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ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第二章 かんちゃん昇級審査編

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043 かんちゃん、覚醒!

「に、忍法?」

「なんですかそれ?」


 ザマンとかんちゃんが口を揃えた。


「忍者だけが使える、まあ魔法みたいなものね」

「え、でも魔法は……」

「そう、今はわっちが魔力を相殺してるから、本来なら魔法は使えない。……でも忍法は別なの」

「……忍法は、魔力を使わないんですよねぇ〜」


 そう言ったのはグレイである。

 地面にどすんと腰を下ろし、もはや高みの見物を決め込んでいた。


「魔力を使わない魔法……?」

「正確には魔法じゃないんですよねぇ〜。忍法には、タネも仕掛けもあるんですよぉ〜」

「乱暴に言えば、戦闘用の手品みたいなものね。相手を困惑させるために、魔法のように見せている、と言えばいいかしら。とはいえ威力は魔法と変わらない。術者次第でいくらでも強力になるわねぇ」

「そんな技術が……」

「……細かいことはいいんです」

「かんちゃん?」


 かんちゃんは、ヴェゴー達の戦いを、一瞬も漏らすまいと凝視している。その視線は観戦というより、観察というべきものだった。


「今のままだと、ヴェゴーさんは不利ということですよね」

「……そうね。魔力の流れはわっちが防いでるから。でも、それをやめれば周りの魔導士が瞬間移動魔法を発動してしまうわ」

「……周りの魔導士達の魔法を封じ、かつヴェゴーさんに魔力を供給出来れば。そういうことですよね」

「……まぁ、理屈ではそうだけども」

「そんなこと、どうやって」

「……試したいことがあります」


 かんちゃんはそう言うと、顎に手を置き、ヴェゴー達の戦いに目を向けた。


「か、かんちゃん?」

「……」

「ザマン君、邪魔しちゃダメよ。……今のかんちゃんの耳には全く入ってないでしょうけど」

「ど、どういうことですか?」

「集中してるから邪魔すんな、ってことですよぉ〜」

「この状況をひっくり返す方法を探してるのよ。……どんな答えが出てくるのかしらね」


 かんちゃんを見るナンの目は、何か眩しいものを見るような視線だった。


――――


 バッシュの周囲に浮いた火の玉がゆらりと動く。術者であるバッシュを守るような動きから、急にヴェゴーに向かって飛んでくる。加えて、バッシュも直接攻撃を仕掛けてくる。

 魔法のようで魔法ではない、その異質な攻撃に、ヴェゴーは翻弄されていた。


「忍法、か。聞いたこたぁあるが、見るのは初めてだな」

「……二度見ることはない」

「……恐い恐い」


 揶揄う(からかう)ような口調だが、ヴェゴーの表情には余裕がない。

 元は最強と謳われた冒険者である。大概のことには動揺などすることはないが、今回は相手が悪い。


――忍者ってだけで手練れもいいとこだ。何してくるのか想像もつかねえ。挙句に忍法、こっちは魔力が使えねえ。

……どうする。


「諦めたらどうだ、英雄ヴェゴー。もはやなす術もあるまい」

「そうしてえ気持ちがなくはねえけどな。……だがよ」


 ヴェゴーは防御の姿勢を崩さずに笑った。


「……見せたい背中があるんでな。そう簡単にヘタれる訳にゃいかねえんだよ。あと、俺は英雄じゃねえ」

「よくいう。かつて、甚大な被害を出しながら、天災級の魔獣を打ち倒した男が」

「……あ?」

「あの時のことはよく覚えている。……貴様らの到着が遅れたがために、我々の部隊は壊滅させられたのだからな」

「おまえ、あの時の生存者か」

「あれは魔獣のせいじゃない。あれがそういう化け物と知りながら、それでも到着の遅れた貴様らのせいだ」

「……」


 ヴェゴーの動きがピタリと止まった。

 一方、バッシュの攻撃は止まらない。ヴェゴーはその猛攻になす術もなく晒されていた。


「旦那! ……あれは旦那のせいじゃないのに」

「どういうことです?」

「……あの時、確かにわっち達は到着が遅れた。でもそれは、わっち達にとっては、遅れた訳じゃなかったのよ」

「え?」

「知らされてなかったの。Z級魔獣のことも、その討伐にたくさんの冒険者や軍勢が派遣されたことも」

「なんでそんな……」

「もしわっち達がやられたら、もう人間に対抗できる手段がない。……だから、万全を期して、少しでも魔獣の体力を減らした状態でぶつけようっていう話し合いがあったみたいなの」

「だ、誰がそんな指示を」

「当時のギルド協会よ」


 ナンはヴェゴー達を見つめたまま、まるで独り言のように言葉を紡いでいた。

 そんな彼女を茫然と眺めるザマンの横で、グレイが漏らす。


「……それで協会を信頼できなくなった冒険者は結構いましてね。私もその一人ですが」

「グレイ卿のお師匠さんはね。旦那のパーティのアタッカーだったのよ」

「戦いが終わってから、病気で死んじゃったんですけどねぇ〜」


 グレイの顔は笑っていたが、その横顔には一抹の寂しさが浮かんでいた。


「……ていうか、かんちゃんは?」

「座り込んで、なんかメモに書き込んでましたけど……」

「……見つけたのかしらね」

「な、何をです?」

「すぐに分かるわよ」


 そういってナンはザマンにウインクしてみせた。


「そんな、ヴェゴーさんがヤバいってのに……」

「……出来た」


 かんちゃんがメモから顔を上げる。その顔は、決意と自信にあふれているように見えた。


「出来たって、何が?」

「……これから、ヴェゴーさんの魔力だけを戻します」

「そんなこと、出来るんですかぁ〜?」

「理論上は可能です。ナンさんが相殺している魔力の属性パターンを解析、カウンターとなる法則性(アルゴリズム)を見つけました。それをヴェゴーさんにだけ影響するように調整して、ヴェゴーさん周辺の魔力の乱れを打ち消します」

「……何言ってるのか全然わかんねえ」


 呟くザマンを気にもせず、かんちゃんは立ち上がった。


「アーマー展開」


 腕輪とショートブーツになっていたかんちゃんの重装鎧が、即座に展開される。

 ものの数秒でかんちゃんは、ゴツい金属製の鎧に全身を覆われていた。


概念楽器(ムジクデバイス)、全開放!」


 かんちゃんの全身から小さな楽器が一斉に現れる。その数、ざっと80はあるだろうか。個々の放つ様々な色の魔導光がかんちゃんを中心に煌めいている。


「……すげぇ」

「これほどとは思わなかったわね……」

「やっぱりとんでもなかったですねぇ、かんちゃんも〜」


 ザマン達が呆気に取られていると、かんちゃんが鎧の中から声を掛けてきた。


「……ザマンさん」

「は、はい!?」

「終わったら、多分私、倒れます」

「えええっ!?」

「その時は、……お願いしますね」

「……わかった! 安心して!!」


 ザマンが力強く頷いてみせる。それに小さく頷くと、かんちゃんは両腕を大きく拡げ、叫んだ。


「魔力完全解放! 究極楽術魔法(ラストムジカマギア)交響楽(オルケスタ)!!」

いつも応援ありがとうございます。


またしばらくお時間をいただくことになってしまいますが、

新作「最凶忌み子の護り神」ともども、お楽しみいただけたら幸いです!

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