315話
そんな他愛のない会話をしつつも、フォーヴは本題に切り込んでいく。
「ふふっ。それで、どうなんだい? ショパン『レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ』。どこまで進んでいる?」
今回の香水の曲を聞いた時、そうきたか、と心にワクワクするものが湧き上がってのを覚えている。もちろん、今までのものも楽しませてもらっていたが、ショパンという人物はかなり偏りのある作曲家。ほとんどがピアノ独奏曲。
前回『詩人の恋』の時よりかはヴァイオリンの出番が取れそう、というのはニコルも教えてもらっていた。だが。
「いーやなにも。ブランシュがなにやら違うこと始めてね。どうなることやら」
今回は今回で先行き不安。今までに一度たりともすんなり出来上がったという記憶はないけれども、こういうのもあるのか、と頭がクラクラする。
「違うこと?」
あの音楽と香水以外に趣味を持たなそうな子が? なんだろう。フォーヴも気になる。たぶんインドアだと思うけども。
むーん、と顔を顰めたニコルがその現状を吐露する。
「問い詰めたらジャズを弾いたりしてるらしい。香水は考えてる、とは言われたけど」
クラシックですらよくわかんないのに。さらにここにきてジャズ。もしかして私を混乱させるためにやってる? そんなあらぬ疑いをかけてしまう。
たしかにインドアのようなそうじゃないような。少なくともアウトドアではないか。正解に一応はかすっていたフォーヴ。ブランシュとジャズ。ふむ。
「なるほど。いや、いいんじゃないかな、ジャズ。それに、いつもニコルに振り回されていただけのブランシュが、自分から新しいことに挑戦している。いいことだと思うがね」
なんだか親戚の子供の成長を嬉しがる気分。ひとりで歩けるようになった。喋れるようになった。自転車に乗れるようになった。ジャズに挑戦するようになった。




