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ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第二章 かんちゃん昇級審査編

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036 グレイもたまにはちゃんとします

 ヴェゴーとナンが外でジータの軍勢を食い止めている頃。

 試験場の中では、かんちゃん、ザマン、グレイ、そして狙われた当事者の有翼族が、侵入した刺客達を掃討していた。


「とりあえずなんとか片付きましたね」

「かんちゃんすげぇ、めっちゃ強くなってる……」

「あれ? もう終わりですかー? 私ようやく準備運動が終わったところなのにぃ」

「あれだけ暴れて死者0とか、グレイ卿は一体どーなってるんですか……」

「まぁ、何人かは“死んではいない”みたいなギリギリの状態ですけどね……」


 観衆や受験生は既に別棟に避難させている。彼らは狙いの有翼族しか目に入っていないため、観衆を移動させるのは意外とすんなりいった。


「青年、ナイスおとり」

「初めて聞きました、そのフレーズ。……で、青年さん、お名前は?」

「……マリン・サナップです。た、助けてもらったんですよ……ね?」

「たぶん」

「たぶんて」

「ではサナップさん。私達はこれから外の応援に行きます。あなたは避難場所へ」

「あっ、ぼ、僕も行きます!」

「いやー、止めといた方がいいんじゃ……」


 かんちゃんとザマンがマリンを説得する中、グレイが口を開いた。


「青年」

「……はい?」

「チミにしか出来ない仕事があるんだけど、やるぅ?」

「……はい!」

「ちょっと、グレイ卿!」


 慌てたかんちゃんがグレイを咎めた。が、当の本人は涼しい顔で言う。


「やーだって、外の連中も狙いは同じでしょおー? だったら顔見せてあげれば、向こうの動きをこっちでコントロールしやすいよねー、あっはっは」

「鬼かあんた……」


 ザマンは頭を抱えた。

 それを聞いたマリンはかなり怯えた表情になったが、それでも顔を上げ、グレイを見ながら言った。


「……やります。おとりでもなんでも。僕はもう、コソコソ隠れて生きるのは嫌だ。だからこそ国を出て冒険者になったんだ。……でも、こっちでも翼は隠さなきゃいけなくて、窮屈で……。だから、行きます! 僕は自由を手に入れるんだっ!」

「あの、熱いとこ申し訳ないですけど」

「どうしたの、かんちゃん」


 ザマンの問いに、かんちゃんはしれっと言った。


「もうグレイ卿行っちゃいましたけど」

「えっ」

「あの人、言う事言ったらすぐどっか行っちゃうんですよ。いいたいだけ、やりたいだけなんです」

「えっ」

「あーたしかに。もうあの人、マリンくんのこと全く頭から消えてるよね」

「ぼ、僕の決意は……」


 言いながらマリンが膝をつく。

 そんな彼に、かんちゃんが少しだけ優しい口調で語りかけた。


「それは、私たちが聞き入れます」

「わ、私たち……! 俺とかんちゃんで私たち……!」

「ザマンさん」

「! な、なんだいかんちゃんっ」

「ちょっときもいです」

「ごふぅっ!!」


 吐血しそうな勢いでダメージを喰らったザマンを尻目に、かんちゃんはマリンを立たせて言った。


「行きましょう、サナップさんの自由のために。……あと、うちのギルド長たちを助けに。……もう終わってるかもしれないけど」


――――


 一方、ヴェゴーとナンは一旦合流し、正面入口の敵と睨み合いの真っ最中だった。


「まったく失礼しちゃうわねー。わっちの方、ゴーレムしかいないんだもの」

「裏口に陽動をかけるあたり、向こうの指揮官は中々ひねくれてるな。まぁでも結果オーライか」

「そうねぇ、人形相手なら手加減いらないしね」


 その裏口は今や焦土と化している。

 裏口に回った兵が全てゴーレムだと看破したところで、ナンは周囲一面を焼き尽くす超高位魔法、炎獄(ゲヘナ)一発で陽動部隊を全滅させ、表に回ってきたのだった。


「それにしても、炎獄とはまた」

「だって次から次から鬱陶(うっとお)しいんだもの。大丈夫よ、100年もすればペンペン草くらいは生えるわ」

「だいじょばねえ感じするけどなぁ……」

「旦那の方は? まさかの苦戦かしら」


 そう言ってからかうナンに、ヴェゴーは苦笑する。


「苦戦っちゃあ苦戦かもな。“生け捕り”ってなめんどくせぇや」

「ああ、そういう……」


 相手が他国の人間であることが判っている以上、故意に相手を殺した場合、それが例え一兵卒であろうとも、戦争の火種になるのがこの世界だ。

 国同士は基本、相互不干渉の立場を取っているが、その根本にあるのは平和思想ではない。

 各国の軍事力が拮抗しており、さらに冒険者などの後先を考えない鉄砲玉が余りに多いため、下手に動くと即戦争状態に陥るためだ。


 つまり、今回のジータの侵攻は、完全にダーマに向かって喧嘩を売ってきたということになる。


「先に手を出したのは向こうだとは言え、まだ正式な宣戦布告が来たわけじゃねえ。ここで俺達が下手にやらかす(・・・・)と、不利になるのはこっちだ。……多分向こうもそれを狙って、陽動を裏口にしたんだろうぜ」

「せこいわねぇ」

「せこいよなぁ」


 二人が話している間、ジータ側に動きがなかったわけではない。むしろ伝令が目まぐるしく動き回り、各隊の調整を行っている。それを見落とすヴェゴーではないが、だからといってこちらから何が出来るというわけでもなかった。


「……極力殺したくはねえな」

「極力、ね」

「ああ」


 こちらからは手を出さないが、向こうから仕掛けてくるなら容赦はしない、という確認である。


「姐さん、魔力と体力残ってる?」

「体力はないわね」

「ですよねー」

「そういう旦那は?」

「手加減するのが面倒くさくなってきてる」

「ですよねー」

「……さて、そろそろ動くかな?」


 そういうヴェゴーの目の前、試験会場の門は既に、ジータの軍勢がひしめき合っている有様だった。


「こんなに入り込んでたのかよ」

「現地調達の傭兵もいるんじゃない?」

「……これだから冒険者ってやつぁ」

「ブーメランよ、それ」


 と、ジータの指揮官から声が上がる。


「最終通告である! ただちに有翼族の男を引き渡せ。さもなくばこの場にいる全兵士を以て、可能な限りの攻撃を敢行す……うわっ!!」

「うわ?」

「……やっときたか」

「いぃぃぃいいいやっほーーーーーう!!」


 高らかに宣言していた指揮官の語尾が崩れる。

 と同時に、聞いたことのある歓声が指揮官のいるあたりから上がった。


「ダーマ冒険者ギルドコディラ支部所属、グレイ=ストォーーーーク! 売られた喧嘩を買い付けにきましたよぉぉぉ!!」

大変おまたせいたしました!

なんか某H×Hみたいなペースになってますが、完結はさせますよー!

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