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ギルド長は元・最強の冒険者~ポンコツ冒険者たちにブチギレたので、自分達で依頼をこなすようです~  作者: 藍墨兄@リアクト
第一章 死霊王討伐編

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016 ザマンくんは近接もすごいんです

「……あの」

「おう、どした」


 入念にストレッチをするヴェゴーにザマンが声を掛けた。ザマンの顔には困惑の表情が浮かんでいる。


「ヴェゴーさんと勝負っていうのは……」

「ん、近接戦闘な。お前さん、そのクロスボウに仕込んでるんだろ? それ使っていいからな」

「あ、はい。……じゃなくて!」

「なんだよ」

「ヴェゴーさん、戦えるんですか? ギルド長さんですよね!?」

「あー、そういえば言ってなかったわねぇ。その様子だとオルカくんからも聞いてなさそうね」

「あー、そういうことか」


 ヴェゴーは立ち上がり、冒険者免許証を見せる。ザマンは(いぶか)しげにそれを受け取るが、書かれた内容を読むうちにみるみる眼が丸くなっていった。


「げ」

「ん?」

「限定解除ぉ!?」

「おう。だから安心して全力でこい」

「ていうか、現役なんですか!? ギルド長なのに!」

「うちの冒険者がヤカラばっかりでな。前金泥棒やら犯罪者予備軍やらで溢れかえったから、もうクエスト貼り出すのやめて、俺が復帰することにしたんだよ。かんちゃんとナン姐さんはそのとばっちりだ」

「私なんてその場でC級免許発行されましたからね……」

「その場で、て……」


 そんなの出来るわけないでしょ、などと言いつつ何気なくヴェゴーの免許を裏返すと、そこには“冒険者等級認定教導員”と書かれていた。


「あ、えぇぇええ!?」

「そこまで驚くことでもねえだろ。オルカだって同じ様なもんだし」

「いやいやいやいや!! いやそうですけど!! 超級冒険者がこんな近所に2人もいるとか、普通ありえないでしょう!?」

「普通じゃねえからなぁ」

「まぁ普通じゃないわねぇ」

「もはやこれが普通ですよ……」

「なんだこれぇ……」


 しれっと答える3人に、ザマンの開いた口は全開バリバリである。


「さ、納得したところで」

「納得してませんけど!?」


 そんなザマンをスルーして、ヴェゴーは立ち上がって支度をする。腰に革のベルトを巻き、その背中にあるホルスターにナイフを突っ込む。かんちゃんとフィールドワークに行った時に使った、ナックルガード付のナイフによく似ているが、別物だった。


「あ、これ練習用のやつな。ほれ」


 ヴェゴーが刃をぐにぐにと曲げてみせる。


「とはいえ、殴られりゃ痛いし、失神くらいは覚悟だけどな。……じゃあ、やろうか。勝敗の判定は姐さん頼む」

「はーい。かんちゃんは救護班ね。回復魔法用意しておいて?」

「わかりました」


 かんちゃんが三重奏(トリオ)を展開する。洗礼を受けていないため、僧侶の使うような即効性の回復魔法は使えないが、聖、水の属性をブレンドすることで“自己回復促進魔法(ポカリス)”を使うことが出来た。


「即対処すれば、腕くらい千切れててもなんとかなります」

「ちぎれっ……!?」

「要は万全だよってことだ。俺も最近なまってるからな、お手柔らかに……ともいかねえか、まぁ全力で来い」

「……わかりました」


 言うなり、ザマンの雰囲気がガラリと変わった。

 ライトクロスボウの弓を畳み、先端から両刃の剣先を引き出す。ついさっきまで射撃武器だったそれは、今やちょっとした短槍のようになっていた。


「自分で作ったのか?」

「いえ」


 ザマンは警戒心を解かないまま、その槍を構える。

 腰を低く落とし、身体を横にして槍を前に向けている。


「地元の友人が武器職人なんですよ」

「……なるほど」


 会話を交わしながら、ヴェゴーも腰に力を溜める。ぶーちゃんとの戦闘で、ザマンの機動力は目の当たりにしていた。


(立体的にこられると厄介だなぁ……)


「じゃ、やろうか」

「いいんですか、こっちは本物の刃で」

「かまわねえよ、当たらねえし」

「! ……甘く見られたもんですね」

「“始め”の号令いる?」

「……いえ、じっせnうおおっ!?」


 ザマンが言い終わるより早く、ヴェゴーの拳が彼を襲う。正確には、拳に乗せた火属性の魔力の炎を、ザマンに向けて突き放ったのである。


「あっちぃっ!」

「お、避けやがった」


 反射的に避けはしたものの、ザマンの胸元には横一文字に焦げ跡がついていた。完全には避けきれなかったようだ。


「まだだよ」

「!」


 ヴェゴーは今の一発をフェイントとして、気を取られている間にザマンの懐に潜り込んでいた。

 気付いた時には遅かった。

 ザマンはガードが間に合わず、至近距離でヴェゴーのジャブをまともに喰らった。反動で一歩、後ろにステップする。


「ぐぅっ!」

「いくぞー」


 その圧倒的なスピードとパワーに反して、ヴェゴーはのんびりした声で言った。

 ジャブ、ストレート、スイングアッパー、踏み込んでボディにフック。パンチの基本コンビネーションだが、その一発一発が速く、重い。

 どれか一つでも入れば、そこで意識を持っていかれる、暴風のような連打である。

 ザマンはそれを短槍で受けながらバックステップで躱す。その反応の良さに、ヴェゴーは拳速を徐々に速めていく。

 ザマンはたまらず横に逃げるが、その度に狙いすましたかのようなヴェゴーのフックが飛んでくる。どんどん後ろに逃され(・・・)、同時に追い込まれていった。

 このままでは拉致があかないと思ったか、ザマンは思い切って後ろの壁に向かって大きく跳んだ。そしてそのまま壁を蹴りつけ、更に高くヴェゴーの頭上を越えた。


「――おっ」

「しああっ!」


 ヴェゴーの頭上でザマンは短槍を突き下ろす。

 その槍を、ヴェゴーは左手に持ったナイフの刀身で受けていた。


「なっ!」

「甘い!」


 ヴェゴーはそのまま槍を弾く。空中にあるザマンの身体は体勢を崩し、もんどりうって転がった。


「くっ!」

「いいセンスだなぁ」

「……馬鹿にしてっ!」

「そんなことするわけねえだろ。……どうだい姐さん」

「充分ね。キレもいいし、あとパワーさえ付けば、普通に前衛として戦えるわ」

「まだですっ!」


 ヴェゴーと少し距離の離れたザマンは、例の短槍を弓を展開(・・・・)した状態で構えていた。


「……マジか」

「マジです」

「奥の手ってやつか。いいだろ、それが最後だ。……全力で来い」

「……」


(楽しいなぁおい)


 ヴェゴーは、すっかり楽しくなっていた。

 このザマン=フォーミュラという、まだ少年の面影のある、ドン引きする程ファッションセンスのない男の、ドン引きする程の戦闘センスに半ば惚れていたと言っていい。

 この坊主は、どこまで伸びるのだろう。


 一方、かんちゃんに対してもヴェゴーは似た思いを抱いていた。

 ついこの間冒険者になったばかりの少女、カンナ=ドントレスは「全属性魔法使用」という、世界でも恐らく例のない程の特性を持っている。さらに「並列処理」のスキルも高い。これで魔力が一定以上あり、それが世間に公表されていたりしたら、彼女は恐らく生体兵器として一生を終えることになっていただろう。


(かんちゃんの魔力が低くてよかった)

 とはさすがに本人には言えないが、そう感じているのは事実だった。


 ともあれ、今は目の前のザマンである。


「ふっ! ふっ! ふっ!」


 ザマンはヴェゴーを正面から睨みながら、力と気合いを貯めている。余程の大技なのだろう。これをソロで使うとしたら、やられたと見せかけて気をそらし、隙を縫っての起死回生、といったところだろうか。


「おっかねえなぁ……」


 口ではそう言いつつ、ヴェゴーの顔は実に楽しそうだった。


「何してくるのか想像もつかねえってのが、最高におっかねえなぁ……」

「旦那、楽しそうねえ」

「ですね。……子どもみたい」

「ふふ、ああいう所、昔から変わらないわ」


「……きた」


 ぱしゅ、と小さく矢を撃ち出す音がした。ヴェゴーがそれを避けた時、ザマンが一瞬、姿を消した。が、直ぐにヴェゴー視界の左端に現れた。

 再び射撃。命中はせず、ヴェゴーの足元に撃ち込まれる。

 ヴェゴーの意識がそこに向いた瞬間、ザマンはまた姿を消した。


「おうっ」


 今度は右の視界に現れる。更に矢を撃ち込まれるが、今度はヴェゴーの頭上を通り過ぎた。


 次に姿を消した時である。


「いやあああっ!!」

「そこだぁっ!!」


 ザマンはヴェゴーの頭上に現れ、刀身を突き出す。ヴェゴーはそれを、予め分かっていたかのように左のナイフの柄で受け止めていた。

 が。


「!!」


 ザマンはそこから、更に矢を放った。

 超至近距離の射撃である。


 錯覚と認知のタイムラグを利用した、分身に近いフットワークから放たれる射撃。“あえて当てない”ことで動きを固定し、最後の突撃を必殺にする。そこから更にダメ押しの超至近射撃である。

 これを初見で(かわ)すことなどまず出来ない。それはヴェゴーも同じだった。


「旦那!」

「ギルド長! ……って、えええ!?」


「……何者ですか、あんた」

「……あっぶねぇ」


 ヴェゴーは“ダメ押しの一撃”を右手で(・・・)掴んで(・・・)いた。


「はい、そこまで。……だいぶ楽しんでたわね、旦那」

「おう。楽しかったぜ」

「楽しんで、て……」


 ザマンは肩で荒く息をしながら、へたり込んだ。


「本気で、殺るつもりだったのに……」

「そういう気になれるやつは強くなる。……それが見たかったんだよ」

「ちゃんと覚悟の出来る前衛ね」

「まぁ、技もとんでもなかったけどな。あれでベスト8とは、ガーネイ支部もだいぶキテるなぁ……」


 ヴェゴーが呆れる様に呟いた。


「準決勝で俺に勝った人は、そのまま優勝したっす」

「……誰?」

「オルカさんです」

「あー……」

「あー……っていうか何、オルカくんも参加してたの?」

「おとなげないからなぁ、あいつも……」


――――


 ザマンの試練が終わり、4人は店に戻って一息ついていた。未だ疲れの取れないザマンも、かんちゃんの入れたコーヒーを手にしてニコニコしている。


「さて、ザマンくんのテストも終わったわけだけども」

「おう。まぁ不合格の訳がないわな」

「そうねー、しかも今の時代、結構なレアジョブのスカウトっていうね」

「一ついいですか?」


 飲み物を配り終えたかんちゃんがソファに座り、律儀に手を上げた。その様子に悶えるザマンはもはやお約束である。


「戦闘パーティの斥候って、凄い重要な役だと思うんですけど、なぜ廃れちゃったんですか?」

「まぁ、要は必要がなくなったんだよ」

「必要、ですか?」

「そう。例のZ級クエストの討伐対象、通称“魔獣の王(ベヒーモス)”が旦那達に倒されて、その眷属が弱体化してね。簡単に言えば、人間や亜人と、魔獣や悪魔が棲み分け出来る世界になったわけ」

「クエスト自体がだいぶ減ったからなぁ。やつらのほとんどはお隣の大陸だ」

「そういうことね。で、斥候(スカウト)っていうのは、本来露払いだったり、釣り役だったりしたんだけど、その必要性がなくなっちゃったのよ」

「で、あぶれた連中は戦士になったりアーチャーになったりしたんだけどな。……たまぁにいるんだよ、ザマンみたいな、生粋のスカウトってのが」

「生粋……」


 そこまで話すと、ヴェゴーはザマンに向き直り、深々と頭を下げた。


「改めてザマン=フォーミュラ。うちで受けたSS級クエストの助っ人をお願いしたい」

「……え?」

「そうね、あれだけやれるなら、充分戦力よねぇ」

「え、え?」

「“しね”とか書いてごめんなさい。もし出来たら、お手伝いしてもらえませんか?」

「はい!! ……あ」

「よし、決まりな」

「困惑からの誘惑。上手くいったわねぇ」

「私はそんなつもりじゃ」

「え、ハメられたんすか俺!?」


 情けない声を出すザマンに、ヴェゴーはニカッと笑ってみせた。


「じょーだんだよ、じょーだん。とはいえ、助っ人の依頼は本当だ。今夜オルカがここに来るから、その時に正式に依頼したい。……頼めるか」

「……俺は、これまでずっとソロでした。ソロが好きだったわけでもない、ただ俺の戦い方を知ってもらいたかった、その気持ちだけでA級まで来ました。……俺は、ここで初めて、認めてもらえた気がします」


 顔を上げたザマンは、晴れやかな表情だった。


「助っ人の件、こちらこそよろしくお願いします。かんちゃんと同パーティで!!」

「ブレねえなぁ。まぁ、そこは善処するっていっとくわ。……あとな、お前を最初に認めたのはオルカだぞ」

「え?」

「あの子があそこまで人を気にかけるなんて、他にいないものねぇ」

「そういうわけだ。まだ準備は必要だが、よろしく頼むな」

「はいっ!!」


 ヴェゴーはその夜、店に現れたオルカに助っ人の件を正式に申し入れた。その結果、SS級クエスト“死霊王討伐”をクリアするまでの限定で、ザマン=フォーミュラをレンタルすることになったのであった。

ザマンくんが参入し、賑やかになってきました。

……ところで、最初から名前の出てたあいつらは?

次回からはそのへんのお話に入ります!


これからも応援よろしくお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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