137話
「アメリカの、なんですか?」
立ち上がり、目を閉じて腕を組むブランシュ。早く先を言ってください、と言わんばかり。
だが、その反応はニコルにとって好感触。マジ? 当たった!? てことは、有名な州を適当にヤマ張れば!
「ロサンゼ——」
「全然違います。オーストリアのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団です。まぁ……フォーヴさんあたりですかね」
サービスすぎるくらいにサービス問題だったが、予想通りの結果にため息をつくブランシュ。余計な知識をつけると厄介だ。あとで釘を刺さねば。
ハッハッハ、と高らかに笑い、「話は戻るけど」と、なにもなかったかのように話題を変えるニコル。なかった。なにも。忘れよう。
「渡してどうすんの? つけても、ブランシュみたいにできるわけでもないのに」
まぁ、癒されるくらいはあるかもだけどね。目的を明確に。
そう聞かれると、自分にできることはこれくらいだから、としかブランシュは言えない。意図などはその程度。なにもやらないよりかは。
「それは……そうですけど、なにをしたらいいのか、こういう時。友人として」
何回目かの『友人』。やはりいい響き。
やれることをしてあげたい気持ちももちろん、ニコルはわかるが、この場合は能動的よりも受動的に行動したほうがいい気もする。
「話してきたら、その時に聞いてあげるしかないんじゃない? 甘いものでも食べながら」
だいたいそれで解決できる。できない時はもう少し待つ。必要なのは聞く力。共感することじゃない。
「……それは誰かの言葉ですか?」
珍しくいいことを言われたブランシュだが、それこそが疑わしい。裏で暗躍する人がいるはず。
唇を突き出して、なにを考えているかわからない様子のニコル。
「かもね。向こうから話しかけてくるまで待つしか、今のところはできないわ」
ただ本心を喋ったらなんか感心されただけなのだが。まぁいいか。
だが、考えすぎて押し付け気味だったブランシュには、これくらいシンプルな考え方が響く。反省。
「……わかりました」
少し冷静に。夜風にでも当たってこようか。と、閃いたところで悪魔の囁きが聞こえる。
「それよりさ、外でも聴かせてよ。ヴァイオリン」
また唐突にワガママを通そうとするニコル。聴きたくなったらねだる。甘える。
アドバイスをもらった以上、多少の願望は聞き入れたいところだが、ブランシュには乗り気にはなれない理由がひとつ。
「外、ですか? あまり楽器は温度の変化に晒さないほうがいいのですが……」
木でできているヴァイオリン。温度の変化が大きいと、膨張と収縮を繰り返すことで割れることもあるため、基本的にブランシュは冬に近づくにつれ、外での演奏はしないようにしている。春や秋、夏の朝晩などは外で弾く開放感が好きなのだが、冬はあまり持ち歩かないようにしている。




