同僚は心配する
コンコン
誰かが扉を叩く。
「ハイ、どうぞ」
ガチャリと、扉を開けて入って来たのは…
「プルクラ、様子はどうだ?」
ギードは、部屋に入って来るなり、心配そうにこちらを見つめている。
「ギード、心配ありがとう。凪はちょうど今、眠らせたわ」
私は、自分の胸の辺りを、トントンと軽く叩いてみせた。
「そうか…その、どうだった?」
ギードは、私が叩いた胸元にチラッと目をやると、すぐに顔を逸らした。
「凪の魂は、かなり弱々しかったから、私が受け入れたのは、ある意味正解だったかも」
一旦、しっかり休ませる事で、魂の回復自体は出来るだろう。
「そうか、それよりも、プルクラは大丈夫なのか?」
それよりも…って、心配してくれるのは嬉しいけど、神としてはどうなのよ?
「私は問題ないわ。ただ、自由を与えるつもりはないから、不自由なの。それだけが心配ではあるわね」
自分の思い通りには動けないのは、嫌よね…
「今は、疲れているんだろう?不自由を感じ取れるくらいの、自己主張が生まれたら、転生させれば良いんじゃないか?」
ギードは、さらっと良い感じに、提案をしてくれたけど…
「それだと、手伝って貰えないじゃない…」
私は優秀な人材を求めているのよ。
「なんだ?それが本音か?そんな事の為に、わざわざ自分に転生させたのか?」
ギードは、ギョッとしている。
「そうよ?凪の好きな事はプレゼンで、特技は資料作成なの。こんなに素敵な人材、中々いないわよ?」
何か問題あるかしら?
「プルクラ、次の会議には、必ず人員補填を申請するから、もう、無茶はやめてくれ」
ガックリ項垂れたギードが、縋るような目で見てくるけど
「私が無茶をするのは、今に始まった事じゃ無いでしょう?今更何言ってるのよ。貴方、最近、なんだかおかしいわよ?」
不思議に感じたので、首を傾げてギードをみつめると、
「あ、いや、なんて言うか…その…そう!前例がないだろ?前例が無い。だからだ!」
ギードは、ちょっとワタワタした後、やたら『前例が無い』と力説している。
「まあ、いいわ。とりあえず、なんともないから気にしないで」
私も少し休みたいから、さっさと帰って欲しいのだけど、彼はソワソワしたまま、まだ帰ろうとしない。
「…プルクラ、もし、おかしな事になったら、俺がなんとかするから、必ず俺に言えよ!じゃあな!」
ギードは、早口で捲し立てると、言たい事だけ言うと部屋から出て行った。
「なんで、わざわざギードに、言わなきゃならないのかしら?」
——転生案内人だからかしら?
いちいち言わないし、ま、なんでもいいか。
今日は、もう疲れてしまったので、入り口の扉を施錠して、就寝の支度を始めた。
「凪は、いつ起きるかしらね?とりあえず、起きたら、私の仕事を見てもらって…一緒になって…考えて…」
私は、ベッドの中で考えてみたけど、慣れない事ばかりで疲れたのか、身体を共有した事で、疲労を感じていたのか、
その日は、あっという間に眠りに落ちた。
***翌朝
コンコン
——誰よ
「プルクラ!俺だ」
——なんだ、ギードか
コンコン、コンコン
——ギード、うるさい
「おい!いないのか?」
——ギード、しつこい
ドンドン!ドンドンドン!
——うるさいわね?なんなの!!
扉を叩く音と、声が大きくなったので、
私は、イライラしたまま扉を開けた。
ガチャ
「何?」
私はイライラした顔で、ギードを睨んだ。
眠りを妨げるなんて、いい度胸ね?
「おい!プルクラ、大丈夫か?!」
扉を開けたら、ギードが慌てながら、私の肩を掴み、顔を覗き込んできた。
「ギード、離れて。寝てたのに一体何よ?」
私は彼の手を、身体を捻り振り落とした。昨日にしろ、私の事を構いすぎだ。いい加減にして欲しい。
「お前、普段眠ったりしないだろう?報告がしたくて、何度か立ち寄ったんだが、朝から返事が無いから心配したんだ…」
——確かに、普段の私なら眠らないわね
私は仕方がないか、と思いながらもつい、
「はぁ」と、ため息をついた。
「で、報告は何?」
気を取り直して、ギードに仕事の話を振る。
「ああ、昨日最初に転生させた、勇者の魂の事なんだが、何だか勘違いをしていたみたいで、生後すぐにベラベラ喋り出して、悪魔付きとして命を落としたそうだ」
——は?あの魂、何してるのよ
「勘違いって…何をどう勘違いしたら、赤子でベラベラ喋ろうとするのよ?」
お喋りな魂ではあったけど…
「魂を回収して、本人に聞き取り調査をした所『チート』か『俺TUEEE』と勘違いして、勝手に特別感を出そうとしたらしい」
ギードは、理解不能だと、両手を上げた。
「意味がわからんし、お手上げ状態だったから、魂は保存して、一旦相談に来たんだ」
魂が異世界転生に対して、理解が有るのは良いけれど、新しい世界が増えるほど、魂達の知識も増え、余計なトラブルが増える。
「今後、転生案内の時、『注意事項も伝えた方がいい』と、資料に記載するわ」
勇者の魂を送った世界などは、何かとシビアだ。甘えた考えだと、すぐに消される。
「プルクラ『チート』ってなんだ?」
ギードは、聞き取り調査中に、言葉の意味がよくわからなかった様だ。
「チートは、元々はズルとか騙すからきてる言葉よ。ゲーム用語だと不正行為ね」
最近は、世界もだけど、言葉も増えているから、常に更新しないと大変なのよね
「魂の言っていた『チート』は常識はずれの力や、能力の事よ『俺TUEEE』も似た様な感じね。それが許される世界もあるの」
一時期はやたらと流行ったけど、今でも結構希望者は多いわよ?
「魂にはとりあえず、チートじゃない事と、『努力型チート』だとでも言って、地道にスキルアップを頑張る様に言えばいいわ」
リベンジなら、アホな事はしないでしょう
「分かった…プルクラ…」
ギードは納得した後、まだ何か言いたそうだけど、目覚めたなら今から仕事がしたい。
「ギード、これ以上何か言ったら、一切口効かなくなるけどいい?」
私はギードに、にっこり笑いかけた。
余計な言葉は完全に拒否だ!
ギードは、慌てて頷くと、肩を落としてトボトボと去っていった。




