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ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第二章 かんちゃん昇級審査編

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038 かんちゃんのとっておき

 数十人もの訓練された兵士に対し、たったの三人。

 最強と謳われたヴェゴーがいるとはいえ、複数から同時に攻められるのは不利になる。

 そう考えたのだろう、ザマンはかんちゃんとマリンを後ろにまわし、自らはその前に立ってクロスボウを構えた。


「ヴェゴーさん! こっちは俺に任せてください!」

「おう」

「本当はザマンくんにも見せたくはないんだけどねぇ」


 ヴェゴー達とジータの間にそびえる炎の壁は、今や相手の顔がはっきり見える程度に弱まっていた。


「……よし。俺が盾として正面から突っ込む。ナン姐さんは遠距離攻撃、グレイ卿は好きに引っ掻き回せ。……姐さんの一撃に気をつけろよ」

「はぁい」

「今度こそ、殺して構わんのだろう?」

「……指揮官以外はな。向こうがその気なら、遠慮する必要はねえ」

「承知」


――ああなった時のグレイ卿はこええ。

 普段のとはまるで違うグレイの口調に、ヴェゴーは若干冷や汗をかきつつも、勝利を確信していた。

 残りの問題は“指揮官を殺さずに確保”することだけだ。


 今のグレイはいわばトランス状態に近い。肉体や精神丸ごと、破壊という目的にのみ向かわせている。

 一応釘は刺したが、実際に戦闘が始まったら、そんなものは完全に吹き飛ぶだろう。

 そして生まれるのは、世界でも有数の殺戮者だ。


 グレイの手にかかる前に、身柄を確保するしかない。

 ヴェゴーの役目は実質、そこに集約されていた。


「よし」


 三人の臨戦態勢は既に整っている。

 対するジータの軍勢も、あとは号令待ちといった状態であった。


「いくぜぇ! 先手必勝っ!!」

「かかれっ!!」


 ヴェゴーが炎の壁をものともせず、真っ直ぐに突っ込む。

 その後ろからはナンが炎の矢(フレキアフィア)を放つ。

 ヴェゴーが確認するまでもなく、グレイの姿は既にそこにはなかった。


 対するジータの軍勢も統制が取れている。

 十数人で密入国してきたにも関わらず、その数はざっと50人以上。

 ナンが片付けた陽動、会場内の刺客も含めれば、優に100人を超える。


 何故、彼らはそれほどの軍勢をいきなり用意できたのか。

 平たくいえば、軍勢の大半は、予め(あらかじめ)侵入していたのである。

 ある者は交易商を装い、またある者は旅行客を装って、雨水が集まって水たまりになるように。

 さらに、ナンが探知した密入国の軍勢は、それ自体が囮だった。

 わざとらしくバレバレな侵入をすることで、既に入り込んだ雨水が溜まっていくのを上手く隠したのである。

 だが、この規模が隠密にことを運ぶためには、もう一つの要素が必要だった。


「さっさとこいつら蹴散らして、ラスボス引っ張り出してやらねえとなぁ!!」


 この一連の騒動を成功させるための要素。

 それは、内側からの(・・・・・)手引き(・・・)

 それが、ヴェゴー言うところの“ラスボス”だった。


――――


 ナンの魔法が爆ぜ、グレイが疾走(はし)る。

 その激しさに、ジータ軍は隊列を崩される。崩れてあふれた兵士達に、ヴェゴーの拳がうなりをあげる。

 周囲への影響を抑えるために広範囲に渡る攻撃は避けているとはいえ、個人ではほぼ最高戦力と言える三人が暴れまわる。

 その度にジータ兵が一人、また一人と地面に伏していった。

 それでも統制が乱れないのは流石といったところだが、反撃にまでは手が回らない。

 防戦一辺倒になるジータだったが、それはまた“反撃の力を蓄える”好機でもあった。


 反対にヴェゴー達は常に攻撃を仕掛けているため、体力や魔力の消耗が激しい。

 特に元々体力がなく、さらに魔法を連発しているナンの疲労はピークに達しようとしていた。


「はぁ、はぁ……、炎の矢(フレキアフィア)っ!」

「姐さんがそろそろやべぇ。グレイ卿!」

「はぁい? 私まだ全然いけますよー?」

「言いながらペース落ちてんぜ? ちと来てくれ」

「あ、バレました?」


 敵陣のど真ん中で暴れていたグレイは悪びれもせず、周囲を一瞥した後、鎌鼬を残してヴェゴーの方に飛び退った。


「だいぶ減ったな」

「半分くらいにはなりましたかねぇ〜」

「向こうの体勢が整う前に特攻(ブッコミ)かけるぞ。姐さん! 最後に一発頼む!」

「了解……くっ!」

「姐さん!!」


 ヴェゴーの視界の端に、力無くくずおれるナンの姿が入っていた。

 が、倒れ込む寸前、走り込んできたザマンがナンを支える。

 その後ろからは、かんちゃんが小走りに近づいてきていた。


「……かんちゃんもきたのか」

「お手伝いします」

「……さっきも言ったが、これはクエじゃない。ただの殺し合い、戦争だぞ」

「……分かってます」

「かん、ちゃん。……無理し、ちゃだめ、よ」

「無理してるのはナンさんです。……それに」


 かんちゃんが素早く鎧を展開する。ブーツと手袋の状態に収めていた重装鎧が瞬く間に小柄なかんちゃんを覆い隠していく。


「パーティメンバーを手伝うのに、クエも何もありません」


――金管(ブラス)合奏形態アンサンブル

 大きく腕を広げたかんちゃんが詠唱する。鎧のあちこちから、様々な属性の色をした光の塊が飛び出してきた。

 さらに、


術式拡張(アドバンスド)!」

「拡張だと!?」


 ヴェゴーが慌ててナンを振り返る。そこにはザマンに支えられ、かろうじて立っているナンが、それでも不敵な笑みを浮かべていた。


「……あの子、凄いわよ」

「ナンさん、今は回復を」

「大丈夫。……旦那、見てて。あの子の努力の成果よ」


 かんちゃんが呼び出した光の塊は、以前死霊王を討伐した時の比ではない程明るい。

 さらにその数はざっと見ても数十個はある。


「……なんだこれぁ」

「かんちゃんの必殺技。……現時点での最強楽術魔法(とっておき)よ」

「とっておき……」

「最強冒険者のパーティメンバーを名乗るなら、これくらいは当たり前だって。……旦那、あなたのために開発したのよ」

「かんちゃん……」


 重装鎧の周りを数十の光の塊が飛び交う。

 バラバラだったその動きは、かんちゃんが右腕を上に振り上げた瞬間、規則的な動きに変化した。

 そして、かんちゃんを中心としたその背後、上下左右に大きく拡がって停止する。

 その異様な光景に、ヴェゴーたちだけではなく、ジータ兵たちも目を奪われていた。

 そんな中、かんちゃんは高らかに、堂々と詠唱してみせたのだった。


「……究極楽術魔法、交響楽(オルケスタ)!!」

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