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1. 甘やかして欲しいです

 



 私がメアに告白されてから、すでに1ヶ月が経過していた。季節はもう夏である。


 あれから、私とメアで話し合っていろいろなことを決めた。学院を卒業したら、正式に婚約者だと周りに発表することとか。学院では必要以上にベタベタしないことだとか。


 そう、つまり、今までと同じだ。告白されて両想いだと分かったのに、告白される前とは何も変わったことがないのである。


 今日は学院は創立記念日でお休みだ。てっきり私はメアとデートするつもりで、誘われることを期待していたのに、結局メアから誘われることもなく、私ばっかり意識しているみたいで恥ずかしかったから誘うのはやめた。


 告白されてから2回デートに誘ったけれど、どちらも貴族としての仕事が入っていて行けないと断られてしまったし。分かってる。仕事だって分かっているけれど、そこにだって綺麗な令嬢はいっぱいいるはずで。


 どうやら今日も貴族としての仕事があるみたいだし、家にいたら嫌なことばっかり考えてしまう。


 という訳で、また今日もルルカとマリア様と、三人で女子会である。



「いやいや、それは2人ともの距離が最初から近すぎたからですって。最初から付き合ってるみたいなものだったじゃないですか」


「それはそうだけど…もっとこうさ!恋人!みたいなのあると思ったもん…」


「その指に輝いている指輪があるだけで十分じゃないの。これ以上何が欲しいのよ…」


「うぅう…学院でベタベタしないのも、全部私のためだって分かってるのに我儘なこと思っちゃうぅ… 」


「まぁ、それが恋ってものですからねぇ」


「リゼって本当にかわいい性格してるわよね…」



 2人に最近の悩みを相談してみたけれど、2人は呆れた顔でこっちを見てくるだけだ。確かに、欲張りかもしれない。でも、私の方ばっかりメアのことが好きなんじゃないかって不安になってしまう。


 メア様を好きでいた頃は、ただただそこにいてくれるだけでよかったのに、この感情が恋に変わってしまってからは見返りを求めるようになってしまった。ダメだなぁって自分でも思うけれど、止まらない。


 とりあえずメアが私のことを好きでいてくれる、それだけでいいのに、想いの強さまで測ろうとするのは贅沢な話だ。


 私はそう思って、注文したアイスカフェラテを飲み込んだ。甘い。うだるような暑さに、冷たいカフェラテが染み渡る。


 ところで、とルルカが話を切り出し、私の悩み相談は終わりを告げ、話題が移った。それにしても、2人がどんどん私の扱いが雑になっているのは気のせいですか、あ、気のせい。そうですか。


 私達が今いるカフェは最近帝都に出来たカフェで、評判の通り飲み物も食べ物も全てが当たりだ。


 ルルカとマリア様が「美味しい〜!」と盛り上がっているときに私の頭に1番に浮かんだのは、「メアにも知らせなきゃ。一緒に来たいな」で、生活全てがメアに浸食されているようで苦しい。


 二次元なら、好きな時に推すことが出来た。それなら私にも余裕があった。でも、三次元になってしまったら浸食は止め処なくて、本当に月並みな言葉だけれど、



「好きすぎて嫌になる…」



 メアもこれぐらい、私で悩んでくれてたらいいのに。


 そう思っていると、



「分かります」



 と、すかさずマリア様から答えが返ってきてビックリした。てっきり心の中でだけ考えていたはずなのに、いつの間にか声に出してしまっていたようだ。


 どこから!?どこから口に出してた!?と思うが、マリア様とルルカも変な顔はしていないから、最後の部分だけ…だと思いたい。



「分かります。とても分かります。聞いてくれますか、いや、聞いてくれなくても話します。聞いてください。

あの、最近ユー様からやっと完全な認知が貰えたんですよ。毎日さりげなく視界に映るところから始めてようやくですよ!!でもでも、ユー様って顔もいいし性格もいいし、地位もあるじゃないですか。それはもう人気者なんですよ!!いやいや、分かります、分かってます。貴族の付き合いとして話すのは普通だし、お仕事だし。ユー様がもっと人気になるためには必要だし。でも、人気なんて出て欲しくない、みたいな矛盾もあって。人気者なユー様が好きなのに、人気者なユー様を見てるのが辛いんですぅ……はぁ」



 まだルルカの話をしているのかと思ったら、すっかりマリア様の恋愛相談に話が変わっていたらしい。私の意見に激しく同意したマリア様は、一息で推しを語りきった。すごい。オタク特有の早口を久しぶりに見た。


 溜息を吐くマリア様に、「幸せが逃げるわよ」とルルカが話しかけたけれど、「今吐いたのは邪気なので大丈夫です」と返していた。強い。


 それにしてもさっきの話は分かりすぎる。

 そう思って、私はカフェラテを飲んで喉の調子を整えてから口を開いた。



「分かる。何で推しのいる世界に転生しちゃったんだろう、有り難いけど辛い…。何、推しなんて好きになる要素しかないじゃん。そもそも顔の時点で優勝してるのに、静止画でも3時間見れるのに、動き出されたら困っちゃうよね…。好きになり過ぎてつらい。いっそ視界に映さないように、とかも思うのに、映り込んでくるからね。顔が良過ぎて」


「わかる〜!!分かります!!リゼさぁああああ…私も幸せになりたいですぅう…」


「マリア様…!!私、マリア様がいてくれてよかったぁあああ…」


「2人とも末期じゃないの……」



 呆れたようなルルカの視線を横目に、私達は熱く抱擁した。やっぱり乙女ゲーム世界で持つべきものは同士。












 と、最初はここまで苦しんでいたのに、人とは慣れるものである。さらに2週間が経った頃には、休日は三人で女子会をすることが当たり前になっていた。


 金曜日。放課後になったら3人で集まって、休日に出かける場所を選ぶのが定番だ。



「明日はここに行きたいのよね。ほら、宝石パフェが有名だと最近噂のところよ」


「わ!私もお友達から聞きました!ここならユー様への交換日記のネタにもなるし、行きたいです!!」


「いいね、じゃあそこにする?」



 今日はルルカが持ってきた、帝都のカフェ雑誌のおかげで行き先がすんなり決まった。


 マリア様は最近、「ユー様に私のことを知ってもらうにはプレゼンをするしかないんです!」と意気込んで、交換日記を取り付けたそうだ。


 彼女の行動力はすごい。いつも、「何書くのが正解ですか!?」とか、「この駄文をユー様に届けるわけには…!」と、数時間推敲して交換日記を書いている様は見ていて微笑ましい。


 そう思いながら、ニコニコと2人の話を聞いると、カフェに入ってきたメアが見えた。今日はメアがここまで迎えに来てくれる約束をしていたのだ。メアは私達を見つけると、少し微笑んで手を振ってくれた。それだけの動作で様になっていて見惚れてしまう。



「あれ、もしかして迎えにくるの早過ぎた?」


「ううん、大丈夫だよ。今日は明日の予定が早く決まったから」


「……明日の予定?また今週も3人で出かけるつもりなの?」



 メアは冷たい声でそう言って、マリア様とルルカを睨んだ。え、え、なんで?



「あのさぁ、遠慮するって言葉知らないわけ?」


「知らないわねぇ?遠慮して、彼女をデートにも誘えない人にそんなことは言われたくないわ」


「〜ッ、こっちが譲ってたら毎週予定いれてくるし、僕に対する嫌がらせのつもり!?」


「いやだって、リゼさん、かわいいんですもん。私達と遊ぶことでリゼさんの気持ちが軽くなればいいなぁって……迷惑でした?」



 突然始まった修羅場に、目を白黒させていると、マリア様が上目遣いで私を見上げた。かわいい。顔がいい。流石元オタク、顔の使い方を分かっている。



「勿論、迷惑な…んぐぅ!?」



 勿論、迷惑な訳なんてない、と答えようとした私の口は、メアの大きな手に塞がれて言葉にならなかった。メアとの距離が近づいて、いい匂いがして、急に脈が早くなる。



「ぷは、メア、こんなことされたら寿命が縮む…!!」


「ごめんね?だって、リゼが迷惑じゃないとか言おうとするから」



 メアは悪いとなんて1ミリも思っていない顔で笑って、死んだ目でマリア様に笑いかけた。マリア様はにこやかにその視線を受け流して笑っている。



「やめてくれない?自分の顔使ってリゼのこと頷かせようとするの。恥ずかしいと思わないの?」


「はいー?メアリクス様だって同じことしてるくせに何言ってるんですか??自分のことはずるいとは思わないんですか?」



 2人とも、ニッコニコである。

 ひぃ…何この空気、2人とも笑っているのに、空気だけがすこぶる悪い。


 もうこんな空気耐えられない。私が。


 そう思って、私はメアの袖を掴んで引っ張った。



「メア、もう帰ろう。それと、明日は10時に待ち合わせで!また明日!!」



 強引にメアを引きずり、2人に手を振ってその場を離れて馬車に乗り込む。



「メア、私の友達に酷いこと言わないでよ!」



 座席に座ったメアに抗議すると、メアは顔を背けて小さな声で呟いた。



「……全然僕に構ってくれないリゼが悪いんだし。やっと僕のリゼになってくれたのに、僕のことほっといて楽しそうなのが悪いんだからね」


「だって、メアは忙しそうだから…」


「たまたまリゼに誘われた日の都合が悪過ぎたの!! 他の日なら強引に予定を空けられたのに……」



 そう言ったメアは、すねたようにそっぽを向いた。そんなメアを見ていると、メアも私のことちゃんと好きでいてくれたんだなぁ、と思って嬉しくなる。



「……ごめんね。絶対次の休日は予定空けるから、今度こそデートしようよ!」


「…どうせまたあの2人と予定入っちゃった、とか言うんでしょ」


「すねないでよぉ……ごめんってば……何でもするから機嫌直して。……ね?」



 確かに、メアのことを放っておき過ぎたかもしれない。あまりに不機嫌そうなメアの機嫌を直すために謝り倒していると、さっきまで不機嫌そうだった顔が一転して意地悪そうな笑顔に変わった。



「…リゼ、ひざ。出して」


「え、え、え?」


「早く」


「は、はいっ!?」



 突然のことにびっくりして、言われた通りに膝の上に乗せていたバッグを下に置いた。すると、メアが私の膝の上に横になり、頭を乗せる。そして、満面の笑みで私を見上げた。



「甘やかして」


「……え?」


「何でもしてくれるんでしょ?

 甘やかされたいの。早くして」


「え、えぇえ…!?」



 待って、これはまさか…また嵌められた!?

 そう気がついた時にはもう遅くて、メアはニヤニヤと笑って私を見ている。全く、私ってばこの顔に弱すぎる…!!


 しかし、膝の上にメアの頭がある以上逃げられない。つらい。やっぱり顔が良すぎるし、私はこの顔に弱すぎる。


 そう思って、私はサラサラなメアの頭を撫でた。



「メアのことほっといてごめんね」


「……ん」


「私、ちゃんとメアのこと好きだよ」


「……知ってる」


「ふふ、髪の毛サラサラだね。羨ましい」


「………んぅ」



 髪を撫でる私の手がくすぐったかったのか、身動ぎをしたメアはそれはもうかわいい。かわいいof the yearがあったら優勝間違いない。



「私もずっと寂しかったから、メアが私で悩んでくれてたらいいのにって思ってたの」



 そう言うと、メアは驚いたように目を開けた。



「…うそ」


「本当だよ。ずっと、私も寂しかったから、その…甘やかされたい、です…」



 メアなら言っても何もおかしくないセリフでも、私が口にするのは恥ずかしい。そう思って、口にしておきながら逃げたくなる。



「いや、やっぱ今のなし!忘れて、メアがそこにいてくれるだけで十ぶ…っ」



 しかし、私の言葉は最後まで続けることができなかった。メアの唇に、口を塞がれたから。



「……へ…」



 待って、嘘だ、え、顔が近い、意味がわからない、好き、しんどい…。


 いろいろな思いが頭を巡って、何も考えられない。それなのに、私から離れたメアはドロリと蕩けるように笑っていた。



「ふふ…かわいい。

 リゼのこと、いっぱい甘やかしてあげる」



 そう言って、また私の口を塞ぐ。さっきまで膝の上にいたはずなのに、すっかり私を馬車の座席に閉じ込めるような体勢になっていた。え、どうしてこうなった?いろいろ考えたいこともあるのに、酸素も足りないし、頭の回転も足りないし、何も考えられない。



 結局私が解放されたのは馬車が屋敷についた頃で、さっきまで不機嫌だったメアは満面の笑みだし、わたしは呆然としているしで、御者さんからの視線が痛かった。


 すぐにでも部屋に引き篭りたかったのに、残念ながら腰が抜けた私は1人では移動出来なかったため、メアがお姫様抱っこで部屋まで運んでくれた。重くないだろうか。毎週カフェ通いしていたことを後悔しそうだ。


 それでもメアは軽々と私を部屋まで運んでくれたから、やっぱり男の人なんだなぁ、と思ってしまう。



「…メア、運んでくれてありがとう」



 私をベッドに下ろしてくれたメアにお礼を言うと、「どういたしまして」と爽やかに笑った。

 そして、私の耳元に唇を寄せる。



「……もう寂しくない?もっと甘やかしてあげようか?」


「ッ…!もういいです!十分です、もう十分です…!!」


「本当に?言ってくれたら毎日、僕なしじゃ生きられなくなるぐらい甘やかしてあげるのに」



 そう言って、クスクスと色っぽく笑っているメアは、もう完全復活である。そして、呆然としている私の耳元に、


「言っておくけど、こんなことするの初めてだから」


 と囁いて耳に口づけ、部屋を出て行った。ダメだ、情報処理が追いつかない。惚けた私に出来たことは、締まったドアを見ていることだけだった。



「……何あれ!!メアのイケメン!!最高!!!色っぽすぎる!!!どこで習ってきたの!!」



 私は、恥ずかしさを隠すように枕に顔を埋めて叫んだ。違う、確かに甘やかして欲しいとは言った。だけど、頭を撫でてくれるぐらいでよかったの!ハグしてくれるだけで十分だったのに。


 貰いすぎたら、しんどいの方が勝ってご褒美どころではなくなる。寂しさがなくなるどころか、吹っ飛んだから…まぁ、嬉しいのだけれど。



「……推しのファーストキス貰っちゃうとかぁ…」



 ヤバイ、言語化したらもっとしんどい。

 言葉だけで1週間生きていける。


 これはもしかして、前世で徳を積みすぎたのだろうか。目についたゴミを拾っていた行動がここに響いているならば、前世の私に土下座するしかない。



「……ッやっぱり大好き」



 二次元みたいに都合のいい時だけ会えるわけじゃないけれど、会えなくて寂しい時もあるけど、メアも私も思ってくれていたのだと分かった私はもう無敵だ。寂しいけど、苦しくなるけど、そのたびに気持ちを確かめていけたらいいなぁ、と思う。



 現実になってしまった推しとの毎日は、苦しくて切ないけれど、メアと出会えてよかったと心から思った。



15000pt突破記念でついつい書いてしまいました…!

楽しんでいただけると嬉しいです。


さらに、【異世界転生/転移ランキング[恋愛]】で、日刊一位を獲得させていただきました!


本当に本当に皆様のおかげです。

応援ありがとうございます!!




こっそりTwitterを始めてみました。

活動報告にリンクを載せてあるので、もしよろしければ覗いてみてください。


皆様の読了ツイート、ありがたく拝見させていただいています…!

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― 新着の感想 ―
書いてくれてありがとうございます。 読んでいてとても幸せな気持ちになれま これからも、幸せな作品をたくさん書いて欲しいです。
[良い点]  マリア様とルルカちゃんの共通の推し  ↳リゼ  なんかもう保護者的な立ち位置ですよね(笑)。  あと、性格が可愛い。 (*´ω`*)
[良い点] 素敵な小説をありがとうございます。 もうこの子ったら、リゼちゃんったら!と応援しながら読ませていただきました。 今や僕もリゼちゃん推しです、公式グッズはいつ出ますか??メルに膝枕されるリゼ…
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