表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第二章 かんちゃん昇級審査編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/46

044 黒幕の登場

 華やかで、重厚で、鮮烈で、穏やかで。

 子鹿のように跳ね回ったかと思えば、巨岩のようにたたずむ。

 そんな音の奔流は、それまで場を支配していた殺伐と渇いた空気を全て押し流した。


「なんだ、この音は!?」

「オルケスタ……交響楽だと!?」


 ナンに魔力の流れをかき乱されていた魔導士たちが騒ぎだす。


 もちろんそれを作ったのはかんちゃんだ。

 彼女の最大魔法交響楽(オルケスタ)は、その場の空気をガラリと変えただけではない。

 その音が全て集まる場所――ヴェゴーの立つ地には、その効果が覿面に現れていた。

 ヴェゴーの全身から、彼の持つ重力属性の魔力が迸っているのである。

 その違和感に、いち早く反応したのはバッシュだった。


「……なんだ、これは」

「……んん!?」


 一方、ナン達もその異変に気付いていた。


「旦那の魔力が……!」

「戻ってる……!?」

「……いやぁ」


 見ていたグレイが不敵に笑う。


「それどころか、相当強化されてますねぇ〜……」

「魔力の流れが旦那に集中してる……?」

「いやー、かんちゃんとんでもないことするなぁ〜」

「ど、どういうことです!?」

「かんちゃんが、全ての魔力属性を使って、わっちの拡散魔法全てにカウンターを入れて相殺したのよ」

「へ!?」

「そこで発生した魔力のうねりを、旦那に向けるおまけ付きでね」

「へ!?」

「ま、言われても分かりませんよねぇ〜。平たく言えば、ギルド長だけ魔力が使えるようになったってことですよぉ〜」

「それをかんちゃんが!? すげぇ……」

「それにしても……」


 グレイの口調は変わらないが、その額には汗が滲んでいる。


「こんなこと、冒険者歴数ヶ月の子が出来るもんなんですかね……」

「しかも即席で思いついて、ね。……10年前にいて欲しかったわぁ」


 ナンがそう言ってため息をついた時だった。


「ぅおるぁああっ!!」

「ぬうっ!!」


 それまで防戦一方だったヴェゴーが、バッシュに向かってその豪腕を振り抜いた。

 バッシュの攻撃で付いた切り傷や、火遁で付いた焼け跡が痛々しい。中には深い傷に入り込んだ火の粉が煙を上げているところもある。


 一方、ヴェゴーの攻撃をギリギリでかわし、後ろに跳んだバッシュだったが、その顔には焦りが見えていた。


「貴様……」

「腕が軽い。……魔力が戻ってやがる」

「ヴェゴーさん!」


 しばし呆然とするヴェゴーに、かんちゃんが叫んだ。


「ナンさんの拡散魔法を、ヴェゴーさんに向けて打ち消しました! これで普通に戦えます!」

「かんちゃん、まじか! 良く分からねえが助かったっ!!」

「貴様ら……何を言っている……」

「俺にもわからねえよ! ……ただ、これだけは言ってやる」


 ヴェゴーの目が爛々と輝く。

 その顔には、凶悪な笑みが浮かんでいた。


「いくぜ忍者! こっからは俺のターンだ!!」


 その瞬間、バッシュの眼には、ヴェゴーが膨れ上がったように視えただろう。

 それまで抑圧されていた魔力に加え、かんちゃんによってヴェゴーに誘導された魔力の流れが、彼の全身を覆っている。それはまるで、魔力の鎧に覆われた、魔王のようであった。

 腕の一振りで重力の渦が起き、一歩の踏み込みで大地が歪む。彼を覆った魔力は蒼黒く立ちのぼり、頭から巨大な角が生えているようにも見える。


「貴様……魔人か……」


 バッシュは慄然としながらも、縦横無尽に跳び回り、鋭い攻撃を仕掛けていく。

 だが、数回の攻撃の後、バッシュは知ってしまった。


「傷一つつかぬのか……」

「当たり前だ。届いてないんだからな」


 ヴェゴーは悠々とした足取りでバッシュに歩み寄った。そして、互いに足を止めて殴り合える距離にまで来ると、足を止めて言った。


「10年前の件は何の言い訳も出来ねえ。俺たちは遅れ、お前らを助けられなかった。事情はどうあれ、それが事実で真実だ」

「……」

「だが、それは俺とあんたとの話だ。今を生きる若い連中には関係ない。あいつらはあいつらで、これから色々あるだろうがよ、俺たちの事情に付き合わせるのは違うだろ」

「そんなことは……」

「関係ない、だろ? その言い分もわからなくはないんだがな。俺もまぁ、ここで引くわけにはいかねえし、かといって命のやりとりをしてる場合でもねえんだ」


 そこまで言うと、ヴェゴーは身に纏った魔力の鎧を解除した。かんちゃんの奏でる交響曲も、いつの間にか止んでいる。


「バッシュつったな。俺とあんたには、共通の敵がいる」

「……誰だそれは」

「10年前、俺たちが遅れる直接的な原因になった人間だよ。……これを聞いたらあんた、多分後には引けなくなるぜ」

「かまわん。教えろ」

「……いいだろう」


 この時点で、バッシュは既に戦闘状態にはない。だが、その眼はむしろ、怒りの念に燃え盛っているようにも見えた。


「10年前、俺たちやあんたたちに起こったこと、その全ての原因は……」

「この人ですよね、ヴェゴーさん」


 ナンの後ろから不意に声がかかる。

 そこには、ひょろっとした長身の青年が、めんどくさそうな顔で立っていた。

 だらりと下げた右手には、怯え切った表情のでっぷり太った老人をぶら下げている。

 その姿を見たザマンは、驚きの声を上げた。


「っ、あなたは……!」

「だいぶ遅い登場だなぁ。どうせ見てたんだろ?」


 その姿を目の端で捉えたヴェゴーが少し呆れたような口調で声をかける。

 それは、かつて共に災厄と戦った、同志だった。


「現ギルド協会会長、ゴメス=ウルチ」

お待たせいたしました!


あと残り2話、お付き合いよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ