5 町の人たちから感謝される
『主か、ガドローアだ』
空中に女性の声が響く。
俺のスキル【全自動・英霊召喚】に付随する効果の一つ――『通信魔導回線』。
念じることで、遠距離にいる英霊とまるでその場で話しているかのように通信することができる力だ。
『聞こえるか?』
「ああ、聞こえている。魔獣の暴走を止めてくれたみたいだな。ありがとう」
『ふん、久しぶりの出番がこの程度では物足りないな』
「いや、300体以上の魔獣がいたんだろ? 普通のテイマーなら数百人呼ばないと止められない単位だぞ、それ」
俺は呆れ気味に言った。
あいかわらず……というか、英霊たちの能力は桁が違う。
『私を誰だと思っている? 300体どころか1000体だろうと、私一人で従えてみせる』
「まあ……お前ならやりそうだな」
俺はさすがに苦笑する。
「とりあえずモンスターについては、近くの森に返してやってくれないか?
それとモンスターの様子はどうだ? 反抗する気配はないのか?」
『──うむ、そうだな』
ガドローアは何事かを考えるように一拍置いて答え、
『どうやらこのモンスターたちは強烈な瘴気を浴びているようだ。その影響で凶暴化したのだな』
「瘴気?」
――少し引っかかった。
瘴気とは、主に魔族などが放つ悪の気だ。
この辺りに魔族でもいるというのか?
『私がテイムする際に、同時に浄化しておいた。もう問題ない』
瘴気のことが気になりつつも。ガドローアの報告に意識を戻す俺。
「じゃあ、モンスターはもう凶暴化しないのか?」
『しない。新たな術者が何かしない限りは』
「分かった。じゃあ、いったん近くの森に返してやってほしい。無意味な殺生は控えたい」
『主ならそう言うと思ったぞ』
ガドローアはクスリと笑ったようだった。
『了解だ。モンスターはすべて元の居場所に戻してやる』
「本当にありがとう、ガドローア。お前のおかげで町が──そして大勢の人間が救われた」
『私は自分の役目を果たしただけさ』
クールに告げて、ガドローアは通信を切った。
後は彼女が上手くやってくれるだろう。
「ありがとう、フレイさん!」
「あんたはこの町を救った英雄だ!」
「ありがとう、ありがとう!」
町の人たちから感謝の声が上がる。
みんな、笑顔だった。
彼らはガドローアがスタンピードを収めるところを見ていたそうだ。
そして、彼女が俺のところまで戻ってくるのを見て、使い魔だと考えたのだろう。
「──ありがとう、ガドローア」
解決してくれた英霊に礼を言う。
と言っても、彼女がスタンピードを収めたことを知ったのは、後からそう報告されたときだ。
英霊たちの行動を、俺が縛ることはできない。
あらかじめ行動の指針を定めることはできるが、俺が自発的に呼び出したり、命令したりはできないのだ。
とはいえ、その力は絶大。
そして、いつだって的確だった。
俺はあらためて町の人たちを見つめる。
彼らが喜んでくれるのが嬉しい。
こんな感覚は久しぶりだ。
思えば、キラル王国にいたころは英霊の力をほとんど封印して、ひっそりと過ごしていた。
圧倒的な力を振るうことで、他者から受ける嫉妬、やっかみ、あるいは憎しみ、恨み……そんなものを恐れていたのかもしれない。
「今思えば──がんじがらめだったな」
人間関係のしがらみで窮屈だった。
でも、今は違う。
みんなを助けるために、何者も気にせずに全力を出すことができた。
「俺が本当に求めていたのは、こういうことだったのかもしれないな……」
「ほう、推薦状ですか?」
俺は町長さんと面談していた。
スタンピードを解決した礼を言われた後、その話になったのだ。
「はい。ここに来る前に立ち寄った村で、王国への推薦状を書いてもらいました。私は今、就職活動中でして……」
今までの経緯を軽く説明する。
「なるほど、そんなことが……」
町長さんがうなった。
「では、私の方から王都に連絡しておきましょう。フレイさんが王宮に行けば、すぐに話が通じるようにしておきます」
「それは助かります」
推薦状だけあっても、手続き関係でまた時間を取られるからな。
先にその辺りをクリアしてもらえると、俺としては非常に楽だ。
そういう事務手続きってあんまり得意じゃないし、俺。
ほとんどノープランで国を出てしまったけど、案外スムーズに再就職が決まるかもしれない――。






