10 ガーベラ王国にて1《ガーベラ王国SIDE》
ガーベラ王国。
六百年前、世界に進行した『赤の魔王』ガルヴェラを祭る邪教の王国である。
その王城――。
「魔獣の封印解除に失敗したか」
王が玉座でうなった。
周囲にいるのは数人の大臣だけだった。
いずれも彼が腹心と頼む重臣中の重臣である。
「はい、アーシアの宮廷魔術師とその使い魔による妨害がありまして……魔族は全滅。それを召喚したこちらの宮廷魔術師は口封じのために暗殺しました」
「ふむ、最悪の事態は避けたか」
重臣の報告に王がふたたびうなる。
「宮廷魔術師――フレイ・リディアといったな。あの『大賢者リディア』の末裔か。使い魔とは英雄の霊体であろう」
「はっ、こちらも魔族や魔獣を配した布陣でしたが、なかなかに手ごわく……」
「よい。そう簡単に行くとは考えておらぬ」
重臣に向かって告げる王。
「しかし、その力――我が陣営にぜひとも欲しい」
「引き続き誘いを続けます」
「うむ。並の魔族ではフレイとその英霊たちには歯が立たんだろうからな。奴をこちらに引き抜くことができれば最上だ」
「御意。全力を尽くします」
言って引き下がる重臣。
と、その前方に突然三つのシルエットが出現した。
「我らの敵を懐柔だと?」
「腰抜けが」
振るわれた剣が、重臣を一刀のもとに切り捨てた。
「謁見の前で流血沙汰は困るな、魔族たちよ」
王は彼らに厳しい視線を向けた。
「なぜ彼を殺した? 優秀な人材が一人失われてしまったではないか」
「なんだ、その態度は。俺たちを咎めているのか?」
「ふん、王だかなんだか知らんが、あまり調子に乗るなよ」
「しょせん人間だろうが」
魔族たちが嘲笑する。
「『青の魔王』の将にとって、私など有象無象の人間と変わらぬか」
王がつぶやいた。
「我らにとって『王』とは『青の魔王』様ただ一人」
「貴様など作戦上、ともに戦っているだけ……ただの人間でしかないわ」
「我らより立場が上だ、などと思わぬことだな」
三人の魔族が王をにらんでくる。
その瞳に、人間への優越感や侮蔑をありありと浮かべて。
(仕方のない連中だ)
王は内心でため息をついた。
「き、貴様ら、王に向かって――」
「よい」
色めき立つ重臣たちに対し、王は片手を上げた。
「彼らの態度は、ある程度仕方がないところがある。魔族に人間を敬えといっても無理であろう」
苦笑する。
「――とはいえ」
その笑みを止めた。
「立場というものをはっきりさせておく必要はあるな。そこをないがしろにすれば我らの共闘関係にも亀裂が生じよう」
「立場をはっきりさせるだと?」
「俺たちにお前に従えと?」
「俺たちが従うのは『青の魔王』様だけだ」
不満げな声をもらす三人の魔族たち。
王は彼らを冷ややかに見下ろし、
「――勇者よ」
静かに告げた。
それが、合図だった。
ざんっ……!
次の瞬間、三人の魔族のうち、二人の首が飛んでいた。
「なっ……!?」
残った魔族が呆然と立ち尽くす。
王の側に、すらりとした長身の青年がいる。
その手には光り輝く剣があった。
「勇者の聖剣『聖神の剣』……そしてその剣技、相変わらずの冴えよな」
「恐れ入ります」
青年は淡々と告げた。






