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鎧装真姫ゴッドグレイツ  作者: 靖乃椎子
《第八話 焔の翼は流星を穿つ》
45/78

#45 再会の宇宙で

「今回のミッションは地球に接近する巨大隕石の破壊、と言うのは前に伝えた通りよ。直径は約5キロメートル、これが落ちてしまったら地球は人が住めない星になる。パイロットの貴方たちに人類の未来が掛かっているわ」

 マコト達リターナー一行は宇宙戦艦、《月光丸》へと乗り込み統合連合軍の月基地へと向かっていた。

 到着までの間、艦のブリーフィングルームに集められたガイ、トウコ、ミナモの三人はレディムーンに今回の作戦の概要を説明されている。

挿絵(By みてみん)

「作戦名はオペレーション・コメットブレイカー。ここまで何か質問はあるかしら?」

「はいはいレディ、質問があるっス!」

 一番前の席に座るミナモが元気よく手を伸ばす。レディムーンはサングラスのブリッジを指で押し上げながらミナモを見やる。


「どうぞ」

「オレら三人だけでミッションやるんスか? 全員、自分のSV持って来てないっスよ?」

「リターナーとしては四人よ。ここにはいない真梛マコトにも参加してもらうわ」

 SVのコクピットから出られなくなってしまう、という謎の症状を引き起こしたマコトは《ジーオッド》の中で待機していた。作戦の概要は既に伝えられている。


「向こうで無重力戦闘用の機体を用意してもらっているわ。ミナモはそれに乗ってちょうだい」

「マジっスか?! ぃやったー! 着くまでに宇宙戦のシミュレーターまたやんなきゃっス!」

 嬉しさのあまりに小躍りするミナモ。


「……気に入らねーなぁ」

 最後列、ドア側の席で机に足を投げ出しているガイがボソッと呟く。


「どうして捕虜のゲロ女と一緒になってミッションやんなきゃなんねーんだっつーの」

「ふふーん、ガイさんはトウコさんにマコトさん取られて焼きもち焼いてるんスね」

「そんなんじゃねーよ!」

 ガイは資料を丸めてミナモの頭にぶつける。


「ガイ、貴方は黒須十子の監視役です。今の戦力を欠いたリターナーに彼女の力は必要です。もし何かあれば、その時は貴方の判断に任せます」

「……アンタもアイツを撃っておいて都合がいいよな」

「何か言いました?」

「チッ……」

 利用できる価値がある内は何だって利用する。レディムーンの考えは読めるが、ガイは納得がいっていなかった。

 

「お手柔らかにお願いしますね?」

 後ろを振り返るトウコは、軽く会釈をして微笑む。その心は純粋に楽しそうで、ガイは露骨に嫌な表情をトウコに見せつけた。



 ◇◆◇◆◇



 数時間後。マコト達を乗せた《月光丸》月基地・ムーンベースに到着する。

 統合連合軍の最重要施設で、かつてはテロリストによる占拠や模造獣の襲来で重大な被害を受けたが現在は防衛力の強化がなされ、月の居住区は数倍に広がった。

 ここに移住してきた者は一部の資産家や軍の高官など上流階級の人間ばかりで数は少ないが、一般人でも自由に立ち入ることが出来る宿泊施設もあるので旅行人気が高まっている。


「遠路遥々ようこそムーンベースへ。歓迎するよ」

 ドックに着港すると艦のハッチにゲートが繋がる。レディムーン達が艦を降りるとロビーで待っていたのは基地司令官の冴刃サエバ・ドール少将だ。

 奇妙な仮面を被った年齢不詳の男、サエバはレディムーンに近付き握手を交わす。

挿絵(By みてみん)

「十何年ぶりかな。最近の噂はかねがね聞いているよ」

「そうね……貴方も相変わらずね」

 サングラスの女と仮面の男。二人をまじまじと見つめるのはミナモだ。


「この人が月の司令官なんスかぁレディ? 何かスゴい怪しいってか胡散臭いっスねぇ……」

「あぁそうだよ。ご覧の通り私は軍人だ。名は冴刃・ドール。階級は少将、覚えてもらいたい」

 仮面のせいでただのコスプレにしか見えないサエバは、ミナモの手を無理矢理掴んで強引に握手をする。その後ろの青年にも目をつける。


「君があのガイだね。噂通りの……残念だが私の心は読めない。このマスクは特殊な力さえ遮断する」

 サエバは手を差し伸べるがガイはズボンのポケットに手を突っ込んで握手を拒否した。


「読む必要もない。変人の頭の中を覗いたところで、ロクなことがないからな」

「確かに、人には知られたくないこともある。それを見れる君は危険人物として拘束されてもおかしくない。そうされないのは君の口が固いからかね? 粗暴な見た目の割りにデリカシーがあるようだ」

「いやいやぁ……全然そうでもないっスけどねぇ、この人」

 後でミナモの頭にゲンコツを食らわせやる、と心に決めたガイだった。 


「おっそうだ、紹介しよう。今回の作戦で指揮を取って貰う天草准将だ」

 通路の奥から遅れてやって来たのはサエバと同じく将官の軍服に身を包んだ筋肉質の男、天草刻雄アマクサ・トキオである。


「お久し振りです。月……レディムーン」

 レディムーンを前に緊張したように敬礼するトキオ。


「えぇ、こうして会うのは正月以来ね」

「彼らはお預かりします……ところで少女のパイロットは二人と聞いているが、その二人は?」

「オレも少女っス!」

 ボーイッシュな見た目を誤解され憤慨する。

 リターナーには決まった制服はない。各々、自由な服を着用することを許され、ミナモは好きで動きやすいジャージとスパッツという格好をしている。プリプリと怒るミナモの後ろで、ガイは欠伸をしながら『じゃあ女らしい服とか着てみりゃいい』と思うのだった。


「彼女は格納庫に……ところで見馴れないのがいるみたいだけど、あれは?」

 窓を指差すレディムーン。ドックに停泊する《月光丸》の二つ隣に流線型の真新しい純白の艦が停まっていた。レディムーンが確認している限りでは統合連合軍が新型戦艦を建造したと言う情報は入っていない。


「それが…………彼らも呼んでいる。上からの命令でね。新型機のテストも兼ねてだそうだ」

 サエバは小声でレディムーンに耳打ちする。


「……やはり上は彼らと繋がりがあるようなんだ。共同作戦になるが十分に気を付けてほしい」

 純白艦の乗降口のゲートから一人の女が出てくる。周囲を見回すと、こちら側に気づいてツカツカとヒールの音をさせてやってきた。


「貴方は?」

「イデアルフロート特殊警察機構FREESの一番隊隊長ヤン・イェンだ」

 長い髪を掻き上げ、不機嫌そうに眉間に皺を寄せながらヤン・イェンは挨拶をした。


「地球統合連合軍リターナーの指揮官、レディムーンと名乗っています」

「統連の軍隊は変なサングラスを付けるのが流行っているのか?」

「ごめんなさいね。離島暮らしの人は最先端のファッションが伝わらないのかしら」

「あ?」

挿絵(By みてみん)

 出会ってわずか数秒で一触即発。静かに火花を散らす女同士の間をサエバが割って入り仲裁する。


「まぁまぁ二人とも、今は地球を救うための同志じゃあないか。過去は一旦、水に流してここは穏便に」

「過去、過去とは一体何ですか司令? イデアルフロートはリターナーに何もされてませんし、何もしてもいませんが?」

「……?」

 淡々と言うヤン・イェンにレディムーンは軽く首を傾げる。

 イデアルフロートの中でどんな協議があったのか。女神SV、《ゴーイデア》のパイロットであるクロス・トウコはリターナーにある。彼女を欠けばイデアルフロートの戦力は大幅に弱体化したはずだ。まだ隠し玉があると言うのだろうか。

 ふと、レディムーンはヤン・イェンの顔をまじまじと見詰める。


「……どこかで会ったことありません?」

 記憶の何処かで彼女のことを知っているような気がしたが、思い出せない。最近の話ではない、もっと昔のことだ。


「…………無いな。気のせいじゃないのか?」

 一瞬だけヤン・イェンが目を逸らしたのをレディムーンは見逃さなかった。しかし、今はこれ以上の追及はしない。


「あらそう……ならいいわ。お互い、健闘を尽くしましょう」

「あぁーっ!?」

 突然、叫び声を上げたのはミナモだ。ヤン・イェンが出てきたゲートから二人の少女が出てくる。それはリターナーの一行がよく知る人物だ。


「アリス……」

 彼女らはイデアルフロート襲撃作戦で消息を絶ったアリス・アリア・マリアと、SVの戦闘により相手もろとも自爆はずのヤマブキであった。

挿絵(By みてみん)

「どうしてそんな制服着てるっスか?! それに、生きてたんスね……」

 涙を浮かべミナモは二人に近付く。すると、いつの間にかヤマブキに背後を取られ喉元に忍者のクナイを突き立てられた。片腕も背中で捻り上げられて身動きが取れない。


「な、なにするっスか、ヤマブキ?」

「……、……誰だ貴様。気安く亜里亜様に触るな!」

 ミナモの身体が空中で半回転すると、大きな音をさせて床へ思いきり叩き付けられた。


「お、俺っスよ、ミナモっス! 一緒の、こ……孤児員育ちで、リターナーにぃ一緒に、入って」

 息も絶え絶えにミナモが言うが、ヤマブキは全く反応を示さない。アリスに至っては先程からこの状況を見もしていない。


「……、……知らんな。行こう亜里亜様」

「えぇ……ヤンさん」

「それではな、リターナーの。アレは我々が頂く。せいぜい邪魔にならないようにな」

 ヤン・イェンらFREESの三人はリターナー一行の脇を悠然と通り過ぎていく。

 その後ろ姿をガイは訝しげに睨み付けるのだった。


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