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ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第二章 かんちゃん昇級審査編

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040 ヴェゴーが本気を出します

 バッシュが背中の大剣を抜いて正眼に構える。

 それに合わせ、ヴェゴーも背中に手を回し、腰に差したナイフを抜いた。持った左手を前に突き出し、右手を刃に添える。


「その姿。Z級討伐の英雄、ヴェゴー=アクツか」

「俺は英雄じゃねえよ」


 ヴェゴーの右手から刃に、黒く光る魔力が伝う。彼の得意とする重力系の魔力だ。対してバッシュの剣は時折火花の様に放電している。


「ただの冒険者だ」

「……ふん」

「かんちゃん! 支援止めてくれ!」

「え?」

「……こいつとはサシでやる」


 いつの間にか周りのジータ兵やナン、グレイ、それにザマンは手を止め、二人のなりゆきを見守るように注視していた。

 ヴェゴーの周りの魔力が薄くなり、やがて霧散する。それを見たバッシュが重装鎧を解除すると、中からは分厚い筋肉をチェーンメイルで包んだ、歴戦の戦士の身体が現れた。


「重装鎧でも構わねえんだぜ?」

「英雄ヴェゴーと殺し合うのに、こんな重いもの着けて戦えるか」

「……なるほど」


 ここにきて初めて、ヴェゴーはバッシュを警戒した。

 分厚い鎧の向こうに隠れ、自分は手を汚さないタイプかと思いきや、出てきたのはガチガチの重戦士。ヴェゴーと負けずとも劣らぬ体躯は、汗を蒸発させている。


 ゴリゴリの現場叩き上げか、それとも――。


「……お前さん、元は冒険者だな?」

「……何故そう思う」

「どんなクエストを受けたとしても、最後には契約よりも自分の勘を優先する。冒険者ってのはそういうもんだ。その鎧外したのもそういう判断だろう」

「……」

「……まぁいい。俺がやるこたぁ変わらねえ」


 様々な色彩の光を放つ、かんちゃんの魔法の盾(マジックシールド)が消えた代わりに、ヴェゴーの周囲には黒く重たい光を放つ魔力があふれでていた。

 彼の持つ重力属性の魔力の光だ。


 元々魔力量の少ないヴェゴーにとっては限界に近い量だった。

 ヴェゴーの耳に、ナンたちの声が聴こえてくる。


「旦那……」

「ヴェゴーさん、あんなに魔力強かったでしたっけ?」

「……多分、ほぼ限界値に近いはずです。元々ギルド長は、ヴェゴーさんは、攻守を同時にカバー出来るだけの魔力は持っていません」

「どういうことっすか?」

「後先考えてないってことねぇ。旦那がああなる位の相手なんて、ジータにいたかしら……」

「いいですねぇ……。後のことは私たちに任せるですよぉ……。あ、ギルド長ぉ……」


 グレイが、虚ろな目で楽しそうに語りかけてくる。


「失敗しても、いいですからねぇ?」

「……しねぇよ」

「もういいか」


 バッシュの大剣の放電はもはや、刀身全体を覆い尽くすほどの勢いになっていた。


「待たせたな。……じゃあ、やろうか」


 対峙する二人を中心に、空気が変わった。

 重力と雷の魔力が迸り、魔力が嵐の様に吹き荒れる。

 その瞬間耳鳴りがしたのか、かんちゃんたちやジータ兵も両耳をふさぎ、中にはしゃがみこんでいる者もいる。


 一方、二人の中心は台風の目のように穏やかだった。


――おっかねぇな、おい。

 ヴェゴーは十年前、国家転覆レベルのZ級魔獣、最悪の(ワースト・)災厄(ディザスタ)を討伐した、その時の感覚に近いものを感じていた。

(一介の部隊長にこんなやべぇやつがいるのかよ)

 勝ち負けではなく、命の危険を感じる。

 汗が噴き出し、動悸が激しくなる。

 全身が震え出し、抑えられない。


――楽しくてしょうがねえ。


 バッシュはといえば、こちらも同じような様子だった。

 まだ構えただけで、お互い一歩も動いていない。

 それなのに、既に息が上がったように、ゆっくりと大きく肩が動いている。


(はは、あの野郎笑ってやがる)


 バッシュもまた、楽しくて仕方がないという風に、口角を吊り上げていた。


「ぉぉぉぉ……」

「ぁぁぁぁ……」


 どちらともなく、獰猛な生き物の唸りを発し始め。

 そして。


「おおおおおおお!!!!」

「あああああああ!!!!」


 二頭の獣は、理性という名の鎖を引きちぎった。

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