2 魔獣災害対策
とりあえず、三人から聞いたことを整理してみる。
現状で宮廷魔術師として俺が取り組むべき直近の課題は――三つ。
一、魔獣災害対策
二、魔法学園の定員割れ
三、魔法技術を利用したインフラの整備
そのいずれもが、国内における魔法使いの絶対数が不足している、ということに起因しているようだ。
最終的には、この国を担う魔法使いを増やす――人材育成、って部分を強化していかなければならない。
ただし、魔法使いの数は一朝一夕には増えない。
人材育成は長期的視点で取り組むとして、短期的には現状の人員で事に当たる必要があるだろう。
――というわけで、最初の課題だ。
「じゃあ、まず魔獣災害について考えていきたいと思います。対魔獣結界はどんなふうに運用されてるんですか?」
俺はレミナさんにたずねた。
「あの……その前にいいですか?」
と、レミナさん。
「なんでしょう?」
「フレイ様は私たちの上に立つわけですし、私のことは『レミナ』で結構です。敬語も不要ですよ」
うーん……新入りの俺が先輩のレミナさんを呼び捨てタメ口でいいんだろうか。
けど、地位的には俺の方が上だし、そうするべきなんだろうか。
今までは平の地位だったから、今一つピンとこない。
「とりあえず私に対してはそうしてください。ね?」
「……分かりました」
「フレイ様、敬語不要ですよ。ふふ」
「あ、そうだった……」
頭をかく俺に、レミナさん──レミナがくすりと笑う。
可愛らしい笑顔に、ほっこりとした。
「大将、レミナに対してタメ口なら、俺らにもそうしてくれや」
「さんせーい。フレイくんはあたしたちのリーダーだし」
ボルテックさんとキキさんが言った。
「俺らもその方が話しやすいしよ」
「だね」
「うーん……じゃあ、そうするか。俺に対しては、ボルテックもキキも今の話し方のままでいい。レミナも話しやすいようにしてくれ」
「私は今のままで」
微笑むレミナ。
「じゃあ、あらためて――魔獣災害について話し合おう」
俺は三人を見回した。
「話を戻すが、対魔獣結界はどんな感じで運用しているんだ、レミナ?」
「実は──まともな結界は存在していません」
レミナが言った。
「えっ? じゃあ、どうやって魔獣を防いでいるんだ?」
「防ぎません。魔獣が現れたら、辺境に住む者は安全地帯までひたすら逃げます……」
レミナは沈痛な表情だった。
「いちおう国境の守備隊はいますが……基本的には、他国の侵入に備えての兵力です。魔獣相手に損耗するのはできるだけ避ける──という方針ですので」
「なるほど。魔獣に対しては防備ではなく避難……というのが、アーシアの魔獣対策というわけか」
大国では考えられないことだが、魔法文明があまり発達していない国の場合は、そうなのかもしれない。
「……呆れましたか、フレイ様?」
「えっ」
「キラルでは国の外周全体を対魔獣結界が覆っているのでしょう? 国民は魔獣の襲撃を恐れることなく、平和に暮らしていると聞きます」
「ああ」
ちなみにその結界は、俺の先祖が作ったそうだ。
『国の外周全体を覆う』という膨大な範囲の結界を、英霊たちを活用しながら作成し、その後も数十年かけて延々と強化を続けた。
おかげで、今のキラルは魔獣災害から無縁なはずだ。
まあ、結界のメンテナンスをしていたのは英霊だから、今後は少しずつ結界が傷んでいくかもしれないが……。
「異界の魔獣は一定期間暴れた後、また元の異界に戻っていくことがほとんどです。なので、それまではひたすら彼らが暴れるのに任せ、時間が過ぎるのを待ちます。情けない話ですが、それが我が国の魔獣対策なのです」
レミナは悲痛な表情だった。
きっと、彼女自身この方策に完全に納得しているわけじゃないんだろう。
心情としては、きっちり退治して、住民に安心と安全を取り戻したい……そう考えてるんじゃないだろうか。
「現在、魔獣に襲われている町はあるのか?」
「はい、三つほど──王国西部の第九街区、第十三街区と南部の第五街区です」
答えるレミナ。
「住民の避難状況はどうだ?」
「いずれも完了しています。幸い、死者数はゼロです。若干の負傷者がいますが……」
「そうか。そいつは不幸中の幸いだな」
俺はうなずき、立ち上がった。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「行く? どこにですか?」
「魔獣退治だ。俺が英霊を使役して順番に倒してくる」
もちろん俺が直接行かなくても、自動召喚の設定を変え、オートで索敵、迎撃できるようにすれば、それで解決する。
だけど、俺としては直接この目で見てみたかった。
この国が魔獣に対してどう立ち向かっているのか。
その現場を見たうえで、今後の魔獣対策をやっていきたかったのだ。
「えっ? い、今からですか」
レミナは驚いた顔だ。
「避難している人たちが元の町に帰れるように、ちょっとでも早い方がいいだろう?」
「ですが、たった一人で──」
「平気平気」
「ま、待ってください。私も行きます!」






