014 ザマンはヴェゴーに気に入られます
「で、お前さんあんなとこで何してたんだよ」
「えっ、いや、ああああっしは怪しいものではあああっ」
「……そうかしら?」
「怪しさオンリーですけど……」
ヴェゴー達三人は、店のボックス席でザマン=フォーミュラを囲んでいた。訊くとザマンはランチタイムが終わるまで外で待っていたらしい。
「お、お忙しそうだったので、邪魔になったらいけないと思って……」
「割とちゃんとしてるな」
「で、でもっ!」
ザマンは急に立ち上がり、ちらっとかんちゃんを見てヴェゴーに向き直った。
「外でこっそり窓から見てたらいても立ってもいられなくてランチタイム終わった瞬間に突撃しようかなでも迷惑になったら嫌だな嫌われたくないしでもこんな俺が好かれるなんてこともしあったらいやっほうじゃなくてどうしようでも今がチャンスなんじゃないかとかでもなんかそれもなぁどうかなぁなんて考えてどうしたらいいだろうああこれどうしようかええいままよ中に入ってから考えよううんそうしようと思ってたらオーナーさんに声を掛けられまして」
「怖い怖い怖い」
「あのギルド長を怖がらせてる……」
「だいぶ仕上がってるわねー」
その後なんとかザマンを座らせ、ヴェゴーはモクを取り出し、一服した。
「……で?」
「は、はい?」
「結局のところ、うちのかんちゃんに話があるってことでいいのか? お前さんあれだろ、こないだうちにクエスト流してきたやつだろ? ザマン=フォーミュラ」
「なっ、なぜそれをっ!」
「いや、普通にクエスト依頼主に名前書いてありますから……」
「お前さんのことはオルカから訊いてたしな。ソロだけでA級まで上がったって? 大した腕じゃねえか」
「いやぁそ、それほどでも」
「まぁ組んでくれなかったんでしょうね、その格好だし」
「ごふっ」
かんちゃんの容赦ない一言がザマンにクリーンヒットする。愛するかんちゃんにぶっ刺されたのが余程効いたのか、ザマンは床をのたうち回りながら反論した。
「そ、そんなことないですし!? このファッションは好きでやってるだけですし!? それを理解できないやつらと組むつもりもないですし!?」
「いや、別にお前さんの普段着についてどうこう言う気はないけどよ」
ヴェゴーの言葉に、ザマンはハッとして顔を上げる。その顔は、ようやく理解者に出会えた喜びに満ちていた。
「パーティ戦闘でアーチャーがそんなに目立っちゃいかんだろ。壁役ならともかく、そりゃあ誘いも受けねえわ」
「ごっふう!!」
期待が高まった分余計にダメージを喰らったのか、ザマンは既にのたうつ気力も失ったようだった。
「普通に身を隠せるような服じゃだめなのかしら? 何かこだわりでもあるの?」
「よくぞ聞いてくれましたっ」
ナンの言葉に再びザマンは顔を上げる。
こんどこそ。こんどこそ理解者が……!
そんな表情でザマンは、自信たっぷりにこう言った。
「趣味です!!」
ヴェゴー、かんちゃん、ナンの3人はぽかんと口を開けた。
「……趣味かーならしょーがないなー」
「趣味ならねー」
「趣味ですかぁ……」
棒読み丸出しで言った後、3人は興味を失ったかのようにそれぞれお茶を飲み始めた。
「な、なんですか、いけないんですか! ていうかかんちゃんまで!」
「かんちゃんが一番辛辣だからな。今んとこ」
「取り敢えずガーネイ支部には連絡入れておくから、取りに来てもらいましょうね」
「納得出来ない!」
「……あ、そうだ」
ヴェゴーが思い出したかの様な声を上げ、ザマンを見た。
「そんで結局、お前さん何しにきたの?」
「……あっ」
「忘れてたんですね」
「いやっ、そのっ。……あの、こないだ、お返事いただけたじゃないですか」
「例の“しね”ってやつか」
「ごふっ。……た、確かに辛辣極まりない2文字でしたけど。それでも、直筆でお返事いただけたのが嬉しくて。それで、一言お礼をいいたくて」
さっきとは打って変わってぽそぽそとしゃべり始めるザマン。
ここだけ切り取れば、かんちゃんが悪いようにも聞こえかねない不憫さである。
「……かんちゃん、それまでは揉み消してたからな」
「だって……」
「まぁ、無理もねえけどな。毎日のようにあれだけの数が来てれば」
「そ、そんなに来てるんですか!」
「中にはだいぶひどいのもあってな。お前さんのはまだ可愛い方だ。数以外は」
「……フォーミュラさん、ごめんなさい。毎日の中でもううんざりしてしまって、中身もロクに見ずに破棄してました」
「そ、そうか……。うん、しょうがありませんよ。お気になさらず!」
ヴェゴーとナンは一瞬顔を見合わせた。
その意外なほどの潔さに感心したのである。
「かんちゃん」
「はい?」
「このザマン=フォーミュラって小僧、だいぶエキセントリックではあるが、悪いやつじゃねえらしい」
「まぁ……それは認めますけど」
「そこでだ」
ヴェゴーはザマンの肩を抱き、かんちゃんに向かって言った。
「これからいくつかテストをして、合格だったら例のSS級、手伝って貰おうかと思うんだけど、どうだろうかね? ソロでAまでいくやつなら、上手くパーティに馴染めればSまで行くだけの力はありそうだし」
「……はい?」
「あら、いいわねそれ。どの道1パーティじゃ厳しそうだったし。どうかしら、フォーミュラくん」
「え、てことは、かんちゃんと一緒のクエストやらせてもらえるんですかっ!?」
「合格したらな……と、おいおい」
「やります! お願いします! あと、俺のことは“ザマン”と呼んで下さい!!」
「おおおおう、わわわわかったから離して、揺れる揺れる」
満面の笑みを浮かべ、両手でヴェゴーの手を掴み、ブンブンを握手をするザマンであった。
「オルカにも伝えておくか。姐さん、ガーネイに連絡入れる時に一緒に頼むわ。報酬は人数で割って支払うからよ」
「はーい、じゃあザマンくん」
「は、はいっ!!」
「テスト、頑張って。……死なないでね?」
「は、はい!?」
ナムナムとお祈りするナンとかんちゃん。その横でにこやかにザマンの肩を抱くヴェゴーが言った。
「さて、まずは魔獣への対処だ。地下にいる魔猪のぶーちゃんと対決な! あ、矢は危ねえから鏃を練習用にして、ポイント制な」
「い、いきなりぃぃぃっ!?」
今回は短めでごめんなさい。
これからも応援よろしくお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°





