349話
なぜかリンゴを巡って軽く言い争う。結局はブランシュを含め、誰も正解にはたどり着けていない。正解がなんなのかももうわからない。クラシックもそうだが、作った本人が直筆で残しておいてくれないと。だが、その『余白』こそが現代では楽しいし考察しがいがある。
そうなると。たしかに果実を代表するような、ニコルにもそんななにか、があってもいいのかもしれない気がしてきた。多くの者が果実と言われて思い浮かべるもののトップ。
「なるほどね。リンゴはちょうどよかったってわけか。たしかにリンゴ。スイーツにも多いからね」
最後のは関係あるかはわからないけど。ありふれているものなのに。どこか異質な可愛さであったり怖さであったり。奥が深そうな。
そしてさらに追加するブランシュ。ここからさらに核心をついていく。
「アダムとイヴのエデンのリンゴが『死』を表すのに対し、もうひとつの楽園と呼ばれるヘスペリデスのリンゴは『生』を司ると言われています。『生前』の曲が『死後』発表される。まさにリンゴの対比に近いのではないかと」
なんだか食べ物で『死』とか言われるのも怖い話だが、一応はここまでニコルは理解できている。
「ふむふむ。んでミドルノートが——」
「トフィーアップル。いわゆる『リンゴ飴』です。正確には、砂糖の甘い香りを出すために足していますので、全部で三種類ではない気もしますが」
この香水は。徐々に爽やかさから甘さにシフトチェンジ。でもその甘さはどこか、ブランシュにとって子供の頃を思い出させるような、それでいて大人になるにつれて忘れてしまうような。子供であり大人。ショパンの少年から青年期をイメージ。
クリスマスマーケットなどでよく見かけるお菓子。たまーにニコルも食べたくなる。
「フランスだとポムダムール。というか、花とか果物の香りはわかるんだけど、お菓子も香油にできるの?」
その香りを嗅げば「たしかにあのお菓子だわ」と、ピンとくるものは多い。が、それを香水にするとは。




