エピローグ
凪とお別れしてから、私に仕事仲間が増えた。
ギードが人事部に掛け合ってくれたおかげで、今では3人体制で仕事をしている。
「この量を、以前は1人でこなされていたんですよね?」
研修を終え、今ではすっかり仕事に慣れた2人が、実務をしながら私に話しかけてきた。
仕事をしてみて、1人でやる仕事量じゃないし、あり得ないと思っているみたい。
「眠らなければ出来るわよ?」
私がそう説明すると、2人は明らかに嫌そうな顔をしている。
「プルクラ様、お願いです。その考えは変えて下さい。そのままでは明らかにダメです」
なんと、新人から、以前の私の仕事のやり方を全否定されてしまった。
「2人が来てくれたし、もうしないわよ」
凪の転生後、私は一度も彼女の生活を覗いてはいない。
中途半端に見てしまうと不安になりそうだったから、新人研修があるのを理由に、見ないふりを決め込んでいた。
「この資料、ギードに渡してくるわね」
私は確認済みの資料を持って部屋を出ようとしたら
「プルクラ様、そのままお茶でもしてきてください。お願いだから少しは私達に任せて、休んでくださいね」
2人に、にっこりと笑顔で送り出された。
——すぐに戻って仕事したら怒られるわね
私は、返事をあやふやにしたまま、ギードの部屋に向かった。
コンコン、ガチャリ
「ギード、資料を持ってきたわ」
私は、遠慮せず中に入って行く
「プルクラ、お前の所の新人2人から、こちらにクレームが来たぞ」
ギードは、手を止めて資料を受け取ると、私をソファに座るように促し、お茶をいれてくれた。
「あの子達はなんで?クレームって何よ」
私に言わず、他部署のギードに言うなんて…
——正直ちょっとショックだわ
「あの子達は、お前がなかなか休まない事を心配してるだけだ。仕事のしすぎだとさ」
ギードは、私の前に紅茶とクッキーを出してくれた。
「最近は、ゆっくりやってるわよ」
さっき出てくる時にも、釘を刺された事を思い出して、ちょっと気まずい。
「あれから、どれだけの月日が経ったかな?『天鏡』は俺の元にあったし、プルクラ、凪の様子は見てないよな?」
ギードが、棚から『天鏡』を取り出した。
「ギード、私、凪を見るのがちょっとだけ怖いのよね」
隣に座ったギードは黙って天鏡を、私の膝に置いた。
「怖くてもみた方がいいぞ。それに、残念ながら凪に『天啓』を授けるタイミングだ。お前が告げるんだろ?」
いつのまにか、そんなにも時間が経っていたのね。
天界と他の世界だと、流れる時間が違う。世界の10年などは、天界だと一瞬だ。
「ギード、一緒に見てくれる?」
1人でみるのはちょっと不安だ。
「構わないが、プルクラ『天啓』を授ける時に、混乱を招くから絶対に余計な事を口にするなよ?」
ギードに念押しをされたけど、私に対して失礼だと思うわ
「さすがに必要な事しか言わないわよ」
私はそこまで馬鹿じゃ無い。
「凪の魂だけど、もう凪じゃ無いからな?」
ギードに言われ、冷や汗が出た。今聞かなければ、凪と呼んでいただろう。
「だ、大丈夫ょ…」
やばい、目が合わせられない。
「とりあえず天鏡をみて、タイミングが合えば『天啓』を授けよう」
私とギードは、天鏡の中を覗き込んだ。
鏡の中には、仕事をしている女性が映し出された。
「彼女が凪?随分と大人になったわね?」
私は魂の存在しか知らないから、見た目がどのように違うかはわからないけど、凪の魂だと言う事はわかる。
「アルゼ、この魔道具の修理は終わってるのかな?」
作業部屋の様な場所で、1人の男がアルゼ(凪)に話しかけた。
「修理はできてます。一度ゴルドファブレンに向かいますけど、言われた仕事以外で、何か他に届ける物はありますか?」
凪の名前は、アルゼに変わったようだ。
「あー、幾つかあるから、とりあえず馬車に積んでおくよ」
そう言って、男は部屋を出て行った。部屋には、アルゼ(凪)しかいなくなった。
「話すなら、今だろうな」
ギードに言われ、私は凪の周りに防音結界を張り、彼女に話しかけた。
「アルゼ聞こえますか?」
彼女は、ビクッとした後に、周りをキョロキョロしている。
「アルゼ貴女には使命があります。特別な力『真実の瞳』を授けるので、上手く使いなさい」
私がそう言うとギードは凪に『真実の瞳』を授けた。
「え、怖っ!誰かいるの?」
アルゼ(凪)はキョロキョロしている。ちゃんと話を聞いているのかしら?
少し不安を感じていたら、隣でギードがため息を吐き
「お前は、勇者パーティーの魔法使いだ!」
と、アルゼ(凪)に伝えていた。
「はえ?」
ギードの声に驚いたアルゼ(凪)は、妙な返事をしていた。
——これ以上、長居は無用ね
「瞳の力は貴女の助けになるでしょう。頑張りなさい」
私は声を掛けて、声を届ける事をやめた。
「お疲れ様。口を挟んで悪かったな。下手に騒がれたら誰か来そうだったからつい」
ギードは謝ってくるけど、私の我儘でやらせてもらったんだから文句はない。
鏡の中の凪は、机の引き出しを開けると、彼女と青年が描かれている姿絵と、眼鏡を取り出すと、
凪は、その絵に話しかけた。
「シュラーフ、さっきのは、なんだったのかしらね?なんか、目の色も違うし…まあ、いいか、今からまた出張なんだ。帰ってくるまで待っていてね」
そう言うと、取り出した眼鏡をかけ、姿絵を大切そうに引き出しに戻し、鍵をかけた。
「おいプルクラ、凪はこの絵に描かれた男とどんな関係なんだろうな?」
ギードは、ワクワクしながら見ている。
人の恋路には興味がある様だ。
「さあ?関係はわからないけど、好きな人はできたみたいね?」
ギードは好かれてたのに、残念だったわね?
私はギードに対して、少しだけ憐れみを感じていた。
「彼女なりに頑張っているみたいだな」
ギードも、気にはしていたのだろう。凪を見てホッとした顔をしている。
「そうみたいね。好きな人と、幸せになれたら良いわね?」
今世は幸せになってほしいわ。
「…そうだな」
何となくギードの歯切れが悪い
「何?ギード気になるの?」
やっぱり、自分を好きだった人が新しい恋をするのは許せないのだろうか?
「いや…まあ気にはなるな」
ギードは、まだ天鏡の中の凪を見ている。
「ふーん」
気になるんだ…
なんだか、モヤっとするわね
「何だよ?」
ギードは、チラッと私の顔を伺っている。
「別にぃ?」
私の事を、チラチラ気にしているギードを見て、なんとなく気持ちがスッキリした。
——なんでかしらね?
凪、今は幸せ?
何十年も先に、天命を全うしたらその時に
——また会いましょうね
トングが聖剣【勇者チャコ】の話
おかん転移【聖女トーコ】の話
以心伝心【賢者ティーフロート】の話
と、3話にまたがり、キーパーソン的な役割をしていた【魔法使いアルゼ】の前世でした。
彼女は、それぞれの話では主役ではありませんが、全てに出てきました。
トングが聖剣のep41で、チラッと記憶が無い事や、天啓を授かった話が出て来ています。
お暇があったら探してみてくださいね!
世界が繋がっているので、もし良ければ、他のお話も遊びに行ってみて下さい。
読んで頂き本当にありがとうございました
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