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テンタクル・プリンセス-或いは、特異触手個体のこと  作者: にゃー
第二章<学習編>

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第十話 本に学ぶ

ブックマークしてくだっさている方や、感想までくださる方がいて、わたくし感激でございます……!

 おさわり(・・・・)を解禁した私たちは、最初のうちはただお互いの(触)手に触れるだけだった。しかし、いつの間にかどんどん接触面が増えていき(というかセレナの方からぐいぐい来た)…


…気が付けば今では、私がセレナを後ろから抱きしめるようにして、触手を彼女の体に緩く巻き付けるまでになっていた。



 いや、あくまで緩くですよ、緩く。両手両足にも触手が絡まってはいるけど、別に彼女の体を拘束しようという意思はないし、本当にただくっついているだけなのだから、セレナが体を動かすのに支障はないはずだ。


 ほら、接触面が多い方がより多くの汗を吸収できるし、むしろセレナの方から体を預けてきているわけで、決して私が、彼女に襲い掛かったりしているわけではないですよ?私たち、メスどうしですし、ね?



…だから、そこの妙に体の大きなエルフさん。なんとも言えないような表情をしながら、こちらに向かってくるのはやめませんか…



ずんずん歩いてきた、これまでにも何度か見かけたことのある体格のいいエルフが私の前で立ち止まり、セレナに声をかける。


「あー、セレナよ…なんというか、大丈夫なのか、それ(・・)


「至福の極み…!」みたいな顔で本を読んでいたセレナは、声をかけられてようやくそのエルフの存在に気がついたようで、


「あ、エトナさん久しぶりです。1週間ぶりくらいですかね、こっちに顔を出すのは」


女性の方へ顔を向け、そんな言葉を返す。


「ああ、今年もまた村の若者総出で、ちょっと森の奥まで行って狩りをする事になったんだが…その準備やら何やらで忙しくてな」


「毎年恒例の、秋の大狩りですね。もうそんな時期かー」


「うむ。今はまだ風も涼しいが、じき冬が近づいてくる。そうなれば、大きな動物の中には冬眠をするものも出てくるからな」


なるほど、獲物が少なくなる冬に向けて、先んじて食糧を確保しておくと。私も前はやってたなー、食い溜め。

今は、冬だろうとかまわず毎日やってくるであろうセレナがいるから、その必要はないと思うけど。


「それ、私も参加した方がいいですかね?」


「いや、そろそろとはいえお前はまだ成人していないからな、今回はいいだろう。来年からは参加してもらう事になるが」


「りょうかいでーっす」


 セレナはまだ成人、つまり触手種(私たち)でいうところの成体になっていないらしい。まぁ、体もまだ他のエルフたちに比べて小さいし、それもそうだ。

 しかし来年からは狩りに参加するという事は、来年で成体になるという事なのだろうか。1年でそこまで体が大きくなるとは思えないのだけれど…


 あ、ちなみに私は、体の大きさ的にもう立派な成体です。えっへん。




「って、そうじゃなくて。何がどうしてそんなこと(・・・・・)になってるんだ?襲われてるようなら助けてやらんでもないが」


 エトナの目が再び私に向けられ、最初と同じ質問を繰り返す。先ほどから離れたところで談笑していた何人かのエルフたちも、エトナが今まで誰も聞かなかったことにあっさりと踏み込んだためか、今は何だかこちらに意識を集中しているような気がする。


…いや、違うんですよ。これはなんというか、そうギブ&テイク的なね?便利な背もたれになる代わりに、ちょーっと汗を貰っているだけというか、ね?


 しかし汗を貰うってよく考えなくても捕食行動だよね…とか、もしかしてこのまま討伐コースかな…とか、色々と考えて戦々恐々としている私を尻目にセレナは、緩み切った表情のまま、エトナというらしい女性の問いに答える。


「ふふふ…エトナさんがいないうちに、私とミーニャはまた一つ絆を深めたということですよ。ねーミーニャ?」


ねー?などと聞かれても、私は喋れないのだけれど。

一応、通じないとは思うけれども、触手を振っておこう。



うねうね。うねうね。

私とセレナ、なかよし。



「…まあ、大丈夫ならいいんだが。ミーニャもあれだぞ、嫌なら嫌って言ってもいいんだからな?」


「えー。ミーニャはそんなこと言わないよねー?」



…いやだから、触手種()は喋れないんだって。







 その後も中身が有るのだか無いのだかよく分からない会話をしている二人のエルフをよそに、私は、先端に視覚としての機能を集中させた触手を使って、セレナが開いている本をゆっくりと読み進めていた。



 そう、文字を読んでいる(・・・・・・・・)のである。




 喋れはしないものの言葉を聞き通ることはできる私はしかし、少し前にある一つの問題に気がついた。



――人型になれたとしても、喋れるようになるとは限らないのでは?



 私ができる(ようになる予定の)事は、あくまで人族の姿形を真似することだけである。

 見た目を真似しただけでは、人族のその多岐に渡る機能までも完璧に再現することはできないのではないかという事に、形質変化がだいぶ上手くできるようになった今の段階で、ようやく私は気付いたのだ。


 手足を動かすことは問題無いだろうし、見る機能や聞く機能を目や耳の部分に集中させることで、人族と同じような見方、聞き方を真似することも可能だろう。

 しかし、匂いを嗅ぐ機能や言葉を発する機能など、元々触手種()が持っていない機能を再現するのは、外側を模倣しただけではおそらく、というか確実に不可能だと思う。なにせ外から見ただけでは、その機能がどのような仕組みから成り立っているのか分からないのだから。


 声が口から出ていることは分かるし、セレナをじっと観察しているうちに、恐らく息を吹き出す瞬間に何かをしているのだという事までは、なんとなく理解できたのだけれど。しかし、結局ただ眺めているだけでは、それ以上のことはよく分からなかった。


 口の中に触手を突っ込めば体の中身も観察できるとは思うのだが、流石にそれをやったらセレナ相手でも無事では済まされないだろう。というか多分討伐される。




 そんなわけで、人型になった後、人族との意思疎通を図る手段が何もないことに気付いた私は、その解決策として文字を学ぶことにしたのである。喋れなくとも、伝えたい言葉を文字にして相手に見せれば、手間はかかるがまぁ会話をすること自体は可能になる。と思う。




 これを思い立ったのは、セレナの汗の味を知る少し前の事だが、すでに言葉は問題なく理解できていた私にとって、文字を覚えるのはそう難しいことではなかった。ようはセレナが本を読み上げる言葉に、書かれている文字を照らし合わせていけば良いだけなのだから。





 かくして、あっという間に基本的な文字の読み方を覚えた私は、今やゆっくりではあるものの、セレナの読み上げなしでも本を読み進めることができるようになっていた。


…だから早くページを捲ってくれ。続きが読めない。


 お喋りに夢中で、先ほどから同じページを開きっぱなしのセレナに業を煮やした私は、ついに彼女の手から本を奪い取り(いや、あくまで優しくですよ?)触手を使って自分でページを進めていくことにした。



…ふむふむ、人族の信仰する『宗教』というものについて、か。

 こういった、人族の直接目には見えない『心の活動』とでも呼ぶべきものは、国や町といった目に見えるものと同じように、或いはそれ以上に、私の好奇心を刺激してやまないものだ。非常に興味深い…






「……読んでいるのか?」


「どうもそうみたいです、少し前から」


「ううむ………」


「私が話しかける言葉も、だいぶ前から理解できているような感じがするんです」


「確かに、話に聞く触手種とはどうも違うような気がしてはいたのだが、これは………」


「…危険だと、思いますか?…討伐するべきだと?」


「……いや、これほどの事が出来て、もし私たちに対する敵意があったのなら。お前や私、それからここに来る奴らはみんな、今頃干し肉みたいにカラッカラにされてるだろうよ。『敵は討ち、それ以外は受け入れる』、それが村の決まりだろう?だからそんな顔をするな」


「ですよねー!いやぁさすが、エトナさんならそう言ってくれるって思ってましたよー!ねーミーニャ~?」


「…だからってそんな、一瞬で気持ち悪い顔に戻られても困るんだが…」


「ミーニャ、ミーニャぁ。あぁ、ミーニャの触手すべすべ~」


「なにこいつこわいわ………ああ、なんだ、ミーニャよ…強く生きろ…」





 すぐ近くで、色々な意味で危ない会話が繰り広げられていたことにも気づかないほど本に夢中だった私は、急に自分の触手()を撫で擦ってきたセレナの手に一瞬驚いたものの、すぐにそれを邪険にあしらい(でも手のひらの汗はもらった)、再び本を読み進める作業に戻る。



「あぁっ、ミーニャ冷たい…」


「触手の方がエルフよりもまともな反応してるって、どうなんだろうな……」



もう、今いいところなのに。








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