18話
その後、ブランシュが疲れていつの間にか寝てしまった結果の夕方、勝手にニコルが部屋の模様替えをしていた。どうやらしばらく居座るつもりらしい。そんな許可が下りるとは思えないが、寮内にいた他の生徒と気があったらしく、脱走のルートや寮生しか貰えないはずのアメニティ一式をなぜか持っている。悪い人には悪い友人が集まるらしい。夜一緒に抜け出して、行きつけの花屋に行くとかそんな約束まで取り付けていた。夜に花屋に行ってどうするんだろうか。
「一一本目ってたぶん決まってんのよ、テーマの曲」
さぁ、これから一本目をじっくり考えようというのに、いきなり最終問題に取り掛かろうとしだすニコル。しかも自信がありそうだ。豪胆な笑みを浮かべている。テーブルの上にはメモ書きできるように紙とペン。コーヒー。わざわざ『雨の歌』と一曲目のタイトルまで書いたというのに、ものすごい角度から結論を出そうとしている。
「え、そうなんですか? バッハとかモーツァルトとかですか?」
この人の言うことは半信半疑、いや、二信八疑くらいで聞くことにしているブランシュは、とりあえずニコルが知っていそうな作曲家をあげてみる。ヴィエニャフスキやヴュータンと言ってもたぶん知らないだろう。バッハやモーツァルトなら鉄板だ。
「いや、ベートーヴェンの『運命』だと思ってる」
そっちか、と内心でブランシュは悔しがる。有名な作曲家を三人あげたら彼らだろう。もうひとりくらい言っておけばよかった。
「本当ですか? なにか根拠とかあるんですか」
いつになく真剣な眼差しで考え込んでいるニコルに対し、今だけ三信七疑くらいにしようか、と揺れたブランシュは、真面目に耳を傾ける。アイスコーヒーの氷が、からん、と崩れる。その音が静寂を包む部屋に乾いた響きを作った。
「……いや、私、それくらいしか曲名知らないし。聴いたことがあるのもあるんだろうけど、曲名は知らない。なにより、運命ってタイトルからしてラスボス感あるでしょ?」
まぁ、だいたいそんな理由だろうとは思っていたが、なぜ溜めを作ってから言ったのか。だったらヴェルディの『レクイエム』のほうが良さそうだ、とブランシュはひとりごちる。知らないだろうけど。
ジャジャジャジャーン、と口で発しながらピアノを叩く真似をするニコルだが、そもそもあれはピアノではない。ジャ、ジャ、ジャ、ジャーンとさらに続けてマイムしようとしているので、ブランシュはさっさと話を進めることにした。
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