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鎧装真姫ゴッドグレイツ  作者: 靖乃椎子
《第十一話 燃ゆる宇宙で》
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#65 野望と希望

「敵機接近、二時の方向!」

「艦に近付けるんじゃあないぞ、弾幕をもっと張るんだ!」

 ステラ・シュテルン艦長がオペレータたちに叫んだ。


「出し惜しみをするなよ! 遠方からくるSVはミサイルで迎撃しろ」

 マコトたち先行組が撃ち漏らした敵機が掻い潜って《月光丸》を襲いかかる。

 対空機銃やミサイルで《月光丸》の周りをハエのようにまとわりつく《アンジェロス》を撃ち落とす。味方機も艦の援護に入り、どうにかやり過ごした。

挿絵(By みてみん)

『あ、案外こっちも楽じゃないっスね……』

 カラカラと弾の無い右腕のマシンガンを回す《アマデウスMk2》のミナモは額に流れる汗を拭った。


『無駄撃ちし過ぎですよ。油断は禁物です』

 周囲を警戒しながらトウコが指摘する。

 ミナモとは違い、エネルギーもライフルの残弾数も全く消耗していない。

 トウコの《戦人・改》は狙撃用ライフルと電磁ナイフを併用して遠近どちらにも対応しながら戦っている。


『サナナギさんのお陰で敵の数も少なくなってきたし。これ以上は来ないっスよ』

『……ミナミノさん後ろッ!?』

 とっさに《アマデウスMk2》が振り返ったときに上げた右腕に、飛んできた手裏剣が刺さると一瞬にして小規模な爆発が起こった。

 何が起こったのかレーダーを見ると敵の反応が不自然に点滅している。


『忍者?! この相手をいたぶるやり方、ヤマブキっスね!?』

『……、……先に敵のジャマー装置を破壊するべきだったか』

 光学迷彩の不調により姿を現した漆黒のSV。

 忍者少女ヤマブキの《カゲヤジ》が岩石の上に立っていた。


『何とかは高いところが好きと言いますね』

『……、……宇宙に高さの概念は無い』

 同時のタイミングで両者が攻撃を放つ。

 高速で飛び交うライフルの弾丸と電磁手裏剣が火花を散らして弾け飛び、二機は距離を取る。


『止まるっス、ヤマブキ! 月光丸には近付けさせない!』

『……、……邪魔だ』

 接近する《アマデウスMk2》に向かって《カゲヤジ》はアンカーを射出する。


『……、……捕縛!』

 ワイヤーがボディに絡み付き、一瞬でグルグル巻きにされた《アマデウスMk2》を《カゲヤジ》はおもいきり蹴り飛ばした。


『あぁーヤマブキぃー!?』

『余所見をしている暇があって忍者さん?』

 隙を見せる《カゲヤジ》を《戦人・改》は狙い撃ち、蹴るために伸ばされた細い両足を吹き飛ばした。


『……、……やる』

『妙な間を取る喋り方、イラつきますよ!』

『……、……黙った方が良いなら本気を出す』

 そう言ってヤマブキの《カゲヤジ》は黒い羽を広げる。

 すると、姿が見る見る内に宇宙空間と同化し姿を消した。

 レーダーの反応も無くなるどころか他の敵や味方を示すマーカーも消失している。


『ミラージュキャンセラーの中なのに……うぐっ?!』

 突然、手に持っていた《戦人・改》のライフルが腕ごと弾け飛んだ。すぐに壊れたライフルを手放し、全方位を隈無く探すが《カゲヤジ》の姿は何処にもない。


『何ボーッと突っ立ってるんスか?!』

『そんなこと言ったって……どこなの? 敵が見えない』

『正面っスよ、クロスさん避けて!?』

 ミナモの声を聞いてトウコは《戦人・改》をとっさに後ろへと下がらせた。それが功を奏したか、コクピットの前面を《カゲヤジ》の刀が上から下へ通りすぎる。


『く、クロスさんっ!?』

『……だ、大丈夫……だから。まだ、行ける』

 息も絶え絶えに強がるトウコ。ミナモ側からトウコの通信でコクピット映像は見えなくなっている。トウコの腹部に機体の破片が刺さっていた。


『これで……見えた』

 トウコの《戦人・改》は縦に切り裂かれたコクピットハッチを開ける。

 すぐ目の前には未だにレーダーには映っていない、消えてきるはずの《カゲヤジ》が居た。


『あの羽を見たせいで、私の戦人だけ……はぁ……機器に異常が起きていた。映像も、レーダーも、使えないのなら……目視でやる』

『……、……くっ』

『その様子だと……もう高機動戦法は、出来ない、みたいね……うっ……足を壊された時の、奥の手……だったのかしら?』

『……、……手詰まり。ならば少しでも数を減らす!』

 再び《カゲヤジ》はアンカーを発射しようと構えるので《戦人・改》は身構える。だが、アンカーが向かう先は《月光丸》だった。


『……、……爆散、秒読み開始』

 自爆スイッチを作動させる。

 トウコはヤマブキの存在に気を取られて母艦への接近を許してしまっていた。

^追いかけるタイミングのズレと身体の痛みで《カゲヤジ》に追い付くことができない。


『ヤマブキィィィー!!』

 と、そこへワイヤーの絡まりから脱出したミナモの《アマデウスMk2》が猛スピードで《カゲヤジ》に衝突する。


『脱出しろっス! 早くッ!!』

『……、……何なんだ一体お前は』

『オレはヤマブキの友達っス!!』

『し……、……知らない。お前のことなど……うっ、頭が』

『あぁ、もう無理矢理いくっスから、避けて!』

 焦るミナモは《アマデウスMk2》で《カゲヤジ》の装甲を無理矢理、引き剥がす。

 軽装甲のため簡単にバリバリ剥がれ、コクピットが露になると《アマデウスMk2》はヤマブキを掴み《カゲヤジ》を遠くへ飛ばす。

 数秒遅れて自爆装置が作動し《カゲヤジ》は残骸と共に木っ端微塵機になった。


『ヤマブキぃ……!』

 機体から飛び出したミナモが掌のヤマブキに抱き付く。


『止め……、……ろ。体にもまだ自害用の爆弾が……えぇい、離れんかバカタレ!』

『したきゃすればいいっス! そんなので友情が壊れるぐらいなら壊れてしまえばいい……!』

挿絵(By みてみん)

 ヤマブキが身体からミナモを引き剥がすと彼女は泣いていた。


『何故だ……、……何故……ミナモが泣く?』

『簡単に死ぬなんてこと、しないで……欲しいっス! そんなこと、されても誰も喜ばないっスよ……』

『……、……』

 泣きじゃくるミナモを見てヤマブキの心にモヤが晴れる。

 さっきまでは誰かに命令されて自分のことが自分で制御できないような、凄腕の忍者戦士気分で居たのがバカらしくなる。

 ヤマブキはミナモを落ち着かせるように優しく抱き止めた。



 ◇◆◇◆◇



 戦いでボロボロになった《戦人・改》はよろめきながら《月光丸》に帰艦する。

 コクピットの中でトウコは、腹部の傷を防ぐようにテーピングを施し応急処置をして外に出た。無重力の状態の格納庫でふわふわと浮かびながら向かうのは、あの男の所だ。


「サナちゃんが頑張ってるのに、貴方はまだ……何を、やってるんですか!」

 苛立ちながら言うのは未だ出撃していない《ジーオッド》の前に立つガイに言う。


「ジーオッドが動かないんだからしょうがないだろ! 今、別の機体を用意している……大丈夫か?!」

「少し休んだら出ます。ちょっと刺さった、だけですか……ら」

 一瞬、トウコは意識を失いかけたのをガイが支える。


「全然ダメだろ? 休んでろ」

 心配するガイの手を振り解いて《ジーオッド》を見上げるトウコ。


「動かない原因は……生け贄ですね?」

 トウコの問いにガイは答えなかった。

 この《ジーオッド》は普通のSVとは違う動力源で動いている。

 ガイが初めて乗ったときに感じた《ジーオッド》の意志は、マコトの父親だったのである。

 それが戦うにつれて段々と薄れていき、前回の戦いでマコト父の意志は完全に消えてしまったようにガイは感じたのだ。


「元はと言えば……この私がサナちゃんの、お父様を殺したも同然です。なら私が」

「マコトが喜ぶか? お前もジーオッドに食われるんだぞ?」

「なら、どうします!? この機体なしで勝てますか……?!」

 血が滲む腹部を押さえながら鬼気迫るトウコの言葉に、ガイは情けなくも肯定することが出来なかった。


「……そうしないと私が納得できないんです。だから私の命を預けます」

 ガイの返事も聞かず、トウコは《ジーオッド》の額にある翡翠色の結晶に触れた。波紋のように表面が波打って、奥まで手が入る。

挿絵(By みてみん)

「負けたら許しませんからね」

 そう言ってトウコは《ジーオッド》の中に吸い込まれていった。

 命を取り込んだことにより、力を失った《ジーオッド》の目に光が入る。

 二色の瞳は眼下にいるガイを睨んでいた。


「……負けるかよ。俺はマコトを守るって言ったんだ。そこに二言はねぇよ……ヨシカ、そいつ中止だ! 俺はジーオッドで出るぞ!!」

 ガイは点検完了間近な予備機の整備をしているヨシカに向けて叫ぶと《ジーオッド》に搭乗した。


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