10 使者
俺を、自分の国に迎える――だと?
「――仰る意味が分かりかねます。私を『お迎えしたい』とは?」
俺は彼らを見つめた。
「しかも、事前の連絡もなしに突然押しかけるとは。いささか礼を失しているのではありませんか?」
「礼を失する? はっ」
「アーシアごとき小国に我らが礼を尽くす必要があるとでも?」
彼らが嘲笑した。
確かに彼らの国――ガーベラは大国だ。
だからといって、礼儀も何もなしにいきなり押しかけていいということにはならない。
「……なるほど。ならば、こちらも礼を尽くす必要はなさそうだな」
俺は表情を険しくする。
「それよりも先ほどの話を進めさせていただきたい」
「フレイ殿、我らはあなたを迎えに来たのだ」
「あなたの能力を、我が国は高く評価しているゆえに」
「俺の能力を、ガーベラが?」
ジロリ、と奴らをにらみつけた。
「ほう。我らの素性を知っておいでか」
「それくらいは見抜けるさ」
もちろん俺自身の眼力じゃなく、グレイスに教えてもらった情報なんだけど、ここはハッタリを利かせておこう。
「あいにく、俺はこの国に仕えている。鞍替えするつもりはない」
「我らが王からの直々の誘いを断る気か」
「誰の誘いであってもだ」
俺は彼らを見回した。
「では、力ずくで来ていただきましょうか」
彼ら五人がいっせいに右手を突き出す。
「フレイ殿を拘束しろ。そっちの女は始末して構わん」
「了解」
「いや、なかなかの上玉だぜ。始末するのはもったいないな」
「へへへ、まったくだ」
下卑た笑いを浮かべる連中。
ポウッ……!
突き出した手に、魔力の光が宿る。
刹那、
「――麻痺雷」
静かな声が響き、空中から現れた稲妻が彼らを打ち据えた。
「がっ!?」
「ぐあっ!?」
いっせいに倒れる彼ら。
「命に別状はありません。しばらくは動けないでしょうが」
前方に黒衣の魔術師が出現した。
「ご苦労だった、ハーヴェル」
「ご無事で何よりです」
俺が指示を出すより早く、自動召喚で現れた『漆黒の魔術師』が恭しく一礼する。
彼が放った一撃は、男たちを戦闘不能にしつつ、それ以上のダメージは与えていない。
あいかわらず見事な手並みだった。
「さて、お前たちの狙いを教えてもらおうか」
俺は彼らの前に立った。
「狙いも何も……さっき言ったとおりだ」
彼らのリーダーらしき男がうめく。
「私たちはお前の力を欲している。ガーベラ王国繁栄のために……」
「お前が力を示せば、相応の地位を与えられよう。あるいは王族になることだって――」
「かつて国を追放されたお前が、王族にまで上り詰めるチャンスだぞ。こんな小国でくすぶっている場合ではあるまい」
「――あいにく、俺は今の生活が気に入っている」
彼らを見下ろす俺。
気持ちは冷ややかだった。
「たとえガーベラがどれだけの待遇を示そうと、俺の心は動かない。俺は、この国で生きていきたい」
「利より情を取るというのか……愚かな」
「愚か者でもいいさ。帰って伝えろ。俺はお前たちの元には行かない、と」






