4 魔王ガルヴェラ2
「かつて汝が相対した我は――魔王神によって変異させられた姿。その間の記憶もおぼろげだが……勇者と相打ちに近い状態で魔界に帰った後、我は魔王神による『洗脳』を解かれた。そして真の姿に――現在の、この姿に戻ったというわけだ」
「操られていたから、自分は悪くないというのか」
メーヴェが魔王をにらんだ。
「罪の所在については人間たちの判断にゆだねる。ただ、我自身に侵略の意思はない、ということを説明したかっただけだ」
「一つ聞いていいか?」
俺が魔王を見つめる。
「この間、少し離れた場所で魔獣のスタンピードがあった。魔獣たちは大量の瘴気を浴びていて、それが原因で暴走したようだが――あれはお前の瘴気にあてられた、ということか?」
「可能性がある。我が原因かは分からぬが……そうであれば迷惑をかけた。謝罪する」
魔王は意外なほど素直に頭を下げた。
「対応策としては――そうだな、この空間から瘴気が漏れないように空間障壁の構成を変えよう。これでよいか?」
「……ああ」
うなずく俺。
どうもガルヴェラは一般的な『魔王』という印象からは、少し離れた人物像だった。
普通に話が通じるようだし、こちらの要望も汲んでくれる。
「対応に感謝する。腰を折ってしまったが、そちらの話を続けてくれ」
「では、先ほどの続きだ。我を殺そうとする魔族が現れるかもしれぬ。魔王であったころから、反目する氏族がいくつかあってな……魔王を退いた今、彼らが我を狙う可能性は低くない。たとえ、この人間界に近い場所に住んでいても――魔界から追いかけてくるかもしれない」
魔王が言った。
「そこで要望だが――我は汝と同盟を組みたいと思っている」
「同盟?」
「汝には英霊たちを召喚するという強大な能力があるのだろう? それを使って、我を守ってほしい」
「俺たちのメリットは?」
単刀直入に聞いた。
「我も眷属すべてを率いて、汝らを守ろう。たとえば、魔獣から。あるいは敵対する人間から」
「お互いにお互いを守る、か」
それ自体はこちらにもメリットがある。
だけど――、
「魔王に国を守ってもらう、っていうのは、他国から見れば『魔族と手を組んでいる』と見られる危険がある」
「……同盟は難しい、と?」
魔王の問いに、俺は沈黙した。
彼女は『魔獣から人々を守る』と言った。
それ自体は魅力的な提案だ。
アーシア全土に対魔獣結界を敷き終えるのに、いったいどれくらいの年月がかかるか分からない。
国の規模は違うが、俺の先祖はキラル全土を守る結界を敷くのに年単位の時間を費やした。
その間、人々を襲う魔獣とどう対処するか……というのは、頭の痛い問題だ。
魔王がいれば、その辺りを一気に解決できる――。
「さっきの提案だけど、この国を中心とした近隣諸国も含めて、魔獣から人々を守ってもらう――ということはできるか?」
「何?」
「アーシア一国だけを魔王が守る、というのは、いかにも『この国と魔王が手を組んでいます』と言わんばかりだからな。けど、他の国も平等に守ってくれれば、そう見られる危険はなくなるだろう」
「……ふむ。ならば、汝らの国を含む十ほどの国を守るとしようか」
「ああ、十分だ。人間同士の争いについては関与しないでくれ」
「承知した」
「見返りに――俺はお前を守ればいいのか?」
「他の魔族が我やこの場所を狙ってきたとき、増援を依頼したい」
「……分かった」
「お前たちはどうだ? 何か意見はあるか?」
「私は主に従うのみです」
「俺は難しいことは分かんねーよ」
「魔王と協力するというのは……個人的には複雑ですが、主に従いますわ」
ハーヴェル、ゴル、スカーレットの三人が言った。
「他の英霊たちも異存ないか?」
空中に向かって呼びかける。
特に反対意見を言う者はいなかった。
後は――メーヴェだ。
「お前の意見を聞かせてくれ、メーヴェ」
英霊の中で、もっとも魔王と因縁がある彼女にたずねる。
「あたしは――」
メーヴェが口を開いた。






