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1 俺の修行、最終段階




 ゴルたちを地上に送り出してから再開した俺とアレクシアの修行は、いよいよ佳境を迎えようとしていた。


 ヴ……ンッ。


 うなるような音を立てて、アレクシアの前方に青い球体が出現する。


「それは――」

「私はこれを『星の宝珠(アースコア)』と呼んでいる。『異空間通路』の出入り口を具現化したものだよ。普段の【全自動・英霊召喚】はこれの簡易版を使っている」


 確かに、どことなく普段の光球に雰囲気が似ていた。


「言い換えれば、これは正式な【全自動・英霊召喚】用の扉とも言えるね」

「正式な……」

「まず君にこの『星の宝珠』を作ってもらう」


 アレクシアの言葉に俺は息をのんだ。


 俺にも――こんなものが作れるんだろうか?


「いや、そう身構えることはないよ。たぶん君ならそう難しくない」


 アレクシアが笑った。


「言ったろう。君には力があると。作り方は――ただイメージするだけさ」

「イメージするだけ、って言われても……」


 随分とアバウトな教え方だ。


「君は普段、【全自動・英霊召喚】を発動するときに、どういうイメージをしている?」

「この術式は『全自動』なので……特に何もイメージしてないですね」

「じゃあ【全自動・英霊召喚】の術式の一部を手動に切り替えたときは、どうかな?」

「そのときは――召喚したい英霊の姿を思い浮かべています」

「同じ要領で、心の中にこれと同じ球体を思い浮かべるんだ」


 俺はアレクシアが作り出した『星の宝珠』をあらためて見つめる。

 青く美しい宝石のような球体を――。


 ヴ……ンッ!


「うわ、本当に出た……」


 俺の前方にはアレクシアが作ったのと似たようなデザインの光球が出現した。

 だけど、色が違う。

 アレクシアの光球は青だが、俺のは赤だ。


「君のは、まだ不完全だね。それを完全な『星の宝珠』に変えることができたら合格だ」

「えっ……?」

「やることは簡単だよ。シンプルな力比べさ」


 言うなり、アレクシアの光球が近づいてきて、俺の光球に衝突した。

 その瞬間、俺の全身にすさまじい衝撃が走った。


 肉が、骨が、きしむ。

 体がバラバラになりそうな感覚。

 全身を押しつぶされそうな感覚。


「ぐ……ぉぉぉぉぉおおおおおおおおお……あ……ぁぁ……っ、あああああああぁぁぁぁ……っ!?」

「どうした、もっと魔力を高めてみろ! 君の光球に私の光球を跳ね返すほどの力が宿ったとき、君だけの『星の宝珠』が誕生する!」


 アレクシアが叱咤する。


「こ、これが精一杯……」

「違うね。君は自分で自分に限界の壁を作っているだけだ。もっと自分を信じてみろ」


 アレクシアが俺に語る。


「君は今まで何もしてこなかったのか? いや、違う――」

「うぐぐぐ……くぁぁぁぁ……」


 痛みがさらに増す。意識が薄れる。


 そんな中、アレクシアの声だけが俺の耳に届く。


「『赤の魔王』との戦いでは、己の限界を超えた魔力で英霊たちを使役し続けた。『青の魔王』の配下との戦いでは、最適な英霊を選び出し、戦術を立てて勝利に導いた」

「ううう……ぅぅぅ……」

「君には――英霊たちを『導く』力があるのさ」


 俺の、力……?


「今よりも、もっと――それを身に付けるんだ」

「う、あぁぁぁぁぁぁっ……!」


 その瞬間、俺の中で何かが弾けた。




 シュウウゥゥゥゥゥ……ンッ!




 俺の光球が赤から青へと変化する。


「できた――」


 体力と魔力をごっそり吸い取られたような疲労感と、そして充実感があった。


 俺の中に、新しい力が芽吹いているような感覚――。


「それはね、私たちが生きている世界の姿なんだ」


 アレクシアが言った。


「この球体が……?」


 世界は、こんな形をしている……のか?


 美しい、と思った。

 光球の表面をよく見ると、青一色ではなかった。雲と大陸、海が描かれている。


「『星の宝珠』――か」

「ふふ、かなり際どかったけど、新たな段階へと至ったようだね」


 アレクシアが平然と笑っている。


 彼女は今のを『力比べ』だと言っていた。おそらく俺と同じだけの負荷が彼女にもかかっていたはずだ。


 にもかかわらず、汗ひとつかかずに涼しげな顔をしているとは――。


「やっぱり……化け物ですね、あなたは」


 俺は小さく苦笑した。


「君もね。さっき瞬間的に放出した魔力は、私を上回っていたよ。大賢者と呼ばれた、この私を――どうやら、リディア家で歴代最強の魔力を持つのは君のようだ」


 アレクシアが微笑みを返す。


「そんな、最強なんて――」

「自信を持て、フレイ。君は……強い。その強さは私との修行で磨かれた。後は君が自覚を持つことだ。『俺は強い』『最強だ』と――その事実を背負えるだけの、心の強さを持て」

「心の、強さを……!」


 俺はグッと拳を握り締めた。


「頼もしい子孫に出会えて私も嬉しい。さあ、そろそろ修行は終わりにしようか。君の大切な仲間たちが待っているよ」



 そして俺はメーヴェたちと合流し、地上にたどり着いた。


『青の魔王』配下の六魔族相手に、かなり劣勢だったようだ。危ないところだったけど、どうにか間に合ってよかった。


「ここからは俺たちでやる」


 今まで地上でがんばってくれたゴルたちに感謝し、俺は六体の魔族を見据えた。


「お前たちか……以前に戦った者もいれば、初顔もいるな」

「リディアの当主、それに英霊たちか」

「以前に戦った者もいれば、初顔もいるようだな」

「だが、どんな英霊を連れてこようと我らの敵ではない」

「我らは以前とはまったく違うのだからな」

「そう、『青の魔王』様の【強化】により、魔王クラスに準ずる力を手に入れた――」

「へえ、魔王に準ずる?」


 メーヴェがいつも通りに勝気に笑い、前に出た。


「パワーアップしたのはお前たちだけじゃないんだ。主、あたしたちにも【強化】を!」

「分かった。他のみんなも、いくぞ」


 俺はメーヴェ、ハーヴェル、レオン、ブレイザー、スカーレット、ガドローアの六体を見回す。


 シュウウゥゥゥゥンッ!


 俺は『星の宝珠』を呼び出し、精神を集中させた。


「【全自動・英霊召喚】――第二術式展開。英霊たちの【実体化】を再設定。『筋力』を定義。『敏捷』を定義。『魔力』を定義。『生命力』を定義。『攻撃力』を定義。『防御力』を定義。『幸運度』を定義――」

「な、なんだ、その術式は……!?」


 六魔族が驚きの声を上げる。


「リディアの当主が使う力は、ただ英霊を召喚するだけではないのか――」

「新しい力を身に付けたのさ。お前たちと戦うために」


 そして、俺は第二術式を完成させる。


「【英霊新生強化(ヴァルフレーム)】!」


 メーヴェたち全員の体を黄金の輝きが包みこんだ。


「ふふ、みなぎるぅっ!」


 喜びの声を上げたのはメーヴェだ。


「メーヴェとかいう女の魔力が、以前とは桁が違う……!」

「他の魔術師もだ! 魔王クラスに匹敵するほどの異常な魔力だぞ……!」

「魔術師だけじゃない、剣士の連中も――信じられんほどの威圧感が……」

「馬鹿な、『青の魔王』様の側近である俺が……き、恐怖で震えが止まらん……!」


 六体の魔族はいずれも激しくうろたえているようだ。


「――討て」


 俺の指示に英霊たちがいっせいに動いた。


「ちいっ」


 六魔族は迎撃態勢をとるが――遅い。


 メーヴェの火炎が魔族アイゼルを焼き尽くす。

 ハーヴェルの黒い光弾が魔族クレスタを消し飛ばす。

 レオンの聖剣が魔族ズィーラーをバラバラに切り刻む。

 ブレイザーの闘気剣が魔族ベルンザードを真っ二つにする。

 スカーレットの魔法が魔族レッチェを浄化し、消滅させる。

 ガドローアの【テイム】が魔族ザインを操り、自分で自分を破壊させる。


 すべて瞬殺だ。以前は苦戦の末にようやく倒した相手――しかも以前より強くなった相手を。


 どうやら俺の強化は想像以上に効果を発揮しているようだった。


「これなら――いける」


 魔獣サイフォスや、ガーベラ王と英霊たちにも、きっと勝てる――。


「ゴル、みんな。ご苦労だった。お前たちのおかげで本当に助かった。後は休んでいてくれ」


 俺はサイフォス・ブランチと戦った英霊チームをねぎらった。


「サイフォスの本体は俺とメーヴェたちで片付けてくる」




 呼び出したジルに乗り、俺たちはサイフォス本体のいる場所までやって来た。


 到着したところで、ジルにはいったん戻ってもらう。


 残ったのは、メーヴェ、ハーヴェル、ルーファス、レオン、ブレイザー、ジュリエッタ、スカーレット、ガドローア、リリアナ――全部で九体の英霊たち。


「あれが――」


 俺は息をのんだ。


 実際に目にした紅蓮魔獣サイフォスの存在感は圧倒的だった。


 全長数キロにも及ぶ巨体は、俺が今まで見たどんなモンスターよりも巨大だ。その全身から吹き付ける魔力が熱風となり、周囲に渦巻いている。


 あんな巨大な敵を、本当に倒せるのか――。

 戦慄がこみ上げる。


「主、あたしたちがいるよ」


 メーヴェが俺に寄り添った。


「私たちの力、存分にお使いください」

「そういうことだね」


 ハーヴェルやレオンが言った。


 他の英霊たちも闘志に満ちあふれていた。誰一人として臆する者はいない。


「ほう、随分と力を増したようだな」


 そのとき、サイフォスの頭上から声が響いた。


「っ……!」


 押し寄せるプレッシャーでゾワリと全身が粟立つ。


 不安か、緊張か、それとも恐怖か――。

 どれともつかない強烈な悪寒や震えが体中を駆け巡る。


「あれは――」


 見上げると、魔獣の額の部分にきらびやかな衣装と王冠を身に付けた男が立っていた。


 ガーベラ王だ。

 あの様子だとサイフォスをコントロールしているらしい。


 だけど、この威圧感は以前の比じゃない。サイフォスを従えていることで、ガーベラ王自身の力も増しているのか――。


「もしや、余と同じ【強化】の術式を修めてきたか? リディアの当主よ」

「ああ。あんたを止めるためにな」


 俺は真っ向からガーベラ王を見据えた。


「ならば、勝負といくか。どちらが英霊を使役する者として優れているか。王としてではなく、一人の魔術師――召喚術師として」

「今度は、負けない」


 俺が王をにらみつけた。


「俺も、英霊たちも――もう負けない!」

「試してやろう。【英霊召喚】」


 王の周囲に五人の英霊が出現する。


 勇者エルヴァインや魔術師レナたち――メーヴェがかつて所属していた勇者パーティだ。


「レナはあたしがやるよ」


 メーヴェが言った。


「俺がかけた【英霊新生強化】は、あと三十分くらい持つはずだ。今のお前たちならきっと勝てる」


 俺は自分の英霊たちを見回した。


「なら、僕はあの勇者を倒す」


 と、前回敗れたエルヴァインを見据えるレオン。


「まずガーベラ王の英霊たちを無力化してくれ。それから王を抑え、サイフォスを掌握、もしくは撃破する」


 俺は英霊たちに指示を出した。


 そして、決戦が始まった。

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