凪の目覚め
自分に凪を転生させたことすら忘れた頃に
彼女はようやく目覚めた。
私がいつもの様に仕事をしていたら、
(あ、あの…)
急に声が聞こえてきた為、私は驚いてしまい
「ピャ!」
思わず変な声が出た。
——何…誰?
キョロキョロと周りを見ても、私の部屋なので誰もいるはずはない。
——空耳かしら?
私は疲れのあまり、ついに幻聴が聞こえて来たのかと思っていた。
(あ、プルクラさん、私です…凪です)
凪は、私が認識していない事に気づき、
自ら名乗り出てくれた。
「あらやだ、凪じゃない!随分とお寝坊さんだったから、すっかり忘れていたわ」
声の主が凪だと分かり、ホッとした私は、仕事の手を一旦止めて、凪に意識を向けた。
(あの、そんなに長い時間でしたか?)
凪は恐る恐る尋ねて来た。
「そうね?赤子がお腹に宿って、生まれて出てくるくらいの時間は経っているわよ」
魂の擦り減り具合から見たら、妥当な時間だったわね。
(そんなに…)
凪は驚きの余り言葉を失っていた。
「意識を遮断していたから、一瞬だったでしょうね。どう?少しは疲れが取れた?」
魂にこびり付いてしまった疲労感は、無くなるはずだけど…
(はい、おかげさまで、随分と軽くなったような気がします)
肉体と違い、精神的な疲れは簡単に取れないから、強制的にシャットダウンしかない
「それなら良かったわ。これから新しい生活になるから、遠慮なく何でも聞いてね!」
質問してきてくれたらいいけど…
(はい、ありがとうございます。あの、私は何をすればいいのでしょうか?)
だよねー、存在価値を考えちゃうわよね
「そうね?好きにすればいいけど…とりあえず、仕事の流れを見てみる?」
私は基本的に仕事しかしてないのよねぇ…
あ、それだと凪が退屈するかしら?
(…はい)
仕事と聞いたからか、凪の魂に少し緊張感が生まれた。
「何か気になる事ある?気になったら、話の途中でも質問を投げかけていいわよ?」
何となく、凪が話を聞きたそうに感じたので、質問を促してみた。
(あの…人生をみるお仕事って…)
凪は伺うように尋ねてくる。
「ああ、想像付かないわよね、たとえば、今見ていた魂の人生なんだけど…」
私は、既にまとめあげた資料を、手に取り凪にみせた。
彼女と一緒に魂の情報を確認する。
「これは既に作成済みだけど、この転生者の基本情報としては、
【 家庭 】
平凡なサラリーマン家庭の次男坊。
両親は優秀な兄に夢中。
比較され、やる気を無くした。
両親に呆れられ、放置されて育った。
【 印象 】
クラスでは、さほど目立たない存在
どこにでもいる平凡な子
【 性格 】
隠キャ気味
正義感が強く、優しい。
【異世界知識】
魔法世界に興味あり
獣人、エルフ希望
強さに憧れあり
【 死因 】
公園から飛び出した子供を救って
トラックに跳ねられ死亡
ねえ凪、トラ転って、今でも言うの?」
一昔前は、転移する魂は、トラックに跳ねられる死因ばかりだった。
多分、死神がサボったのだろう。
——死因に流行りとか不謹慎よね
(お話の中なら聞いた事はありますけど…どうでしょう?)
リアルと物語が、凪の中ではゴッチャになっているみたいね?
「トラ転の事はまたでいいわ。この分厚い資料を読み込んで、簡単に資料に纒めるのよ」
資料は簡単に見えるけど、実際は纒めるのは簡単じゃないのよね
(本当に、魂の人生を見るんですね…)
凪は感心したのか、まるでため息をつくように呟いた。
「そうよ。まずは人生を見て、魂がどんな人間か確認するの。知らなければ、魂の転生先を決める事ができないから」
魂の人生を知るには、かなり膨大な時間がかかるのよ?
(転生先は、プルクラが決めているの?)
あら?随分と驚いているけど、最初に言わなかったかしら?
「そうよ、魂の特徴を見て、世界の一覧から魂の望みと、世界のバランスを見て、能力の追加の有無も決めるのよ」
それをレポートにするのが嫌なのよねぇ…
(凄い、能力の追加まで…ねえプルクラ、世界は、そんなに沢山あるの?)
凪は世界に興味があるのか、だんだんワクワクした気持ちが現れて来ている。
——ワクワク出来るのは、良いことだわ
「昔と違って、今はかなり増えたのよ。この一覧に、世界の特徴が載ってる…って、一覧というか既に図鑑よね」
私は「ヨイショ」と、机の横に平積みしていた、辞書の様な一覧を手元に寄せた。
(こんなに…凄い…)
凪は、世界の数に言葉を失った。
「それぞれの世界の特徴も書いてあるから、分厚いわよね。でも、名前は違うけど、類似の世界も沢山あるから、何とかなるの」
平行世界と言うか、何というか…
(世界って実は、沢山あったんだ…)
凪はどこか信じられない様な、不思議な気持ちになっている。
「因みに、この魂だと、基礎力は良くも悪くもない。コミュニケーション能力は低い」
能力追加が必須だわ…
「魂の希望は、魔法に興味あり、獣人、エルフ希望、強さに憧れがあり、元々正義感もあるから…」
私は、資料をパラパラめくり、剣と魔法の世界の一覧を見る。
その中から、多種族が混ざって生息していて、勇者を求めている世界を探しだす。
「転移時は能力の底上げ必須ね。本人は強さに憧れがあるから、魔法はチート級を付けて、無双できる様に、敵が多いハードな世界が良さそうね」
いつもの流れで、勝手にさっさと決めてしまい、ハッとした
凪の意見も聞いてみれば良かった…
(凄い!プルクラ、凄いお仕事ですね!)
凪は、私の仕事を見て、飛び上がらんほどにウキウキしていた
「凪、褒めてくれてありがとう。この後、良かったら一緒に資料を纏めてみない?」
思いの外、良い反応なので尋ねてみたら
(え!見てもいいの?よろしくお願いします)
凪は、仕事に対してノリノリだった。
——私の読み通りになったわ
私は嬉しくなって、思わずニヤリとほくそ笑んでしまった。




