032 ヤカラ達は都会に繰り出します
キョセの街は、いわゆるビジネス街がその大半を占める都会である。
他の街から通う者も多く、仕事帰りに立ち寄るための歓楽街が、そこかしこで華やいだ雰囲気を演出していた。
審査会場の駐車場に魔導車を停める。そして車から降りた二人は、その都会の喧騒に早くも辟易していた。
「相変わらずせわしいわねぇ」
「苦手なんだよなぁ……」
「そういうとこ地味に田舎者よねぇ、旦那もわっちも」
「かんちゃんも昨日ぼやいてたよ、“一刻も早く帰りたい……”って」
「あの子らしいわねぇ」
ナンは小さくため息をついた。
ヴェゴーは一つ大きく伸びをした後、気を取り直すように明るい声を出す。
「さて、やることやってとっとと帰ろう。……姐さん、ジータ旅団の動きは?」
「んー……まだ少し距離があるわね。所属不明は……!」
「どした」
「もういるわ」
「……早いな」
「手引きしてるのがいそうね……」
「ひとまず中に入るぞ」
いうなりヴェゴーは会場入り口に歩き出した。ナンがその後を慌てて追いかけながら声を掛けてきた。
「あ、ちょっと旦那、入場結界あるわよ? 解除パス持ってるの?」
「顔パスだよ。これでも超級だぜ? 姐さんも一緒に入れば問題ない」
「……そうでした」
「まぁ、中には警護もいるから問題ないだろうがな。ついでにかんちゃんの様子も見に行こう」
「そっちがメインなんでしょうに……」
過保護ねぇ、と苦笑するナンに、ヴェゴーは知らないふりをしてみせたのだった。
審査会場は熱気と喧騒にあふれていた。審査は既に始まっており、早い組は筆記試験を終え、実技試験会場に移動しているようだった。
「かんちゃんは何番目かしら」
「早くても次の組だろうな。一番早い組は地元のやつらばっかりなのがいつものパターンだ」
そういうとヴェゴーは実技会場へと足を向ける。
「結果発表会場じゃなくていいの?」
「あぁ。人買いってのはあくまでも“自分たちのニーズに合う若手”を狙うんだ。成績がいいから狙うってわけじゃない。それに、実技会場のごちゃごちゃした人の流れは、監視の目を欺きやすい」
「なぁるほどねぇ」
「やつらが狙うのはおそらく、試験が終わって移動する時だろうな。……ん、あれ?」
「どうしたの?」
「あの試験官……」
「ん? ……あら」
実技試験会場は、円形闘技場のような形になっている。すり鉢型の会場の中心に試験場、周りのすり鉢部分には順番待ちの受験生や付添い達が、試験の様子を眺めていた。
そしてこれから始まる本日最初の実技試験。その試験官は、ヴェゴーたちのよく知る人物だった。
「ザマン……」
「……あれもお仕事のうち?」
「いや。でもあれはアリかもしれん」
「そうね、すぐ近くで警護出来るものね」
「逆に言えば、この観衆の中かスタッフに、既に潜り込んでると予想したってことだ。かんちゃんが絡むと優秀だな、あいつ」
「ね、旦那はかんちゃんがターゲットになると考えてるのかしら?」
「その可能性は高いだろうな」
以前ヴェゴー達が遂行した“死霊王討伐”クエスト。SS級だったことも加え、そのパーティメンバーにC級冒険者がいたこと、更に海外にまで轟く“ヤカラギルド”の悪名が、かんちゃんの名前を一気に広めることになった。
今ではその名は他国にまで知られ、この一ヶ月でヴェゴーが断った“かんちゃんへのインタビュー取材”依頼は三桁に及んでいる。
「でもあれじゃない? 期待の新人かんちゃんはほら、全身鎧のフルフェイスだったから……」
「ああ。顔がバレてないのが救いだな。……だからこそ、ここが危ない」
「どういうこと……あ、魔法か」
「ああ。かんちゃんの魔法はかなり特徴的だ。報道でも“魔法を演奏する新人冒険者”とか言われてたからな」
「気にして見てればすぐバレる、か」
ナンの言葉に頷いたヴェゴーは、再び会場に目を向けた。
そろそろ試験が始まるらしい。試験官に扮したザマンが、受験生達に説明を始めていた。
「……はい、それではね、これから実技試験を開始します。受験番号順に並んでくださいね。実技の試験内容は2つ。これらと筆記の点数を総合して合格者が決定されます」
「ちゃんとしてるわねぇ……」
「あいつもしかしたら教官とか向いてるのかもなぁ」
「まぁ服の色合いはいつもの感じだけど……」
「では最初の試験。これからここに的が出てきます。攻撃職の人は時間内に攻撃を当てる、防御職、支援職の人は、動く的を時間内に止めることが課題になります」
「的?」
やがて試験場に運び込まれたそれは、一見ゴーレムのようにも見えた。
頑丈な木製の台から、人型の物体が吊り下げられている。
だが、ゴーレムにしてはやたらと活きが良い。設置される前から、バタバタと跳ね回っているのだ。
「ゴーレムかしら? だいぶ元気に跳ね回ってるけれど」
「人間の動きじゃねえよなぁ。あんなぐるぐるに縄で縛られて、あそこまでぴょんぴょん動ける人間なんざ、そうそういるもんじゃ……あ」
「どうしたの?」
「顔」
「え?」
「あの簀巻きの顔見てみ」
「え、顔……! ぶふぅぅっ!!」
「もごぉぉぉぉぉぉっ! もごごぐもぷはぁっ!! た〜す〜け〜てぇ〜〜っ!!」
「なにやってんだ……」
ザマンに続きそれもまた、彼らの知っている顔であった。
「グレイ卿……」
いつも応援ありがとうございます!
これからもよろしくおねがいしますー!
次回、簀巻きが大活躍!?





