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155話
息を吐きながらヴィズは苦笑する。そんな風に言われたら従うしかないじゃない、と。
「あなたのことだから、弾きたいって言ってなにも聞かないと思ってたわ」
特に、イリナにだけは譲らないと思っていた。色々と対極に位置する者同士。逆の立場だったら、あの子はなんて言うのだろう?
不満を露わにするカルメンは、そのまま飛んでいきそうなほどに頬を膨らませる。
「ちゃんとわきまえてるもん」
だけど『雨の歌』は譲らない。あれは私のもの。『新世界より』はベル。あれはまぁ、すごかった。
自身の結論とは違うのだが、勢いというのもまた大事。今、現状では一番上手く弾けるであろう人物が推しているのだから、それに乗るのも、ヴィズにはまた一興。
「なら、待つしかないわね。構築するのには時間がかかるくせに、崩れるのは一瞬。難儀ね、ピアニストって」
崩れたあとの砂地。粉々になりすぎて、形作ることが不可能というのも多々ある。それでも静かに見守るだけ。
とは言ったものの、無言になるとウズウズしてくるカルメン。頭の中は『死の舞踏』が流れてくる。動き回る骸骨。疼きが増してきた。
「……やっぱり私、弾きた——」
「待ちましょう」
ニコッと笑顔で制するヴィズ。自分で言ったのだから。待ちましょう、時間の許す限り。




