323話
やはりこの国は面白い。とでも言うかのようにフォーヴはとある提案を。
「彼の曲がいい、というのは認めるよ。それにここまでショパンに傾倒しているブリジットにも、私は憧れの感情さえ生まれてくる。どうだい、このあと一曲」
それほどまでに心酔しているならば。きっとそれはそれは甘美な音を備えているのだろう。是が非でもお願いしたい。
その圧の強い欲求。そしてここまでの会話の流れ。から決めたブリジットの答え。
「……なんか、やだ……」
たぶんだけど。反りが合わない。言っていることは間違っていないんだけど、間違っていないからといってそれが自分には正しいわけではなくて。チェロもピアノもショパンが愛したものだけど。気持ちよく弾けない気がする。
「おや、嫌われてしまったみたいだね。そう言わないでほしいね、せっかくブリュッセルから来たんだから。演奏旅行だよ」
気にせずグイグイとフォーヴは心の距離を詰める。断られることを気にしていたら、路上で飛び入りパフォーマンスなんてできない。どれだけ強引にいけるか。そうすれば時々許可が出る。その繰り返し。
このゴリ押し加減。陽気で友達の多そうなノリ。なにもかもが自分と正反対のブリジット。はっきりと言って、近づきがたい。
「だってショパンのこと、悪口言ってたし」
ムッとする。間違ってはいないから。反論もしづらくて。
はて? とでも言うかのように、フォーヴの頭にクエスチョンマークが飛び出る。
「悪口? 違うよ、私にとってのショパンを述べただけだ。誰にだって自分だけの作曲家像がある。キミが崇めているように、私にはショパンはお金にだらしないし性格的に友達にはなりたくない、素敵な曲を作る人物という印象だよ」
「それが悪口」
「で? チェロソナタでいいかい? ショパンにとって最後の曲だ」
「……」
どれだけブリジットが突っぱねても。そのバリアを無力化してフォーヴは接近する。そしてそのリクエストされた曲『チェロソナタ ト短調 作品六五』とはどんな曲なのか?




