異世界転生を司る女神
新連載をスタートします!
今回は、週2位のペースで投稿予定です。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
亡くなった後、異世界転生前に能力を与える
神様が出て来たりしますよね?
女神に転生!では、そんな神様達の
お仕事模様をお届けします。
ゆっくり楽しんでくださいね♪
そもそも、同じ体で2人分の意識を持つなんて、無理があったのよね…
趣味趣向や、考え方が違うんだもの。
ましてや、女神の私と人間の彼女じゃ、求める物が違って当然よね
「バイバイ凪、今までありがとう。これからの貴方はもっと幸せになれるわ…」
〜*〜*〜*〜
「あぁー!今日もまだあるのぉ?」
部屋で、ひとりで泣き言を言い、私はへなへなと執務机に突っ伏した。
透き通るように美しいと褒められる肌は荒れ、上質なシルクを連想させるはずの銀糸の髪は、仕事中は紐でひとまとめにしてある。
周りから美しいと賞賛される顔も、今は伸び切った前髪に隠れているけれど…
——見た目なんか構っていられないわよ
私は、その邪魔くさい前髪をかきあげた。
「最近異世界に転生する人が多すぎるのよ、世界が幾つあっても足りないわ!」
そう叫んだ私の名前は、女神プルクラ。
『異世界転生を司る女神』よ、よろしくね?
最近は特に異世界への転生者が多い。
かなり忙しく私の元へ次々と『転生予定者』のリストや、それに纏わる資料が積み上がっていくの…
「え、まだ増えるの?」
机の横に設置されている、書類の転移箱は今にも溢れてきそうで、私は泣きそうだ。
——お願い、誰でもいいから、手伝って!!
私の仕事は、非業の死を遂げた魂を救済するために『魂に見合った転生先』をマッチングすることなんだけどね…
——最近になって、量が多いのよ!
「何なのよ?最近の異世界転生ブーム」
ぶつぶつ言いながら、次の書類を手にして、私はあからさまに嫌な顔をした。
「どいつもこいつも!何でこんなに疲弊してるのよ、日本は何かおかしいの?」
送られてきている資料の『死因』を見ると
・過労死
・過労による転落
・過労から来る前方不注意の事故
「おかしいでしょう?皆、疲れすぎよ」
中には、
・人助けの巻き込まれ事故
・そもそも病気
・不慮の事故
なども、有るにはあるけれど
「やたらと『過労』の文字が目につくわね」
もしかして、労働時間が長いのかしら?
気になって、確認してみても…
「ダメだわ、資料を見る限り、最近の私も過労死レベルの動きしてるわ」
私は女神だから、いくら働いても、死ぬ事は無いけど…
——私だって、ちょっとは休みが欲しいわ
手元にある分厚い書類は『転生予定者』達の中でも、かなりハードな人生が記録されている個票で、内容が濃い物が多い。
確認する事は簡単ではないのよ。
人ひとりの人生を確認するので、ぶっちゃけ、かなりの時間がかかる。
——隅々まで読み込むこっちが疲れるわ
平穏な人生を送った魂の資料は、事案が無いので確認も簡単で、認証さえすれば、時が来たら輪廻の輪に送られていく。
残念ながら、それらの平和な魂は私の管轄ではない…
「ただの『転生部』が羨ましいなぁ」
そもそも『異世界転生』は、
・特殊な生い立ち
・不遇な人生
・突出した才能
などの人を、不慮の事故か、病気で記憶を持たせたまま異世界に送る。ちょっとしたボーナスステージなんだけれど
最近は違う。
今手にしている資料は、職場環境がとても悪くて、人間関係にも疲れた青年のものだ。
「過労による意識混濁、階段から足を踏み外し、打ちどころが悪く、搬送先にて死亡」
才能があっても無くても、不遇な扱いを受けるのは、今の時代普通なのか…
「この忙しさは、異世界転生の条件を、満たしてしまう者が一気に増えたのが原因よね」
条件を満たしたからといって、全ての人が異世界転生できる訳じゃない。
本人に異世界への理解があるかを調べて、精神的に適応できる人を、選別するの。
——じゃないと、精神が壊れちゃうから
選別後に『適応できる魂』のマッチング先を決めていくのだけれど…
「マッチング先の決定が面倒くさいわ。手間が掛かるし、大変なのよ…」
疲れてるからか、私は泣きたくなってきた。
「あー、今からコレまとめるのよね…」
ずっしり重たい資料に、正直辟易だ。
転生先のマッチングは、生前の思想、執着、夢、後悔、得意分野などを考慮し、それをもとに世界を選んでいく。
「彼は…記憶と魔法ありで、能力の追加無しでいいよね?」
階段から落ちた青年は、料理が趣味だし魔法が使えれば、なんとかなりそうだ。
「彼は、比較的平和なスローライフを送れる世界へと、転生させる事にしようかな」
必要に応じて、追加で能力を与えるけれど、他の世界とのバランスを崩さない為に、
能力を追加する場合は『転生企画書』を作成し、他の神達と話し合わなければならない。
確認済みの資料と、企画書をまとめ終わった物は『転生予定者リスト』にチェックを入れていく。
「あー、どうしよう、間に合わないわ」
次の資料に手を伸ばしながら、時間のなさに思わず嘆いてしまう。
今日は『転生者会議』があるのに…
転生者会議は『異世界転生予定者』の、転移先と能力追加を纏め発表する事になる。他部署との連携をはかるために必要な事。
大切な会議なので、遅れるわけにはいかない
「げ、追加能力要るやつじゃん、やだなぁ」
私は渋々、レポートを書き始める。
なぜその魂に能力が必要かを、企画書に記し、この後プレゼンしなければならない
「せめて、魔力量は増量して欲しいな」
レポートの備考欄に追加で
『基礎スペック低、何らかの強化必須』
と、記入した。
企画が通らなければ、追加能力無しでのリスタートは、基礎スペックが低くて戦闘ありきの魔法世界だと、すぐに命を落とす。
「能力の追加が無理なら、フルリセットで輪廻転生行きね」
本当なら、日本に転生した方が楽そうだけど、本人の意識に異世界転移への願望があるなら、叶えてやりたくもあるのよね…
ただ稀に、チートを夢見る者から、クレームが届く事もある。能力の付与には気をつけなければ、窓口に文句を言われてしまう。
「今日の分は、コレだけかな?」
集中していたからか、沢山積まれた資料は、後ひとり分、一束で終わる。
ほっとして、最後の束を掴むが…
「何でこんなに分厚いのよ…」
明らかに前の2人とは、分量が違う。
資料を読むのはいいけど、コレを読んでいたら会議の時間に間に合わないかも…
「んー、どうしようかな」
とりあえず、分厚い資料をパラパラめくって見た。見た感じの印象は普通の娘。
悪い事はせず、真面目にコツコツと生きて来たようね。正直者で正義感が強く、貧乏くじを引かされる娘ねぇ
「やだ、分厚い理由が貧乏くじばかり?」
見た感じ、断らない為、嫌な事は全て彼女に回って来ているのか、その報告ばかりだ。
「えっと…夏休み、周りが優先して連休を使い、譲っていたら、休みが全く取れず…」
——彼女、実家にも帰れなかったのね
「台風の日、遠い人の仕事を変わったらいつの間にか誰もいなくて、施錠確認作業中に電車が止まり、そのまま会社に一泊…」
——『仕事が捗ったわ』ってバカかしら?
仕事のキャリアも、ハラスメントに耐えながら役職付きまで頑張っていたようで
「セクハラが酷いと有名な、取引先の接待は必ず回って来たのね…」
この子何度も、危ない目に遭っているわね
なんとかギリギリで回避してるけど…
——他の子じゃなくてよかったって
——お人よし過ぎないかしら?
この娘は思考回路の全てを、仕事に振り過ぎなのよね。凄いとは思うけど
——他者のために身を削り過ぎよ
「死因は、車に跳ねられる事故ね…」
人生の経験値も高く、品行方正…
「働き者なのね…そこは共感出来るわ」
転移先の希望は…無さそうね、彼女ならどこに行っても困りはしないだろうけど、
『自己犠牲』彼女の長所だけど、行き過ぎた行為は、最大の短所だわ。
——断らないのは致命的よね
結局どこに行っても、便利屋扱いされてしまう姿が想像出来てしまう。
あれもコレも違う、資料を元に散々と迷うも、彼女に見合う転生先が思いつかない。
——もう、ギリギリの時間だわ
悩みながら、何が無いかと、来歴では無く、彼女の生前の好きな事と特技を見た。
好きな事・プレゼン
特技 ・資料作成
——あらまあ
私の苦手な項目を網羅していらっしゃる。
—— あ、良いこと考えた!
私は思わずニヤリとした。自分でも驚くほど、素晴らしい考えが浮かんでしまったわ。
「あの娘を私に転生させればいいじゃない」
そうすれば、私はあの子であの子は私になるから。お互い足りない物を補えるわ。
——ひとりでやるのは疲れちゃったのよ
——ねぇ、貴方も、そう思うでしょう?
彼女の資料をスルリと撫でた。
時間がなくて、大慌てで資料を纏めたら、
なんと通常の3倍速で仕上げる事ができた。
「さすが私!やればできる子!」
自画自賛をして、スキップしながら、
私は『転生者会議』の会場に向かった。
この時の選択が、彼との関係を後々厄介な物にするなんて、私は考えもしなかったわ…
プルクラは、どの魂にをどこに送るか、能力は何を与えるか、をマッチングする女神なので、異世界転生に置いては裏方さんです。
ポンコツ女神ですが、これからプルクラの事をよろしくお願いします。
次回、『転生会議』です。
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