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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
自由な速さで。
112/369

112話

 ブランシュ達が演奏をする舞台。三六〇度客席ではあるが、舞台の背面は反響の木材が湾曲して形作られており、横には左右一つずつ、搬入や演奏者の入場のための出入り口がある。


 その上部、演奏者からは死角となる二階。柱の影に隠れながら、演奏を聴いていた者が二人いる。ひとりはベアトリス・ブーケ。もうひとりは調香師ギャスパー・タルマ。


「いい演奏だ。よく見つけてきた」


 その口ぶりとは真逆に、非常につまらなそうな表情のベアトリスは、ギャスパーに声をかけた。ピアノ、自分が推薦しておいてなんだが、しっかりと仕上げてしまっていて、それはそれで面白くない。


「見つけたんじゃないよ、最初から知ってた。ていうか、こんなとこじゃなくて普通に聴かせてもらえばいいのに。で、どう?」


 演奏に満足しながら、ギャスパーは頷いた。そして、ベアトリスに感想を求める。


 柱に寄りかかり、脱力しながら答えるベアトリス。「ふぅ」と、ひとつため息。


「さっきも言ったろ。悪くない。まぁ、まだ甘いところはあるが」


 八〇点というところだな、と、厳しいのか高得点なのか絶妙なラインでベアトリスは評価。実際、指揮者がいないにしてはいい演奏だ。まとまっている。まぁ、本来の形ではない。もっと輝けるはず。そういう期待も込めて。


 その点数にギャスパーは意外にも満足した。予想以上、と内側から喜びが滲み出す。


「キミにいつか認めさせたいね」


 伸びしろがあればあるほどいい。楽しみが増える。むしろ、一〇〇点を取ってしまったら、残念な気持ちになっていたかもしれない。よかった、と胸を撫で下ろす。


「で。その手にあるのは? そろそろ聞いていいか?」


 そうベアトリスが見つめるのは、ギャスパーの右手。そこにはヴァイオリンケース。


「気になる?」


 少し持ち上げて、ギャスパーはベアトリスの興味を惹こうとする。しかし。


「ならない。帰る」


 もう役割は終わった。収穫もあったし、これ以上ここにいる必要もない。爺さんのしょうもない道楽に、付き合う理由もない。そう割り切り、ベアトリスは帰ろうとする。


 が、慌ててギャスパーは道を塞いだ。


「いや、気にしてよ。ドイツから急いで戻ってきたんだから」


 冗談の通じない子だな、と肩をすくめる。弟くんは真面目で礼儀正しいのに、なぜ姉はこんなにひねくれているんだ? と、本人には言えないことを内心思う。

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