024 コディラの二人は相性が良い
両手に逆手で持ったナイフを突き出し、ヴェゴーはゴーレムの群れに飛び込んだ。
坂の上で待っていてもキリがない。ならば、こちらが駆け抜ける。
かんちゃんには鎧に掛かった迎撃魔法システム《イヂース》がある。もし坂を上がってきても、通常のゴーレムならばそれで十分対応出来る。
ヴェゴーに躊躇はなかった。
「うおおおっ!」
自分以外の全てが敵。
絶体絶命にも思える状況だが、逆に言えば動くもの全てが攻撃対象である。ある意味“考える必要のない状況”でもあった。
もちろん無傷でどうにか出来るものでもない。実際戦闘開始から、ちょいちょい細かい傷は付けられている。
デタラメに強いとはいえ、ヴェゴーはただの人間である。斬られれば血は出るし、強打されれば痣もつくる。
ただ、その敷居が異常に高いという、それだけのことだった。
ヴェゴーが前の敵を殴りつける。すると拳から伸びている炎を纏った刃が、すぐ隣の敵に斬りつける。
かんちゃんが付与した火属性の刃は、生物で出来たゴーレムの皮膚を焼き切り、焦げ臭い煙を吐いた。
かんちゃんは全属性詠唱可能という特異性を持っている。だが、彼女はまだレベル1の魔法しか使えない。
簡易的な攻撃魔法と属性付与。上手く立ち回れば護身程度には使えるが、戦闘に向いているとはとてもじゃないが言うことは出来ない。
だが彼女の拙い魔法は、ヴェゴーという男を怪物じみた存在に変えていた。
弾丸のように敵のど真ん中に突っ込み、無造作とも言える躊躇のなさで次々にゴーレムを肉塊に変えていく。
その全ての攻撃が、かんちゃんの魔法によって全方位攻撃と化していた。
「うおらああっ!!」
ゴーレムが次々に吹き飛ばされ、斬られ、焼かれていく。もちろんゴーレム達も何もしていないわけではない。手には剣を持つもの、斧を掴むもの、盾を構えるもの、槍を突き出すもの、様々な武器でヴェゴー一人を狙ってくる。
だが、その圧倒的な攻撃力は、そんなゴーレム達の攻撃ごと叩き潰し、斬り伏せ、焼いていった。
「! ギルド長、後ろっ!!」
「お?」
坂の上からかんちゃんの叫び声が聞こえた。次の瞬間、ヴェゴーの背中にゴーレムの持つ両手剣が振り下ろされた。
それを見たかんちゃんは、あらん限りの声で叫んでいた。
「ギルド長ぉっ!!」
「……んのやろおっ!」
振り向きざまにヴェゴーが拳を振り抜いた。剣を振り下ろしたゴーレムは、その一撃で首から上が吹き飛んでいた。
手入れもしていない剣に斬れ味などはない。まして、もともと両手剣は斬るというより“叩き折る”タイプの武器である。
ヴェゴーの背中は、斬り傷どころかジャケットすら斬り裂かれてはいない。
先程の鉄ゴーレムとの戦いで魔力が減っているとは言え、減重力の見えない鎧を身にまとうくらいのことは出来た。
「ギルド長ぉ!?」
「おう、聞こえてる聞こえてる」
「いや、なんで平気なんですか!?」
「へーきじゃねえよ、いてえもん」
「痛いどころじゃないって言ってんの! もう!!」
かんちゃんは完全にエキサイトしているようだった。ヴェゴーはそんな彼女の様子に、心の中ですまん、と謝った。
そんな彼女に、坂を上ってきたゴーレムが迫る。
【敵性物体確認。イヂース起動】
鎧から魔導音声が聞こえてくる。
その直後である。
かんちゃんの着る全身鎧が、一段階膨れたように見えた。その隙間から何か小さな光が多数飛び出した。
自動迎撃魔法は、鎧に込められている魔力を利用している。飛び出した光は、それ一つ一つが小さな砲台である。
常に鎧の周囲に浮かび敵がかんちゃんに近づくと、その行動自体を敵性反応だと判断し、その間合いに入った瞬間、集中砲火を浴びせるプログラムが組まれていた。
「えげつねぇ装備ついてんなぁ……」
そう言いつつもどんどんゴーレムを減らしていくヴェゴーである。
気がつけば半数程のゴーレムが打ち倒され、残りは掃討戦の様相を呈していた。
「ここで取りこぼすと後が厄介だ。悪いがお前ら全員、ここで消えてもらうぜ」
ヴェゴーが脚を大きく開き、腰を落とす。両腕を腰に溜め、気合を入れる。
ともすれば無防備にも見える状態にも関わらず、ゴーレム達はなぜかヴェゴーに手出し出来ずにいた。
ヴェゴーが発する殺気に、かつて生きていた肉体が反応しているのである。
「かんちゃん!」
「は、はいっ!」
「術式変更! 俺に重力属性を追加!」
「はい!」
曲が変化する。
先程まで疾走感のある勇壮な曲を奏でていた三重奏が、今度は重く沈んだ、スローだが重厚感のある曲を奏でていた。
「今はこの程度ですが……」
「じゅーぶんだ。進化したときが楽しみだなこりゃあ……」
かんちゃんからの魔力が上乗せされ、ヴェゴーの全身から青黒い重力属性の魔力が漏れ始めた。
「魔力集中。右腕に全魔力を供給。……ちょっとキツいのいくぞ」
身体を大きく前に倒し、右腕を引き絞る。そして、
「一撃! 粉砕っ!!」
右の拳を大地に打ち付ける。その拳は、ゴォン! と文字通り地響きを鳴らした。
集まっていたヴェゴーの全魔力が大地に吸い込まれた、次の瞬間であった。
「!」
打ち付けた拳を中心に、大地が大きく裂けた。そこにゴーレム達が吸い込まれる様に次々に落ちていく。
裂けた大地の中に送られたヴェゴーの魔力が引っ張り込んでいるのだった。
ゴーレム達は言葉を発することはない。
ただ無言で地面に出来た裂け目に落ちていく姿は、眼の前で起きていることとは思えない光景だった。
(……魔法陣で与えられた疑似人格なのが救いだな)
一方、かんちゃんの方もカタが付いていた。
運良く地面に吸い込まれなかったゴーレムも、結局かんちゃんのいる所まで辿り着く前にイヂースによって消し炭にされていた。
「こっちはこっちでだいぶえげつねえことになってんな……」
「まぁ、魂のある生物じゃない分だけましですけど、あまり見たい光景ではないですね……。っていうかあれ、ほっといていいんですか?」
かんちゃんが、ヴェゴーの作った大地の亀裂を指差した。
それは地面に口を開いたまま、奥の方から魔力の黒い輝きを放っている。
「中の魔力が切れれば元に戻るさ」
「はぁ……」
「ま、とりあえずここはどうにかなった。姐さん達を追うぞ。……ちょっと嫌な予感がする」
「わかりました」
一息つく間もなく、ヴェゴー達は先を急いだ。
ほどなくして先行するナン達に追いついた。
そこで二人は、ヴェゴーの予感が当たっていたのを目のあたりにするのだった。
次回、ナン姐さん達の身に何が……?
これからも応援、よろしくお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°





