151話
そうしてイギリス国王の寵愛を受けた画家ホルバインが、あらゆる人物の木版画に骸骨を付け加え、死は平等であることを訴えたのだ。
「前回の『新世界より』も鉄道から着想を得たと言われていますから。なにが作曲家の想像力を刺激するかわかりません」
改めて、人間の想像力と行動力にブランシュは感嘆する。自分だったらなにげなく素通りしてしまうようなことを、のちの世界まで伝わるものに昇華する力。世界はまだまだ面白さに満ち溢れている。
中世は『死』というものと一番距離の近い時代だった、と言われている。それゆえに《メメント・モリ 死を想え》や《ヴァニタス 人生の儚さ》、といった思想が強く反映されている。彫刻においてもトランジ、つまり死体をモチーフにしたものや、絵画でも教会内にフレスコ画で描かれたりと、芸術面において当時を代表する題材なのだ。
「そういやそっか。ドヴォルザークは鉄道を見るためにアメリカに行った、んだっけ?」
ふと、とんでもない男がチェコにいたことを思い出したニコル。しかも結局ホームシックになるという。偉大な作曲家なのだろうが、人間味が感じ取れて好きだ。
止めていた足を再度、動かして突き進むブランシュ。
「面白い、というと語弊がありますが、リストの作曲した『死の舞踏』は絶望に打ちひしがれる様を荒々しく表現しています。しかし、サン=サーンスのものは、詩人アンリ・カザリスの同名の詩に基づいているというのもありますが、ひとつの短編の映像作品のような仕上がりになっている。絶望、というよりはむしろ——」
まるで受け入れているかのような。リストとは真逆。死すらも芸術とする鋼の魂。
「でもさ、なんとなく上手くいきそうじゃん? ヴィズとすでに合わせてるみたいだし。珍しく、不安もなく進んでるって感じ」
「……」
「ブランシュ?」
そんな難しい質問をしたつもりはニコルにはなかったのだが、黙りこくってしまう姉の顔を覗き込む。
ハッとしたブランシュ。少し言葉を濁し、キレ悪く語を閉めた。
「あ、いえ。だと、いいのですが……」
浮かない顔色。夜の街ということで、電球色に照らされてわかりづらいが、まるでハッピーエンドともバッドエンドともつかない映画を観たような、そんな重苦しい雰囲気を醸し出す。
「???」
ますます彼女のことがわからなくなってきたニコル。分配に不満が?
俯き加減で数歩先の地面を見据えるブランシュは、ゾワゾワと湧き上がる不安に駆り立てられている。
(……ヴィズさんのピアノは美しく、恐ろしさも兼ね備えたまさに『死の舞踏』なのですが、なんでしょう……なにかが……贅沢な悩みではありますが……)
歯車にひとつ、小さな小石が挟まったような。どこかでそのうち止まってしまうような……香水の顔が見えない。




