っているより適当なのかなぁ…








 こうして、『魔法とは一体何なのか』という新たな疑問は生まれたものの、私も人並み程度には戦える術を、無事身に付けることができそうだ。


 セレナも頑張ってるみたいだし、私も頑張らなきゃ、ね。








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