表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第一章 死霊王討伐編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/46

028 かんちゃんの奥の手

 戦いは熾烈を極めた。

 残ったゴーレムを全て集めた死霊王の集団に対し、ヴェゴー達の戦力はたったの4人。

 それでもナンの持つ最大範囲魔法炎獄(ゲヘナ)を使えば一掃出来るのだが、先ほどとは違い、このダム周辺は森林地帯だ。うっかり飛び火でもすれば炎はたちまち燃え広がり、最悪バクダマー山の殆どを焼き尽くす大惨事へと繋がってしまう。

 結果、ナンは細かい魔法を連発することになった。

 そうなると問題は、ナンのスタミナである。


「……炎の矢(フレキアフィア)! ……はぁ、はぁ、キリが、ない、わねぇ」

「すみません、私も自己回復促進魔法(ポカリス)の持続で精一杯です……」

「無理するな、ここまで来たら多少時間はかかっても確実に潰していく方が良い。……シーダ嬢も頑張ってるしな」


 そういうヴェゴーも後衛二人の盾となり、攻撃に参加することが出来ずにいる。シーダは獣化し、ヴェゴーから渡された補給食を摂りつつ、手当たり次第ゴーレムを破壊して回っているが、息切れした途端再び囲まれる。

 攻める側にも関わらず、消耗戦に近い戦いを強いられていた。


 一方、死霊王側はといえば、完全に数で攻める姿勢である。

 個は弱くとも、圧倒的多数で無理やり前線を押し上げてくる。倒されたゴーレムはそのまま土に解けていくが、しばらくするとまた死霊王付近に復活しているようだった。

 これにより、通常なら多数が攻め少数が守る攻城戦とは、全く逆の状況が生まれていた。

 地の利も含め、趨勢(すうせい)は圧倒的に死霊王側に傾いていた。


「……にしても、ほんとにキリがねえな。どうなってんだこれ」

「ヴェゴーさん、ナンさん」

「どう、した、の、かん、ちゃん」

「さっきのお二人の合体魔法、また出来ませんか」

「……やっぱりそう考えるよなぁ。……かんちゃん、シーダ嬢と二人で時間稼げる?」

「……なんとかします!」

「ボクも大丈夫! 耐えるだけなら聖なる障壁(ホーリーウォル)をかんちゃんに強化してもらえば!」

「……じゃあやるか。撃ったら即俺が突っ込む。その後は頼む」

「私も行きます!」


 かんちゃんが間髪入れずに叫ぶ。


「だめだ、ここで二人で障壁を張って、姐さんの回復を待て」

「……大丈夫よ、旦那。シーダちゃんとわっちでなんとか出来るわ。むしろ魔力を使い切った旦那はかんちゃんのサポートが必要でしょ?」

「む……」

「かんちゃん」


 ぐうの音も出ないヴェゴーの横で、ナンがかんちゃんを呼ぶ。


「はい」

「アレ、今が使い時よ。……やれる?」

「! はいっ!」

「アレ?」

「説明してる時間はないわ。大丈夫よ、旦那はいつもどおりで」

「……わかった。じゃあかんちゃん、撃ったと同時に突っ込む準備しといて」

「わかりました」

「がんばってね! ボクもなんとか耐えるから、耐えてる間にあのおっきいのぶっとばしちゃえー!」


 かんちゃんはシーダの声に深く頷き、ヴェゴーを見た。


「覚悟出来てますよ、ヴェゴーさん」

「……いい目じゃねえか」


 ヴェゴーはにやりと口角を上げると、脚を広げて魔力を溜め始めた。


――――


「準備完了っ!」

射出魔法(バリスタ)っ」


 先程と同じく、ナンが発射台を作り、ヴェゴーが腰だめにした拳に魔力を集中させる。

 死霊王はといえば、現れた場所から動く様子は一切見えなかった。


「余裕かましてんじゃねえぞ、死霊王! いっけぇぇえええっ、熱波滑走砲(マグマグナム)っ!!」


 朱色に輝く魔力の砲弾が疾走する。

 それは居並ぶゴーレムを瞬時に溶かし、ぽっかりとトンネルのように道を作りながら、まっすぐ死霊王に向かって飛んでいった。


「いくぞっ!!」

「はいっ!!」


 その後をヴェゴー、そしてフル装備のかんちゃんが全力で走りぬける。


「うおおおおおっ!」

「やあああっ!」


 数秒程の全力疾走。

 そして二人はトンネルを抜けた。


「はぁ、はぁ……。よう、待たせたなぁ、死霊王!」

「マサカ、タドリツクトハナ……」

「そういうのいいですから。ザマンさん、離してくださいよ」

「……」


 死霊王が副腕で掴んでいたザマンを地面に下ろした。


「完全に気を失ってますね……」

「薬でも使ったんだろ。かんちゃん、ザマンの方で支援頼めるか」

「もちろんです。ヴェゴーさん、奥の手出しますから。……絶対に勝ってくださいね」

「了解だっ!」


 かんちゃんがザマンの元に走り込む。

――そして。


「……五重奏(クインテット)展開」

「なんだって!?」


 かんちゃんの鎧から楽器が5つ現れた。実際の楽器よりも小さいが、これまでの笛とは明らかに異なるその楽器達は。


「拡張! 金管(ブラス)合奏形態アンサンブル!!」


 トランペット、トロンボーン、ホルンそしてチューバにスネアドラム。

 金管楽器をそのまま小さくしたような、【概念楽器】とでもいうべき楽器群が、かんちゃんを取り囲むように浮かんでいた。


「五重奏とはな……」

「火、火、風、土、重力属性発動。……進撃行進曲(バトルマーチ)!!」


 かんちゃんが両腕を大きく広げた。

 それに反応して、周囲に浮かぶ楽器が勇壮なマーチを奏で始める。

 すると、ヴェゴーの身体に変化が起き始めた。


「! これはすげぇな……!」


 ヴェゴーの身体が、その魔力が、全ての能力が増幅されているのがわかる。


「えんちゃんと、カ。メズラシイナ……」

「おっと、うちのメンバーに手は出すなよ? ……うっかり本気で消滅させたくなる」


 ヴェゴーの眼がぎらついている。

 勇壮な曲に、闘争本能が刺激されているのである。

 そのヴェゴーは、死霊王の眼の前に立ち、その顔を見上げながら不敵に笑った。


「さて、本番だ。……お前さんのオトモダチにゃ悪いが、手加減してる余裕はねえ。……一気に決めさせて」

「ヴェゴーさん! 上!!」

「もらうぜ……あん? 上?」

「もうひとりの生命反応です! ……くる!?」

「なにっ!」


 死霊王のはるか頭上、生い茂る木の中でも一際高い一本の杉の木。

 ヴェゴーがそこに目をやった時、その上から何かが迫ってくるのが見えた。逆光だからか、黒い塊にしか見えない。


「――……ぃぃぃぃぃぃ……ぃぃぃいいいい――」


 迫るその塊の実体が見えた時。


 ヴェゴーは絶句した。


「やあああっ!! やめてとめてやめてぇぇぇっ!!」

「え、何!?」

「ナンダ? イッタイナニガ」


 ドオォォォォオオオン!!!!

 盛大な音を立て、塊と死霊王がぶつかった。塊はそのまま死霊王を突き抜け(・・・・)

 その真下の地面に激突した。


「……え、なに?」

「お……おま……」

「いてて」

「いててって……」

「グ……」


 かんちゃんが眼を丸くしている。

 それは、この場にいるはずのないモノだった。


「グレイ卿!?」


 通称“スピードジャンキー”。

 シーダ同様、もうひとりのまともに結果を出す冒険者であった。

次回、SS級「死霊王討伐」完結!


これからも応援、よろしくお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ