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#66 植物兵器

 フェアリーマッシュが仲間に加わってから1か月ほどが経過した。

 彼らが仲間になってからしばらくの間は反乱を警戒していたが、杞憂だったようだ。こちらの指示を守ってくれており、必要以上に菌糸を伸ばすこともない。

 樹海の中にキノコで作られた像が点在している点と、カラフルなキノコが生えていること以外は、普通の森に見えるようになっている。

 普通のキノコに擬態したフェアリーマッシュたちが夜な夜な動き出し、像の周りで怪しげな儀式をしているのは気になるが、わざわざ聞きだす必要はないだろう。

 こちらを神と誤解している彼らのことだ、もし聞いてしまうとまた面倒なことになるに違いない。ここは知らないふりをするのが一番だ。


 ダンジョンの防衛も、前回の戦いの影響か侵入者が全く来ない日々が続いていたのだが、最近ではちらほらと冒険者らしき人間がダンジョンへとやって来ている。しばらくすれば、また以前のような状態に戻るかもしれないな。

 ダンジョンの侵入者が増えているということは、また大規模な攻略が行われる可能性もある。今のうちにダンジョンの強化を完了させておく必要があるだろう。


 アントレディアの存在もばれてしまったので、積極的に侵入者と戦わせることで戦闘の経験を積ませている。なかなか順調のようで、戦うごとに成長して徐々に戦闘を有利に運べるようになってきているな。

 名持ちのアントレディアの中には身体強化を使えるようになった者もちらほらと現れ、完璧とは言えないがそれでも大抵の相手なら力で押し勝つこともできている。

 まだまだ技術面では相手に負けているようだが、その能力と数でもって対等以上に戦えるようになっているのだ。

 アントレディアは、今後のダンジョンの主力となる戦力だ。これからも頼りにさせてもらうとしよう。


 さて、今日は工房の方から開発した物を見てもらいたいとの申請が来ている。さっそくフィーネを連れて向かうとしよう。


「おーい、フィーネ。今日は工房を覗きに行くつもりなんだが、一緒に来てくれないか?」

「うん! いいよ!」


 コアルーム内で、仲間の妖精たちと遊んでいたフィーネに声をかけると、笑顔で応じてくれた。

 新たな大樹を妖精の里に植えて以降、里に住む妖精たちが暗い表情を浮かべることは少なくなった。かつて住んでいた森を懐かしく思うことはあるようだが、ダンジョンでの生活にも慣れたようだ。

 彼女たちがかつての元気を取り戻すとともにフィーネの心配事も消えたようで、笑顔を浮かべる時間が長くなったように感じる。

 その代わりに、妖精たちのイタズラの頻度や規模が大きくなったが、アントたちも気にしていないようなので問題はなさそうだ。むしろリボンを結び付けられるのが一種のステータスのようになっている様子もある。


 快諾してくれたフィーネと、周囲にいた妖精たちを連れてコアルームの近くへと移転した工房へと向かう。

 工房区画の中へ入ってしばらくすると、青いリボンのアントレディア――シュミットがこちらへとやって来る。作業を中断してこちらへとやってきたようだ。


「ギギー」

「ああ、今日はよろしく頼むよ」


 最近では簡単なやり取り程度ならば、妖精たちの通訳なしで何とかなるようになってしまった。詳細なやり取りはさすがにまだ通訳が必要になるが、アントレディアたちは身振り手振りを交えてくれるので意思の疎通がしやすい。


 さっそくシュミットに案内してもらい、工房の中を進む。フィーネの通訳によると、今日は以前から開発を進めていた植物を使った兵器を見せてくれるようだ。

 以前から開発を進めていたのだが、ようやく形になり始めたとのことだ。既に報告には上がっているが、実際に目にするのは初めてなので少し期待してしまうな。

 一緒についてきた妖精たちも、工房の中を見ては歓声を上げている。さすがに危険なものも多いせいか、ここでイタズラをしたりということはない。


 到着したのは、工房の奥に作られた大きめの空間。縦横1km程の広さの土が剥き出しになった実験場だ。

 工房で作られた武器や道具類は、一度ここで性能を試してからダンジョン内で使用されている。すでに実験場には用意された兵器群が並び、お披露目の機会を待っていた。


「ギギッ!」

「ふむ、まずはバリスタか」

「でっかい弓だね!」


 最初にお披露目されるのは、バリスタと呼ばれる巨大な弩だ。

 以前ダンジョンに攻め込んできた兵士たちが持っていたクロスボウを単に巨大化させたものである。

 本体は品種改良によって作られた植物を利用している部分は少ない。今回のメインとなるのは、矢の部分である。


 シュミットが指示を出すと、巨大な矢が装填される。

 矢に使われるのは、真っ直ぐな槍のような形をした植物の茎だ。先端を尖らせた緑色の茎には、返しのような反り返った棘がいくつも突き出ている。これは品種改良した植物から茎を切り取り、先端を加工した後に矢羽代わりの葉を付けた物である。

 バリスタにつけられたクランクを回すと、弦が引っ張られて発射の準備が整う。発射された矢は風を切りながら真っ直ぐに飛び、200mほど先にある的を掠めてその先へ飛んでいった。


「ギー……」

「そんなことないよ! きっと役に立つよ!」


 的を外して落ち込むアントレディアたちを妖精たちが慰める。

 矢は外れてしまったが、その迫力はなかなかのものだった。妖精たちも歓声を上げていたので、同じ思いだったのだろう。

 もしも当たれば、かなりの威力を発揮できていたのではないだろうか?命中精度はそこまで高くはないようだが、それは今後の改良と練習次第でどうとでもなる。

 通常よりも高いアントレディアの膂力で弦を引っ張れば、かなりの張力が期待できるはずだ。威力も申し分ないものになるのは間違いない。茎についた返しは引き抜く際のダメージを増し、表面に毒を塗れば更なるダメージを期待できる。

 普通の人間相手に使うにはいささか過剰な気もするが、高い能力を持つ人間を相手にする場合はこれでも足りないかもしれない。今後も改良を進めていってほしいものだ。


「ギギー!」

「ダン! 次の実験だって!」

「ああ、何が出てくるか楽しみだな。さっそく向かうとしよう」


 次に向かうのは筒状の砲身が設置された場所だ。こちらはバネ状のツタを持つ植物を使った疑似的な大砲である。

 圧力に反応して伸びるツタの進行方向を、地面に固定した筒で調整することにより中へ詰め込んだ砲弾を飛ばすという非常に原始的な造りをしている。大砲というよりは、投石器に近いかもしれないな。

 一般的な大砲の砲身は作成可能なので後は火薬を用意できればいいのだが、ショップには火薬は存在しておらず、その製造法も材料程度で詳細は分からなかったので難航している。

 硝石は肥料としてショップから、硫黄は火山から手に入るので、今後の開発次第では黒色火薬くらいなら何とかなる可能性もあるが、実用化までは遠いだろう。威力の割にコストがかさんでしまうのも難点だ。いっそのこと、適当な代用品を探してしまうのもいいだろう。


 砲弾として使われるのは、硬い殻を持つ巨大な植物の実である。妖精たちが作り上げたカラフルなボールのような実を付ける植物を改良したものだ。ちなみに、殻を割ると食べることもできる。

 植物を使った兵器の利点は、何といってもコストがかかりにくい点だろう。威力は金属製の砲弾には多少劣るが、適当な場所に植えることで弾を補充することができる。


 砲身の中に木の実が投げ込まれると、少しの時間を置いてから発射される。

 放物線を描きながら飛んだ木の実は小さな点になると、300m程離れた場所に着弾する。


「おおー! すっごく飛んだね!」

「そうだな、これなら実戦でも使えるだろうな」


 こちらはバリスタと違い、細かく狙いを付けるのは難しい。大まかに当たりを付けて打ち込むことになる。

 砲弾の種類はいくつかあり、着弾すると破裂して内部の種をまき散らすもの、粘着質の液体をまき散らす木の実もあるようだ。砲弾を工夫すれば、ファイアアントの燃料やフェアリーマッシュの胞子を相手の周囲にぶちまけることもできるだろう。もちろん鉄や岩の弾を打ち出すこともできる。

 使い方によっては、大軍相手にも高い戦闘能力を持つ相手にも活躍してくれるはずだ。


 その後は何度か試し打ちの様子を見せてもらったり、2階層に作られている砦を覆うことでさらに強化するための植物などを見せてもらう。

 途中で妖精たちが飽き始めていたようだが、気を利かせたアントレディアが木の実を割って妖精たちに振舞ってくれたため、途中で帰ってしまうということもなかった。


「ギギーギ」

「次は世界樹の枝で作った杖だって! これで最後だよ!」

「もう実用化してたのか? 報告にはなかったが――」


 最後に持ってきたのは、ミスリルによる細工とカットされた魔石を使った世界樹の枝の杖である。こちらは報告に上がっていなかったのだが、どうやら完成したばかりらしい。

 戦利品の中には、お手本になりそうな杖はいくつか含まれていたのだが、なかなかうまく加工することができず、製作は難航していたと聞いている。実用化するためにはまだまだ時間がかかると思っていたのだが、嬉しい誤算である。


 世界樹の枝は、周囲にマナが存在している状況ならばある程度の大きさまで急速に育つことが分かっている。そのため、比較的簡単に量産可能なのが大きなメリットだ。

 残念ながら、元になった枝を使った場合と比べると魔法の増強効果は低くなっている。理由はいくつか思い当たるが、どれもすぐに改善できるようなものではない。

 性能が落ちているとはいえ、量産された枝をそのまま使った場合にも魔法の増幅は確認できている。ただの枝から杖に加工した場合はそれ以上の効果が期待できるはずだ。


 杖を持ったアントレディアが、丸太で作られた的を正面に見据えて構える。

 魔法を使うとともに杖の先に現れた火球は、普段の赤みがかったオレンジから、白みがかったオレンジへと変化している。火球自体の大きさも一回りほど大きくなっているな。

 離れているこちらにまで熱が届きそうにも思えるその火球は、的へと着弾すると一気に燃え上がる。炎が消えた跡に残ったのは、真っ黒になって崩れた丸太の燃え残りだった。

 次に土属性の魔法を実験したのだが、こちらも威力が大きく向上しており、丸太をやすやすと吹き飛ばしてしまった。威力は杖無しで魔法を使った場合の、2倍から3倍といったところだろうか? 火属性よりも土属性の魔法の方が相性はいいようだ。


「おおー! すごい! すごいよダン!」

「ああ、予想以上の威力が出ているな! これなら実戦でもかなり役に立ちそうだ」


 予想以上の威力が出たためか、アントレディアたちも驚いている。

 世界樹の枝は未加工の状態でも質の低い杖以上の効果が出ていたが、杖に加工した今では更なる効果を発揮しているな。

 強化後も魔法でも、あのエルフたちの使ったものにはさすがに劣ってしまうが、量産してアントレディアたちに持たせることができれば戦力の増強は大きく進むに違いない。


「ギー! ギギギ」

「次は工房内を見せてくれるみたいだよ! 早くいこうよ!」

「ああ、今行くよ。これなら次も期待できそうだな」


 最後の実験がうまくいき、意気揚々としたシュミットに連れられ、工房の中へと戻る。

 さて、次はいったい何を見せてもらえるのだろうか? 先ほどまでの実験の結果は上々だった。これは工房の内部もいろいろと期待できそうだ。

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