030 かんちゃんは昇級試験に挑みます
今日のギルドは穏やかだった。
「昇級試験、ですか」
「おう」
死霊王討伐から半月。
4月に入り暖かく穏やかな日が続いている。ヴェゴーとかんちゃんはコーヒーを飲みながら一休み中だ。かんちゃんはもちろん、ミルクと砂糖てんこ盛りである。
この半月の間に冒険者ギルドコディラ支部はいくつかのクエストをこなし、ギルドとしての再建資金も少しずつ増えてきていた。おかげでヴェゴーはすっかり昼行灯に戻り、まったりとした日々を過ごしている。
SS級クエストの死霊王討伐に成功したという情報は数日の内に全国に知れ渡り、小規模ゆえに自分の所では対処しきれないという地方ギルドの高難度クエストの打診が引きも切らない。
殆どがC級、つまり事務や採集のクエストなのでかんちゃん大活躍といったところだが、中にはA級、時にはS級のクエストもあったりする。その場合はシーダやグレイが担当することになるのだが、さすがに2人では手が回りきらない、そんな状態だった。
「まぁ俺が承認しちゃってもいいんだけどね。そもそもSSクエをクリアしたメンバーってことで、B級までは申請書類だけで済ませちゃってるけど」
死霊王クエストの後すぐに、かんちゃんはB級冒険者の資格を手に入れていた。
過去、ヴェゴーのような冒険者認定資格を持つ人間からの承認で冒険者になったものは何人もいるが、1ヶ月足らずという短期間でB級に上がったものはほんの僅かである。
「A級、ですか」
「ま、お試しのつもりでな。試験会場のあの雰囲気を知っておくのも悪くないし。それに、自分と同じくらいの冒険者ってあんまり交流ないだろ」
「たしかに……」
かんちゃんの周りの冒険者は最低でもA級、上は限定解除。
A級の冒険者は、全冒険者のうち12%ほど。さらにS級になると3%、その中でも限定解除、つまり“国家転覆レベル”のZ級クエストを直接受注出来る人間は10人に満たない。だが、限定解除のうちの2人がかんちゃんの知り合い、しかも1人は上司である。
成りたてほやほやB級冒険者のかんちゃんから見ればA級すら雲の上、ヴェゴーとオルカに至っては、成層圏をぶち抜いた先にいるような感覚なのだと、ヴェゴーはかんちゃん自身の口から聞いていた。
「来月にはギルド対抗武闘会もあるしね。力試しでやってみてもいいんじゃないかいねと、そういうことだよ」
「そういえばどうするんですか? 武闘会。4人チームで出るんですよね?」
「うん。個人エントリーも出来るんだけど、そっちは任意。チーム戦は必ず出ないといけない」
「メンバー的に悪目立ちする予感がすごいするんですけど。ナンさん、シーダさん、グレイさん、ヴェゴーさん……」
「あ、俺出ないよ?」
「え?」
「オルカもだけど、パワーバランスが酷いことになるからこういうイベントは出場禁止なんだよ」
「あ、なるほど……って、じゃあどうするんですか?」
コディラ支部には他にまともな冒険者がいない。ナンが冒険者に復帰して大幅に戦力は上がっているが、人数だけはどうにもならない。
――とか思ってんだろうなぁ……と、ヴェゴーは内心苦笑する。
「かんちゃん」
「はい?」
「がんばってね」
「――……は? 私ですか?」
「なんでそんな意外そうな顔だよ」
「いや、だって私、戦闘はからっきしですよ?」
この人頭大丈夫かな、くらいの勢いでかんちゃんはヴェゴーに問いかけた。
「SS級攻略の参加者、異例のスピードでB級に昇格、限定解除冒険者の肝いり。メンバーとして参加するには充分ってもんだよ」
「そう言っちゃえばそうですけど」
「チーム戦てのは、個人の戦闘力が高いだけじゃそうそう勝てない。それぞれが自分の役割を果たしていかないといけないんだ。そういう意味ではかんちゃん、おまえさんはチームの要なんだよ」
「えぇ……」
「ま、どんなルールでやるのかも当日までわかんないんだけどな。でもあれだ、かんちゃんの鎧。あれ着てれば結構強いのと当たっても多分なんとかなるぞ」
「はぁ……」
「ま、とりあえずだ」
ヴェゴーはコーヒーを飲み干し、とん、とテーブルにカップを置いた。続いて引き出しから数ページほどの書類を出す。
そこには“冒険者支援ギルド発行 冒険者昇級試験要項”と書かれていた。
「次のA級試験が一週間後にある。費用はギルド持ちでいいから、軽い気持ちでやってみな」
「……試験勉強しなきゃ」
「時間がある時なら仕事中にやってても構わんぞ。グレイもシーダ嬢も合格したんだ、かんちゃんなら筆記はまず問題ないだろ」
「筆記と実技でしたっけ」
「そう。あ、試験には鎧は持ち込めないからな」
「あう」
「ちなみに合格率は良くて15%。筆記と実技の総合点で評価……か。実技次第では一発合格もあり得るが……ま、何事も経験だな」
「はぁ……あ、実技って何するんですか?」
試験内容と書かれた項目には、日時や場所と一緒に「筆記試験、実技試験二種類」と書いてあり、当日出される可能性のある実技試験の種類などが記されていた。
「何十種類かある試験のうち、二種類が当日発表される。どれが来るかは当日までわかんないから真の実力が試される」
「へぇ……あ、一応役割ごとに内容は分かれるって書いてある」
「そりゃそうだ。支援職なのにタイマンで殴り合いなんか出来ないしな。求められるのは適材適所、プラスアルファの要素だ。ちなみにシーダ嬢は筆記は赤点ギリギリレベル、実技とプラスアルファでぶっちぎりだったらしい」
「ケダモノ僧侶……」
「うん。回復職で受けたんだけどな。実技試験がパーティ戦闘での立ち回りだったんだと。そこで相手になったパーティが攻撃特化のチームだったらしくてな。自分とこの前衛が崩されて壊滅しかかった時、例の獣化で相手を全滅させたんだってよ」
「とんでもない飛び道具ですねぇ」
かんちゃんは呆れたような声を出した。
シーダの獣化は確かに飛び道具だった。強烈なパワーを持つ代わりに、異常に体力の消耗が激しい。全力で暴れた場合、30秒も保たずにスタミナ切れをおこす。
秒殺の無双。
トドメのラッシュ攻撃にのみ、その力は存分に発揮されるのだった。
「まぁ、試験は勝ち負けより内容だからな。今度の週末が試験だからエントリーしておくといい」
「……落ちちゃったらすみません」
「構わねえよ。さっきもいったろ? 倍率も高いし、一発で合格するやつなんてそうそういねえしな」
「はい。あ、会場ってどこだっけ……」
「A級はキョセだな。あとで地図書いてやるよ」
「ありがとうございます」
その言葉を最後に、二人は仕事に戻った。今日はC級事務クエストばかりなので、かんちゃん大活躍である。その傍ら、ヴェゴーもなんとか頑張っていたが、遂には諦め、甘いものとコーヒーをかんちゃんに給仕するウェイターと化していた。
そして数日後。
かんちゃんは、キョセの街にいた。
お待たせしました!
第二部? 連載開始です! お楽しみ下さい°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
次回は10日に更新です。





