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#53 決死行

 通路の中へと逃げ込むことに成功した、防衛班の冒険者たち。彼らは通路を土の壁で何重にも塞ぐと、すぐに怪我人の治療を始めた。


「これで少しは時間が稼げるはずだ!今のうちに怪我を治療しろ!」

「余力のあるやつは周りを警戒してくれ。油断はするなよ!」


 重傷者から順に治療を続けるが、意識の戻らないものも数人いるようだ。


「逃げ込めたのは、21人だけか。となると残りの13人は――いや、ここではやめておこう。それよりも、これからどうするべきか話し合わなければならないな」


 ようやく治療がひと段落したところで、人数を確認していた防衛班のリーダーが険しい表情を浮かべる。


 しばらくすれば、ジャイアントアントたちがまた攻めてくる可能性がある。人数が大きく減った今、そうなる前に行動を開始しなければその先に待つのは死だけだ。

 死んだ仲間を悼む気持ちもあるが、ここで落ち込んでいれば彼らを弔うことすらできないのだ。すぐに今後の方針を決めねばならない。


「転移陣に使った塗料には予備があったはずだ。それを持っている者はここにいるか?」


 そう言ってリーダーが冒険者たちを見回すと、その中の一人の女性がおずおずと手を挙げた。


「その……私たちのパーティーの一人がその塗料の保管を任されていたはずです。ですが、彼はおそらく……」


 そこまで続けると、女性は顔を伏せてしまった。

 ここにその冒険者がいない以上、予備の塗料はあのジャイアントアントの群れの奥にあるということなのだろう。そこまで予想した冒険者たちから落胆のため息が出る。


「……そうか。となればもう一度あの場所に戻り、瓦礫を退けなければ転移陣をもう一度設置するのは無理か。ジャイアントアントの群れもまだあの場所にいるだろうな……」

「な、なあ、本隊の方はもしものために1ヶ月分の食料はもってるはずだろ?だったらあいつらには悪いが、転移陣の設置を諦めて撤退した方がいいんじゃねえか?


 誰かの言ったその言葉に、数人の冒険者が賛成する様子を見せる。


 逃げこめた冒険者たちの多くは、斥候役などの身軽な装備のものだ。装備の重量があり、落下のダメージが大きかった前衛や、自分の身を守ることができなかった魔法職はその数を大きく減らしている。

 攻撃を防ぐ前衛が少なく、押し寄せるジャイアントアントを殲滅しようにも強力な魔法を撃てる者が足りない。この状態で戦えば、そう長くはもたないのは明らかだった。


「まあ待て、それは最後の手段だ。そもそも俺たちが逃げ込んだこの通路の先が外に繋がっているという保証はない。むしろこんな仕掛けをしてきた以上、この先は行き止まりの可能性の方が高いだろう。たったこれだけの人数だ、戦えない者を抱えながら当てもなく彷徨えば、生きて出られる可能性はまずないだろうな」

「だ、だけどよ……またあそこに戻るって言うのはさすがに無理があるぜ。あんな数の攻撃は防ぎきれねえし、そう長くはもたねえぞ」

「だが、転移陣を設置して本隊と合流しなければ俺たちが生きてここを出られる可能性は低い。それに、本隊は転移陣が動かなくなったことは気付いているだろうが、崩落の情報まではもっていないはずだ。もし俺たちが伝えなかった場合、転移陣の再設置を待っている本隊が壊滅する可能性もある」


 リーダーのその言葉に、しぶしぶとだが引き下がる冒険者。

 撤退を意見した冒険者の考えも間違ってはいない。もしかしたら、通路の先は外に繋がっていて、運良く脱出できる可能性もゼロではないのだ。先ほどの場所へ引き返し、塗料を確保して戻るとなれば更なる犠牲が出る可能性も捨てきれないのだ。


 時間の猶予も残されていないため、それ以降は反論が出ることもほとんどなく作戦が決まっていく。手短に作戦をまとめると、各々がなすべきことの為の準備を始める。

 しばらくして、ようやく準備を整え、覚悟を決めた冒険者たちが通路を塞ぐ土の壁の前へと立っていた。


「いいか!作戦を開始すればもう後戻りはできない!この先に進めば犠牲が出るかもしれない。だが、力を合わせれば乗り越えることができるはずだ!みんな覚悟はいいか!」

「「「「うおおぉーー!」」」」

「では行くぞ!まずは通路を塞いでいる壁を壊せ!」


 リーダーの号令とともに、冒険者たちが持っていた鈍器を振るい土の壁を砕いていく。

 どうやら壁は既に向こう側からかなり削られていたようで、すぐに数人が通れるだけの穴が開通した。

 壁の先へと穴が繋がるとともに、その先から待ち構えていたジャイアントアントがなだれ込もうとする。


「今だ!放て!」


 壁を壊していた冒険者が後ろに下がるとともに、次々と放たれる魔法と投擲や矢による攻撃。

 その怒涛の攻撃は、今にも彼らへと迫ろうとしていたジャイアントアントたちへとぶつかり、その黒い波を押し返す。


「よし、今のうちに通り抜けるぞ!進め!」

「走れ走れ!塞がれる前に通り抜けろ!」

「前衛準備はいいか!ここが踏ん張りどころだぞ!」


 ジャイアントアントが押しのけられ、僅かに開いた隙間を冒険者たちが駆け抜ける。

 5人の冒険者が通り抜けたところで再びジャイアントアントが押し寄せ道が塞がれるが、そこへ3人の前衛職が立ちふさがった。彼らの装備はところどころが土に汚れたり、歪んだ部分もある。ダメージも完全に回復しておらず、万全の状態とは言えない彼らだが、それでも一歩も引かずにその流れをせき止める。


 前衛の彼らがジャイアントアントを押しとどめると同時に、その後方から攻撃が放たれる。魔法や矢による攻撃はもちろん、投擲用の鉄球やナイフ、挙句の果てには使えなくなった装備や、装備を修理するためのハンマーまでもが前衛が押しとどめるジャイアントアントに向けて投げつけられていく。


「うおおぉ!一歩も通すなよ!死ぬ気で踏ん張れ!」

「撃て撃て!ここで撃ち止めになっても構わん!武器も魔力も全部使い切るつもりでぶちかませ!」

「おい!投げられる物はもう余ってないのか!」

「予備の武器ならここにあるぞ!この際だからメンテ用の砥石も投げてやれ!」


 彼らの声を背後に聞きながら、通路を駆け抜けた5人の冒険者たち。そこへ狙いすましたかのように酸の雨が降り注ぐ。だが、大量の酸を被りながらも、ひた走る冒険者たちの足は止まることはなかった。

 酸の中に混じって飛んでくる矢のみを弾き落とし、冒険者たちは走り続ける。


 容赦なく降り注ぐ酸の雨を潜り抜ける冒険者たちは、その体を守る装備の各所に袋のようなものを縫い付けている。

 遠征隊が道中で手に入れたジャイアントアントの素材。その中でもガンナーアント系が体内に酸を溜め込むために持つ内臓器官は、非常に高い耐酸性を誇る。彼らはそれを防具の隙間や肌の露出部分をカバーする形で縫い付けることで、降り注ぐ酸への対策としたのだった。


 加工する時間もなく急ごしらえのため、完全に酸を防ぎきれるわけではないうえに、動きを阻害することで機動力は落ちるが、それでもこの場を切り抜けるためには役に立っていた。

 縫い付けられた袋はその効力を存分に発揮し、冒険者たちを酸の雨から守る。装備が露出している部分には煙を上げている個所もあるが、それでも冒険者へのダメージは微々たるものだった。


「壁は張った!だけどもう魔力がほとんどないから援護はできんぞ!」

「急げ!そう長くは耐えきれないぞ!酸に紛れて飛んでくる矢には気を付けろよ!」

「くそっ、こんなの生きた心地がしねえぞ!酸の蒸気で目と喉が痛え……」


 急斜面を転がり落ちるように駆け抜け、瓦礫の山に取り付いた冒険者たちは、すぐさま塗料を見つけるために瓦礫の山をかき分け、その中を探し回る。

 同行した魔法使いが周囲をぐるりと囲むように土の壁を張る。だが、その間にも彼らの元へ大量の攻撃が降り注ぎ、立ち上る酸の蒸気が彼らを蝕む。

 時には土の壁に身を隠し、武器で矢を弾いて対応しているが、防ぎきれない酸がその装備に付着して煙を上げる。さらに、彼らを酸から守る耐酸性を持っていた袋はかすめた矢によって所々破られてしまい、直接酸が触れた皮膚に火傷のような傷が広がっていく。


「ぐおお!?どうなってるんだ!瓦礫だらけでどこにもねえじゃねえか!」

「文句を言う暇があったら体を動かせ!このまま死にたいのか!」


 瓦礫の山をかき分ける冒険者の間に焦りが広がっていく。酸の雨にさらされている彼らもそうだが、彼らの退路を守るために奮戦している仲間たちにも、その限界が刻一刻と近づきつつある。

 次から次へと押し寄せるジャイアントアントを押しとどめる前衛はたった3人しかいないため交代することもできず、もはや気力だけで耐え続けているような状況。それを支える後衛も弾切れが近づいていた。


「あった!あったぞ!やっと見つけた!」

「よっしゃあ!すぐに戻るぞ!合図を出せ!」


 ようやく目的の塗料の入ったポーチを見つけ、冒険者が歓喜の声をあげた。すぐにジャイアントアントを押しとどめている仲間へと合図を送ると、彼らは全力で坂道を駆け上がる。

 彼らがその坂道を登り切る直前、その頭上を魔法や大量の武器が通り抜けていき、道を塞いでいたジャイアントアントをもう一度吹き飛ばした。


 最後の力を振り絞って、残りの道を駆け抜ける冒険者たち。そこへ、どこからか飛んできた矢が運悪く後ろを駆ける男の足に突き刺さり、男はその勢いのまま地面を転がった。


「ちいっ!おい大丈夫か!肩を貸すから早く立つんだ!」

「馬鹿やろう!なんで戻ってきたんだ!さっさと置いて先に行け!」

「うるせえ!あと少しなんだ!黙って肩を貸されてろ!」


 すぐに駆け寄った冒険者の一人が、倒れ伏す男にその肩を貸すと仲間の元へと急ぐ。

 包囲しようと迫るジャイアントアントをギリギリで躱し、何とか通路の先へと逃げ込もうとする冒険者。しかし、矢を受けた男が地面に転がっていた武器に躓き、肩を貸していた冒険者とともに体勢を崩してしまう。

 倒れる瞬間、とっさに腕を伸ばす冒険者だが掴めるものなど周囲にはなく、その手は空を切るかのように見えた。だが、その伸ばした腕を近くまで戻って来ていた仲間の手が掴む。

 力強く引っ張るその手によって体勢を立て直すことに成功すると、そのまま通路の奥へと転がり込むことに成功した。


「全員戻ったな?今だ!通路を塞げ!」

「大丈夫か!お前らよく頑張ったな!」

「このまま奥へと移動するぞ!全員急げ!」


 休憩する暇もないまま、通路の奥へと移動する冒険者たち。途中で何度か通路を塞ぎ、時間稼ぎをしつつも先へ先へと進む。そして、ようやく転移陣を設置できるだけのスペースのある部屋へとたどり着く。


 傷だらけの装備で、その役目を果たした前衛はその場に倒れ込み、魔力を限界まで絞りだした魔法使いは、震える足でその場に座り込んだ。そして、持っていた武器の殆ど全てを投擲に回し、持っているのはナイフだけとなった斥候役はその場で深く息を吐いた。


 知恵を絞り、死力を尽くした彼ら。その中の一人の手には、彼らが命懸けで回収したポーチがしっかりと握られていた。

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