怨霊となった少女
『私は本当に何も知りません!! 村長が死んだ事と私の背中の痣は何も関係ないはずです!!』
村人全員の前に縛り上げられ放り出されたアルメダは必死になって自分の無実を訴えかけていた。自分の背中の痣は本当にただの痣であり呪いを掛ける力なんてありはしない。しかしどれだけ真実を話してもまるで村の人間達は誰も聞いてはくれなかった。
『嘘をつくなこのガキが! 村長が死んだことはお前の呪いに決まっている!!』
『お前の両親だってお前のせいでずっと苦しんでいたと訴えているんだぞ!!』
村人達はそう言いながらアルメダの両親の方を見た。
二人はまるで汚物でも見るかのような眼でアルメダを見ていた。それは親が子に向ける視線ではない。
『お父さん…お母さん…助けて……』
自分の背中の痣に何の効力も無い事は二人は当然知っているはずだ。そもそも自分の影響で二人に被害が波及した記憶など皆無だ。
しかしどれだけ涙ながらに訴えても両親はもう一言も口をきいてくれない。ただ憎々し気に自分と言う存在を睨みつけるだけだ。
『この少女ですか? この村に厄災を振りまく異物と言うのは…』
背後から聴こえてきた老人の様なかすれ声に振り返えるとそこにはお坊さんの袈裟の様なインチキ臭い服装の老人が立っていたのだ。
『おお《呪術師》様! そうです、このガキがこの村の村長を呪い殺した悪魔です』
村人達は見知らぬその老人の登場に喜びの表情を浮かべる。
この老人はこの村の人間達によって依頼された《呪術師》である。この職種は霊的な力を認知でき霊と対話をしたり封印したりする力を持つ者だ。そして封印術も兼ね備えており村人達はこの怪しげな男に大金を支払いとある依頼を出していたのだ。
『ふむ……これは本当に酷い。まさかここまで禍々しい気配を放っているとは……』
老人はそう言いながら大仰なポーズを取る。そしてとんでもない事を言い出したのだ。
『この少女には多くの怨霊が乗り移っている。このままではこの少女は間違いなくこの村を滅ぼしてしまうだろう』
『そ、そんな馬鹿な! 私にそんな力なんてある訳が…!!』
『黙れこの怨霊めが!!』
『ぐぎゃ!?』
必死に弁明を試みようとするアルメダであったがその言葉を力づくで村人達は封じてしまう。縛られているせいでまともに抵抗も出来ない彼女は暴力の嵐に晒される。その中には自分の父と母までおりアルメダは肉体的な痛みよりも精神的な痛みの方が上回った。
『皆さんそこまでです。この邪悪な少女をこのまま殺してしまえば少女の死体から怨念が這い出てこの村に益々の不幸を呼び込むでしょう。この少女は生きたまま封じてしまいましょう。その為に私を呼んだのでしょう?』
夢中でアルメダを痛めつけていた村人達は一瞬で大人しくなり《呪術師》の言葉に従い彼女をそのまま村の外れにある池の前まで連れていく。
『このままこの少女はこの池の深くに封じ込めます。そうすれば彼女の中にある無数の怨霊は彼女の
遺体に封じ込められ外に出てくることはないでしょう』
もっともらしいセリフを並べて村人達に惨すぎる指示を出す《呪術師》だが、実は彼の言っている事は全てが出鱈目であった。そもそもアルメダは何物にも憑りつかれてなどいない。それすら見抜けないこの男は《呪術師》と言っても詐欺師に近い男であった。
そんなつまらない男の言葉を信じ、同じ村の自分を信じてくれない現実はアルメダに憎しみの芽を植えるには十分過ぎた。
どうして…どうして誰も私を信じてくれないの? 私は村長さんを殺してなんかいないよ……。
殴られ過ぎたせいでアルメダには意識はあれど口を動かす力は無くぐったりとするしかできなかった。
そして《呪術師》は醜悪な笑みを浮かべながらアルメダに封印中の施した札を貼り付ける。その札を貼り付けられたアルメダの全身に何やら見たことのない文字がまるで鎖が巻き付くかのように全身に回る。
『この少女に封印術を施しました。重りも付与しておきましたのでこのままこの池深くに彼女を封印します』
その言葉に対して村人達は下僕の様に従い罪なき少女の体を持ち上げると何の躊躇もなく少女を池の中心地へと沈めた。その中には自分の父もおりアルメダは水中に沈んでいきながら全てを憎んだ。
許さない…許さない許さない許さない!!! ちくしょう、チクショウ、畜生!!! どうして私がこんな目に遭わないといけないんだ!? 村の人間も両親も絶対に許さない!! お前達はこれで私が溺れ死んでめでたしめでたしだと言いたいんだろう? だがそうはならない。私はお前達を幸せになどしない。ご丁寧に封印術まで施しやがって、この封印が解けた時には覚悟をしていろ。例えどれだけの時間を掛けたとしてもこの村全てに復讐を果たしてやる。私が怨霊に取りつかれている? いいや違う、お前達が私に恨みを植え付けて怨霊に仕立て上げてしまったんだ。
『イツカ報イヲ受ケテモラウ。貴様ラ二平穏ナ生活ヲ送ル資格ハナイ!!!』
一流の《呪術師》ならばともかく、三流のこの男の封印術は少しずつだが効力は弱まっていく。そして長い時間を掛けて少女の中に渦巻く恨み辛みは膨れ上がり遂に封印は解かれてしまった。
彼女の憎しみの力は強大に膨れ上がりもはや並大抵の《呪術師》では対応できなかった。村の作物は一切育たなくなり、魔力の低い人間は徐々に生命力を吸われ中には命を落とした者も居る。生き残った村人達は村を捨てるしか選択肢は無かった。行く当てなど無かったが生き残る為にはそれしかなかったのだ。
こうしてムゲンの故郷は村人達から見放され完全に廃れてしまったのだった。
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