『転生者会議』
会議って聞くだけで、テンションが下がるの…
会議室が近付くにつれて、ウキウキしていた足取りはだんだんと重たくなっていった。
いいアイデアが浮かんだとはいえ、今から、プレゼンをする事に変わりはないのよ。
——んー、面倒くさいわ
天界にある議事堂は、宮殿と隣接していて、同じ作りをしていて、豪華絢爛。
天井にはキラキラしたシャンデリアがあるし、壁際には誰かわからない女神像もある。
現実逃避中の私は『この女神は誰かしら』と、どうでもいい事を考えていた。
さて、切り替えますか
到着した私は、ため息をつきつつ、会議室の、無駄に立派な扉を押し開けて中に入る。
会議室入ってすぐに、私が1番最後だと嫌な事に気付いてしまった。各部署の責任者達は既に集まっている。
——やば、完全に遅れたかも
入室した時、皆が一斉にこちらを見た。
円卓の空席はひとつだけだった。
——さすがにまずいわ
かなり気まずくなり、議長に書類を提出した後、周りに愛想笑いを浮かべながら、ぺこぺこ頭を下げ、自分の席に着く。
「お前、来るのが遅いぞ」
私が座ると、隣の席の同僚、男神ギードは身体を寄せ、小さな声で文句を言ってきた。
「そんな事分かってるわ、レポートが終わらなかったのよ、仕方がないじゃない」
——私の部署には、私ひとりしか居ないの。
「それは…まあ、そうだったな、すまん」
納得した様で良かったわ。彼の部署に6人も居るのはちょっとずるいわよね?
隣にいるギードは、転生者に説明と能力を付与して、異世界に送り出す
『ガイド役の神』のリーダーだ。
私の忙しさは彼が一番理解しているはず…
なのに文句言うとか、ちょっとありえない。
まあ、謝ったから許すけど
「揃ったみたいなので、始めましょう」
私が纏めた企画書を、複数枚複写したものが皆に配られた。
——企画書を見るだけなら、楽だろうなぁ
私はそんな事を考えながら、今から説明をして、その後、飛んでくるだろう質問に、
ドキドキしていた。
——あぁ、嫌だなぁ
「プルクラ、説明を」
始まっちゃった…やるしかないわね
「はい、今回の転生者は10人になります」
私の言葉に、周りは一気にざわついた。
——多くて驚くわよね
「資料の1枚目が、転生者の配置予定です。
1 魔法の世界 魔王討伐推薦2名
2 物語の世界 悪役令嬢希望1名 推薦2名
3 国の立て直し推薦1名
4 特殊能力スローライフ希望2名 推薦1名
5 女神転生1名
以上が、今回の割り当てになります。
魔王討伐推薦2名と、悪役令嬢推薦2名、
スローライフ推薦1名は、能力付与が必須ですが、それ以外は、加護と強化で賄えます」
神たちは、案の定ザワザワしている。
「質問だが『女神転生』これはなんだ?」
質問したのは『能力開発部』のミカニコス
魂に付与する『能力を研究開発』する技術者集団のトップ。
彼は、新しい可能性に興味津々なのか前のめりになっている。
「そのままの意味です。この魂は、私に転生させます」
周りのザワザワがどよめきに変わった。
「な、なぜそんな事をしようと考えた?」
あり得ない物を見る様な表情で、問いただして来たのは、『世界の魂数調整』をしている部署のリーダーのアルビトル。
魂数の把握、大変よね?
イレギュラーな配置は、把握が面倒だから出来る限りして欲しく無いのだろうな。
「資料の最終ページを見てください。本人の希望は無く、ご覧のとおり、彼女の魂はどの世界へ転生させても、疲弊する魂なのです」
パラパラと、皆が紙を捲る音がする。彼女の事はレポートを見れば一目瞭然なのよね
彼女の『自己犠牲』は、ちょっとやり過ぎよ
「私の元で、一旦彼女を癒します。様々な人生を見せ、認識を改めさせた後、本人が希望する時に転生させます」
——彼女は、もっと自分を大切にしなきゃ
とは言え、私の仕事を助けて貰う気満々だけど、好きな事ならいいわよね?
「人を女神に転生だなんて…大丈夫か?」
心配そうにしているのは、様々な異世界で
『信仰される神』の取りまとめ役を務めているアースターだ。
色々人の欲を見ているから心配なのね
確かに欲のある人間なら、女神の力で勝手な事をしたりするかもしれない…
その辺りは、勿論、考慮してあるわよ?
「私の主導権や、意識を渡す訳ではないので、問題はありません。転生時には、認識以外は記憶も消しますので」
私の言葉に、皆は少し落ち着いた様だ。隣の席の男神は、難しい顔で腕組みしている
納得はしていないみたい。何故かしら?
「お前はそれでいいのか?」
議長である創造神ディミウルゴスが、真剣な表情をしたまま、私に確認をして来た。
創造神は、どっしり構えてるわね
「構いません」
創造神ディミウルゴスは、頷くと皆の事を見渡し、皆の表情を確認している。
「他に無いなら、このまま企画を通すが」
私も皆を見た。まだ難しい顔の者もいる。
なぜそんなに難しく考えるのかしら?やってみてダメなら、その時考えればいいのに…
「お待ち下さい、やはり、前例が無いと…」
止め入ったのは『法の番人』オルディネ。
それぞれの世界の『秩序を維持する者達』を従えている。
貴方は新しい事が、本当に苦手よね
「確かに前例は有りません。だからこそ、やってみたいのです『魂救済の可能性』を広げてみたいのです」
ごもっともな感じで言ってるけど…
『仕事を2人でやれば、楽出来るかな?』そんな思いが、かなり占めているんだけどね…
——実際に、彼女の事も気になるしね
皆、まだ納得はしていないけど、理解はした様で、それ以上、反対の言葉は無かった。
「とりあえず、期間を決めてやる様に」
議長からの言葉に、皆がうなずいた。
「ありがとうございます」
私は、心の中でガッツポーズをしながら、創造神ディミウルゴスに向かい頭を下げた。
「後から報告をする様に」
ディミウルゴスの言葉に、思わずぐっと息が詰まった。
それって、報告書が増えるって事よね?
——早まったかもしれないわ
「畏まりました。では、能力付与の件で…」
私は一旦、余計な迷いを振り切った。
皆の質問も終わり、それぞれが手元の資料の確認に集中しているのか、
あちこちで、パラパラと紙をめくる音がする
「注意が必要な人は、お渡しした付箋に書いてありますので、再度ご確認下さい」
順番が前後してしまったので『女神転生』以外の魂の特性と、魂の転生先の割り振りについて、その後は詳しく話し合っていく。
会議は順調に進み、長かった時間がやっと終わりを迎えてくれたので、ホッとした。
「これにて、終わりとする。お疲れ様」
議長が出て行くと、各自仕事があるので、さっさと席を立ち自分の部署へ戻って行った
——あー、疲れたぁ
私は資料の束を手に、自分の部屋に戻る
部屋の前には、なぜかギードが待っていた
「ギード、こんな所でどうしたの?」
質問なら、さっきすれば良かったのに。
私は面倒だなと思いながら話を振ってみた
「なあ、プルクラ、考え直さないか?」
ギードは、私の手を掴み、ずいっと近寄ると、さっき決まった転生に対して
今更、考え直せと言って来た…
——なんなのよこいつ?
——とりあえず、手、離してくれないかしら
プルクラは、仕事に関してはとても有能な女神ですが、プライベートは残念女神です。




