4 漆黒の魔術師と紅の聖女
と、グレートボアがこちらに気づいた。
ごうっ!
いきなり炎を吐き出してくる。
鉄をも溶かす火炎――強力な遠距離攻撃だ。
「ひっ」
レミナが短い悲鳴を上げた。
バシュッ……。
炎は空中でいきなり消滅した。
「今のは――」
攻撃魔法で相殺しても、防御魔法で弾いても、どちらにしても周囲に爆炎がまき散らされるはずだ。
「完全に同質同量の炎を生み出し、消滅させました」
こともなげに告げるハーヴェル。
が、初見で魔獣の炎とまったく同じ質、熱量の炎を瞬時に魔法で生み出すなど――異常なまでの呪文制御能力と精度だった。
「あいかわらずだな、ハーヴェル……」
戦慄する俺。
「町を破壊せずに、奴を倒してほしい。頼めるか」
「主の仰せのままに。全身全霊を尽くします」
うなずき、ハーヴェルは長大な杖を構えた。
ぐるるる……!
グレートボアが突進してくる。
距離を詰められれば、魔術師のハーヴェルに勝ち目はないだろう。
刹那、
「【螺光黒牙弾】」
ハーヴェルの杖から黒い光弾が放たれた。
螺旋状に突き進んだ光弾がグレートボアに命中する。
ぐが……が……ぁ……。
悲鳴とともに、魔獣は倒れた。
近づくことさえ、させない。
さらに周囲の家屋には傷一つ、焦げ目一つない。
攻撃力が強いわりに爆破範囲が極端に狭く、対象だけを破壊する呪文を選んだのだ。
ハーヴェルの完勝だった。
「完璧だ、ハーヴェル。被害をゼロに抑えた」
「主の命を遂行するのが、私の仕事です」
ハーヴェルがクールに告げる。
その頼もしさに満足し、俺はうなずいた。
「よし、次の場所に行こう」
次は西部の第十三街区。
ここで暴れているのは、ジャイアントアームだった。
全長五メートルくらいの手の形をした魔獣である。
手のひらのところに巨大な単眼があった。
その単眼が俺たちをジロリと見る。
確か、こいつの能力は──。
ヴ……ン!
単眼が妖しく輝いた。
その瞬間、
「【聖神甲盾】!」
突然、防御呪文が発動した。
発動したのは、俺ではない。
自動的に召喚された英霊による呪文だ。
次の瞬間、俺たちの前面でバチィッとスパークが弾けた。
「お前は――」
「『紅の聖女スカーレット』でございます、主様」
赤い僧衣を来たシスターが一礼する。
二十代半ばくらいだろうか。
二つ名の通り、赤い髪を長い三つ編みにした美女だ。
「俺の即死魔法を無効化しただと……!?」
ジャイアントアームが驚きの声を上げる。
「邪悪なる呪文は、わたくしには通じません。最高神の加護を得たわたくしの前では――」
スカーレットが右手をかざす。
「邪悪なるモンスターよ、浄化いたします」
あふれる白光。
ジャイアントアームは絶叫とともに無数の光の粒子となってはじけ散った。
……浄化っていうか、普通に消滅させている気がするが。
「悪しき部分を消し去ったのですわ。これであのモンスターは清められました」
俺の内心が聞こえたかのように、スカーレットが微笑む。
「決して野蛮に消滅させたわけではありませんわ。ご理解いただけたでしょうか?」
「あ、ああ」
違いがさっぱり分からんが……。
「では、わたくしはこれにて。ごきげんよう」
そのまま引っ込んでしまった。
まあ、ともあれ――。
「いったん帰るか」
「す、すごい……すごすぎます……あっという間に二体の魔獣を倒してしまうなんて……」
レミナは呆然とした様子だった。






